筆者がIronOxで最初に興味を引かれたのは自走する電動ロボットだったが、取材が終わる頃にひたすら感心していたのは、スマートカメラとセンサーの使い方だった。それがあるからこそ、ロボットは人間よりうまく作物を育てられるのだ。農業従事者の集団がこの光景を見れば、笑い飛ばしたり腹を立てたりするだろうが、IronOxによると、同社の人工知能(AI)は、人間による最高の農業技術の知識をプログラムしているという。「そうやって、専門知識を駆使してシステムを訓練している」とSilver氏は言い、ロボットに作物を運ばせることによって、「移動と作業を切り離している」と語っている。熟練の農業従事者が自分の目で広大な農場を視察しても、こうはいかない。人の目は確かに経験に裏打ちされているが、精度が落ちたり無駄に繰り返されたりもする。ロボットの手と目ならそれは起きない。
IronOxでは、農作物の収穫と梱包に今でも人の手が使われているが、いずれはそれも自動化されるかもしれない。そうなると、これは、繰り返し問われる疑問に行き着く。ロボット技術によって追いやられた農業労働者は、バリューチェーンを上に進んで、ロボットを監視するという高度な職に就けるのか、という問いだ。ロボット工学の企業が決まって口にする前提だが、筆者としてはにわかには信じがたい。排除される可能性がある労働者は、自動化が作り出す新しい仕事で利益を受ける層にはならないかもしれない。「新しい自動化技術を補完でき、機械の能力以上に仕事をこなせる労働者なら、昇給を期待できる場合も多い。しかし、同程度の仕事をしていて、機械で置き換えられる労働者の待遇は、一定より低いままだろう」。ジョージタウン大学教授のHarry Holzer氏は、こう話している。
これはIronOxに限った問題ではない。ロボット技術の施設を取材するたびに、ロボットに替わられる労働者にとっても有益な行き先が必要だと気づかされる。といっても、農場における技術の効率化は今に始まったことではなく、米国の歴史上、最も劇的な雇用率の減少は、既に起こっている。
IronOxは、単に技術力を証明してライセンス供給側となり、他社に販売をさせることで収益を得ようとしているわけではなく、実際に農業ビジネスへの参入を狙っている。同社が生産している葉物野菜、ハーブ、ベリー類は、北カリフォルニアをはじめ、テキサス、オクラホマ、ルイジアナ、アーカンソー各州の多くの店舗で販売されている。筆者は出荷直前のIronOx産イチゴを試食して、子どもの頃を思い出した。美味しいイチゴならではだ。今のところ、同社最大の栽培施設はテキサス州にあるが、筆者が訪問したシリコンバレーの拠点も、間もなく大幅に拡張される予定だという。
農業に対するIronOxのビジョンは、植物由来の肉の分野で聞いた話と通じるものがあり、重要だと感じる。地域での生育、投入コストの削減、再生エネルギーによる生産が、従来の食肉業に最終的に勝利する鍵になる。IronOxは代替肉事業には参入していないが、同社の技術が、植物由来のタンパク質生産の追い風になるかもしれない。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
Copilot + PCならではのAI機能にくわえ
HP独自のAI機能がPCに変革をもたらす
働くあなたの心身コンディションを見守る
最新スマートウオッチが整える日常へ