宇宙における食のイノベーションを通じて、地上の「食の課題」を解決する──。そんな取り組みを推進しているのが、一般社団法人のSPACE FOODSPHEREだ。
フードテックカンファレンス「SKS Japan 2022」では、SPACE FOODSPHEREの代表理事を務める小正瑞季氏をはじめ、「宇宙xフードテック」のキーパーソンが登壇し、宇宙から地上へ「食のエコシステム」を構築する取り組みについて語った。
そもそも、なぜ宇宙を起点にして食のイノベーションを考えるのか。シグマクシスの常務執行役員で、SPACE FOODSPHEREの理事を務める田中宏隆氏は「地上で食料システムを刷新しようにも、短期的に損をする可能性がある人がいるため、誰も踏み込めない」と語る。
一方、食に関する既得権益がほぼ存在せず、ゼロベースでフードシステムを構築でき、かつ極限環境に耐えうる仕組みが求められる宇宙でのイノベーションは、地上の食を考える上でも、大きなヒントになるのだという。
また、NASAの月探査計画「Artemis」に代表されるように、人類は再び月面、あるいはその先の火星へ進出しようとしている。その際に「地球から宇宙食を持参するのは困難になっていく。現地での食料の調達、地産地消が求められていくようになる」と小正氏は語り、今後、宇宙分野における食のイノベーションは加速していくとの展望を示す。
一方で地上に目を向けると、地球温暖化などの気候変動や、ウクライナ問題に代表される地政学リスクによって、食料の安定調達にリスクが生じている。「宇宙と地球で『食』が共通の課題になっている」と小正氏は説明する。
SPACE FOODSPHEREでは、宇宙と地上における食の共通課題を見つけるために「資源循環型かつ最高効率な食料供給システム」と「閉鎖空間のQoLを飛躍的に高める食のソリューション」を2大テーマとして掲げ、共創型の事業創出に向け活動している。これまでに多くの企業が参画しているという。
宇宙から得られる、地上へ応用できる食品のインサイトは主に下記4つがあるという。
1つ目は食事のマンネリ化に代表される不満だ。MSD代表取締役の北島大器氏によると「疎外感を生み出しやすい閉鎖空間での滞在を余儀なくされる宇宙では、人間の不満や欲求が強く表出する」といい、宇宙では人の潜在的ニーズを獲得することができるという。
「地上と宇宙では環境が違うからニーズも違うんじゃないかとよく言われる。でも存在する人間は同じ。人間が本質的に何を求めているのかが宇宙では強く出る。宇宙は『不満足のるつぼ』であり、不満足はビジネスの種になる」(北島氏)
2つ目は、ゼロベースでフードシステムを構築できる点だ。北島氏は「宇宙には国境がない。複雑な利害関係や商習慣に囚われない最適なフードシステムをゼロベースで設計できる」 と説明する。
3つ目は、宇宙の極限環境(物質的、水、電気、ヒト、空間、通信的な制約)を前提にした技術開発がなされ、それが地上にも還元される点だ。北島氏は「フリーズドライ技術はもともと宇宙食用に生まれ、それが地球に応用されていった」との例を明かす。
4つ目は、資源が限られる宇宙におけるフードシステムは、例えば大規模災害によってインフラが広範囲に破壊された場合にも役立つという点だ。地上の緊急的な食の課題に対応する場合に、宇宙のフードシステムからのインサイトが役に立つ可能性があるという。
SPACE FOODSPHEREでは、こうした「宇宙xフードテック」の共創型イノベーションを加速させるために、2022年秋をめどにアクセラレータープログラム「Space Reverse Innovation(SRI)」の立ち上げを予定している。宇宙航空研究開発機構(JAXA)に所属しながらSPACE FOODSPHEREに参加している菊池優太氏は、SRIについて次のように説明する。
「今後は宇宙旅行などによって、宇宙における食のニーズは多様化していく。また、地上でも未解決の食の課題がある。こうした宇宙と地上双方の食の課題に対して、SRIでは取り組んでいく。食料調達から最終的なゴミ出しを含めて、さまざまなソリューションをビジネスとして形作ることを目指していく」(菊池氏)
SRIでは、宇宙と地上それぞれで応用分野を段階的に設定し、アジャイル型でのソリューション開発とビジネス実装を目指すという。
SPACE FOODSPHERE代表理事の小正氏は「フリーズドライや植物工場など、宇宙を起点にした食のイノベーションはこれまでもあったが、それはたまたまの偶然だった。我々は宇宙から、狙って食のイノベーションを起こせる仕組みを作っていきたい」と語った。
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