コーポレートブランド刷新の意図とスポーツ事業の展望--ミクシィ木村社長に聞く - (page 3)

「TIPSTAR」や競輪場運営で公営競技市場の若返りを

――公営競技にも参入されていますが、なぜそこに着目したのでしょうか。特に公営競技のなかでも競輪に着目した理由は何ですか?

 競輪に着目した理由は、公営競技で一番インターネットオプティマイゼーションが遅れているのが競輪だったからです。現在の競輪の市場規模は9000億円ぐらいですが、参入当時はインターネットの車券販売が他の競技に比べるとなかなか伸びていませんでした。かつて中野浩一さんが活躍されたころは地方競馬よりマーケットが大きかったのですが、徐々に斜陽産業となってきました。そのギャップを埋めていければ、レバレッジがかかるだろうと考えて事業を始めました。

 実際、日本の公営競技市場は高齢化しており、このままだとどんどん衰退していきます。そこで、インターネットでみんなでわいわいと競輪やオートレースにベッティングできる「TIPSTAR」を提供し、若い人にも公営競技を楽しんでもらえるように取り組んでいます。

 今となっては、公営競技で最もスポーツらしいのが競輪だと感じています。競技として、人と人とが自力で競い合っているレースに賭けられるのは、公営競技では競輪ぐらいです。演出をもっと分かりやすくすると、もっと伸びると考えていて、当社が持つAI編集技術を使ってレース映像のなかに選手の走行位置や速度をライブ表示するなど、新たな視聴体験の提供を一部で始めています。世界的にも自転車競技は人気がありますし、自転車競技にはもっと可能性があると、事業として関わるようになって初めて分かりました。

屋内型トラッキングシステムを活用した競輪レース映像の配信を、2022年7月から開始している(※画像はイメージ)
屋内型トラッキングシステムを活用した競輪レース映像の配信を、2022年7月から開始している(※画像はイメージ)

――千葉県の「TIPSTAR DOME CHIBA」では日本初の自転車トラックトーナメント「PIST6 Championship」を開催されたり、岡山県の競輪場の整備事業者にも選定されていますが、その狙いとは何でしょうか。

 「TIPSTAR DOME CHIBA」では、千葉市が主催する国際基準のルールに基づいて行われる自動車トラックトーナメント「PIST6 Championship」の演出・イベント運営の支援にミクシィも関わっています。

 また、岡山県の競輪場再整備事業に関しては、グループ会社のチャリ・ロト社が行いました。地方の競輪の再生という意味で若返りや観光資源化していくことも含め取り組んでいます。競輪はその地方の直接財源なので、インターネット上で若い人たちに使ってもらい、魅力的な場所を作って現地にも行ってもらえるようにしたい。現地で体験してもらえる頻度は少ないかもしれませんが、感動値でいうと圧倒的に深い。そこで感動してもらえれば、普段はオンラインでも継続性が高くなります。

――演出で言えば、「千葉ジェッツふなばし」の演出もミクシィのサポートで大きく向上しました。今後もミクシィのテクノロジーを使った演出が期待されると思われますが、どのような取り組みを予定されていますか。

 テクノロジーの側面で言うと、AIを使ったデジタル上での表現に力を入れていきたいと思っていますので、注目いただきたいです。ライブ演出は、これまでゲームや映像作品、イベント等で培ったクリエイティビティや感性も楽しみにしてほしいと思っています。

 会社の組織構造で言うと、デザイン本部というデザインについては横串の組織があります。ゲームや映像制作の人員がスポーツからコーポレートブランディングまで関わり、私たちの持っているデザインのクリエイティビティを様々な分野で展開できる組織構造にしています。

千葉駅にほど近い「TIPSTAR DOME CHIBA」では、千葉市が主催する国際基準のルールに基づいて行われる自動車トラックトーナメント「PIST6 Championship」が開催され、ミクシィが演出やイベント運営を支援する
千葉駅にほど近い「TIPSTAR DOME CHIBA」では、千葉市が主催する国際基準のルールに基づいて行われる自動車トラックトーナメント「PIST6 Championship」が開催され、ミクシィが演出やイベント運営を支援する

メタバースではなくリアルにこだわり、ゲームには新しい付加価値や変化を

――現状、モンストを含めたエンタメ領域が主力であるなかで、今後ゲームというジャンルでは、どのように取り組んでいく考えでしょうか。

 スマートフォンの普及台数は、日本国内において今後これ以上伸びづらいため、新しい付加価値を生んでいく必要があります。そのなかで注目しているのはWeb3の領域で、民主的にユーザーも参加しながら一緒に共創していくようなモデルです。今までのスマホゲームの延長線上にあるものを出し続けていても、お客様に手に取ってもらえない時代になっていくと感じていますし、新しい付加価値のあるものを作っていく必要があります。

 私たちがやるものですから、そのなかでも当然ながらコミュニケーションを重視したものになると思います。オリジナルの新作も考えていますし、新サービスや新業態もあります。そのくらいの変化があるものでないと、新しさを感じてもらえないのではないかと思います。

――新しさという意味ではメタバースも注目されていますが、ミクシィとしてどのようにコミュニケーションを軸にしたサービスを提供していく予定でしょうか。未来像があればお話しください。

 私たちの未来像と言うと、心もつながるような、温度のあるコミュニケーションの機会や場所を作っていくことだと思っていて、VRなどをつけたバーチャルな世界観は、僕らの仕事ではないと考えています。未来にはそういうものもあるかもしれませんが、まだまだ人の温度を感じられず、ともすれば寂しさが募るところもある。やはりリアルの場でいかに楽しんでもらえるかが、私たちの使命だと思っていますし、今後もそうしたリアルなコミュニケーションにこだわっていきたいですね。

 木村社長のインタビューを通して語られたのは、ミクシィが「コミュニケーション」にこだわる理由と、魅力的なコンテンツを持ちながら伸び悩む分野にミクシィが培った手法を導入し、そのコミュニティを活性化させてさまざまなカルチャーの後押しをしたい、という姿勢だ。

 インターネット上のコミュニケーションは、匿名で閉じたBBSの時代から、SNS「mixi」の登場で一気に「顔が見える」明るくオープンなものになった。スマホゲーム「モンスターストライク」も、ゲームの形を取ったコミュニケーションツールでもあり、ミクシィがミッションとして設定している“「心もつながる」場と機会の創造”に沿ったものだということも見える。

 「FC東京」や「千葉ジェッツふなばし」のグループ会社化に対しても木村社長は「スポーツを中核とした熱いコミュニケーションを作りたい」とコメント。場作りや驚きを生む演出で停滞した部分をアップデートしようとしている。NFTやスポーツベッティングへの高い期待も、そのコンテンツのポテンシャルを知っている、確信に近い自信を感じたところ。

 ミクシィによる、競輪をはじめとする公営競技市場への取り組みも、若者が楽しみやすいような、明るくオープンでリッチなカルチャーへの変革を目指している。世界的な自転車ブームが続くなか、自転車市場の中で分断されている競輪が、大化けしても不思議はない。

 一見つながりのなさそうなSNS、ゲーム、スポーツ、公営競技を、コミュニティ支援とそのコミュニケーションの促進という柱で見るミクシィ。コーポレートブランドのリニューアルで改めて示されたミクシィの目指すものが、さまざまな日本のカルチャーをどう変えていくのか、今後も注目したい。

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