7月2日の午前1時35分から発生したKDDIの通信障害。その影響は全国、しかも個人のスマートフォンだけでなく、企業の携帯電話やIoT回線などにもおよぶ非常に大規模なものとなり、復旧にも約40時間近くを要した。
その影響の大きさは一連の出来事から見て取ることができる。障害発生の翌日となる7月3日には、日曜ながら朝10時より金子恭之総務大臣が、KDDIの通信障害について会見で説明。その1時間後の11時には、障害の最中ながらKDDIも緊急会見を開き、同社の代表取締役社長である高橋誠氏らが一連の障害について謝罪するとともに、障害の影響や経緯などについて説明した。通信障害が解決していない状況下で会見が相次いで実施されるというのは、かなり異例だ。
通信障害の影響は先にも触れた通り全国に広がっており、個人・法人のスマートフォンや携帯電話、KDDIの回線を利用しているMVNOの回線、企業が利用するIoT回線、そして携帯電話回線を用いて固定電話が利用できる「ホームプラス電話」までもが対象となった。
KDDIの発表によると、想定される最大の影響回線数は3915万回線に上るとのこと。単に通話やデータ通信ができないだけにとどまらず、110番などの緊急通報もできない状況が1日以上続いたのだから、問題は深刻だ。
なかでも、今回の通信障害で注目されたのは、KDDIの回線を利用していた企業への影響で、宅配便への連絡や、一部銀行のATM利用、気象観測点のデータ収集などができなくなったことでも話題となった。
KDDIは2012年から2013年にかけても大規模通信障害を起こしているが、当時は影響の範囲がまだスマートフォンの通信に限られていた。それだけに、現在のモバイル通信が社会的により大きな影響を与えるものとなっており、通信障害の影響がより広範囲におよぶようになったことは間違いない。
では一体なぜ、ここまでの大規模通信障害が発生するに至ったのか。KDDIの説明によると、その発端となったのは東京都多摩市にある同社の通信拠点「多摩ネットワークセンター」にある、コアネットワークのメンテナンス作業であるという。
通信障害が発生した7月2日の午前1時に、同社ではコアネットワーク内のルーターを新しいものに交換するため「VoLTE」、つまり4Gのネットワークで音声通話をする際の通信トラフィックのルートを変更する作業を実施した。すると一部の音声通話が不通となってしまい、約15分間音声通話ができない状態が続いてしまったという。
そこでルートを元に戻したのだが、わずかな時間の間にアクセスが集中して輻輳状態が発生。VoLTEによる通話を処理する交換機が処理できない状況に陥ってしまった。深夜に通話のアクセスが集中するというのは不思議に思えるが、実は端末からは50分に1度通信がなされており、そのタイミングで加入者の位置情報などを管理する加入者データベースへ登録されるのだという。
通常の流れでは、端末からのアクセスで加入者データベースがVoLTE交換機に情報を書き込み、4Gのネットワークに接続して通話をする形となる。だが、VoLTE交換機が輻輳したことでVoLTE交換機に情報を書き込めなくなり、加入者データベースと情報の不一致が発生してしまった上に加入者データベースも輻輳してしまったそうだ。
この事態を受けてKDDIは、7月2日の3時以降、通信量規制をかけてVoLTE交換機や加入者データベースへの負荷低減を実施、輻輳状態を改善するとともに、加入者データベースとVoLTE交換機との間で発生したデータの不一致を1つずつ修正する作業を実施した。それらの作業に時間がかかったことから、西日本エリアでの復旧は7月3日の11時、東日本エリアは同日の17時30分と大幅に遅れることとなったが、ネットワーク負荷低減のため掛けられている規制は作業が終わるまで続いたため、実際はそれより長い時間規制がかかるという。
また西日本の回復が早かった理由について、高橋氏は官邸の要請によるところが大きいと話す。同日には沖縄や奄美大島に台風が接近していたことから、それら地域の早期復旧をするよう総務省、ひいては官邸から要請があったそうで、西日本と東日本のパケットゲートウェイを切り離して台風が近づいている地域を含む西日本側を優先的に回復させるに至ったようだ。
今回の通信障害であえて不幸中の幸いというべきは、あくまで通話やSMSに関する部分で起きたものであるため、データ通信部分の影響が少なかったことだろう。実際、iPhoneなど一部機種は、音声通話の回線状況と関係なくデータ通信を利用できたことから、通話はできないがデータ通信は利用できたという人も多くいたようだ。
またIoT向け回線についても、SMSを利用していたものは影響を受けたが、データ通信のみ利用していた回線は影響を受けなかったとのこと。さらにコネクテッドカー向けなど多くのIoT回線は制御が別になっていたことから、そちらも影響を受けず利用し続けられたそうで、実際に影響を受けたのは1500万回線中150万回線にとどまったというのも、やはり不幸中の幸いといえる。
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