細田守監督がN高生らのアイデアを引き出す「物語の授業」--個別インタビューで語った「期待」

 博報堂が運営するUNIVERSITY of CREATIVITY(UoC)は6月6日、細田守監督が中高生のアイデアを引き出す「特別授業」を、リアルとオンラインのハイブリッドで開催し、その様子をライブ配信した。UoCが新たに始めた「物語る塾」の、栄えある第1回目だ。

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 特別授業に参加したのは、角川ドワンゴ学園のN高等学校・S高等学校・N中等部の生徒たち。事前に100名以上の生徒が、1人最大9つまで、映画企画のアイデアを応募し、その全てに細田監督が目を通して、特に面白いと感じた7名を選抜した。

 選ばれし生徒7名は、オンラインで100名以上の学友が見守るなか、細田監督に“自分のイチオシ”を改めてプレゼン。それを受けて細田監督は、生徒一人ひとりと対話して、発想の奥にあるインサイトや、その人の個性を引き出していった。

リアル会場の様子
リアル会場の様子

その人の“個性”を引き出す対話

 授業のはじまりに、細田監督は「若い人たちが、いまの世界をどんな風に見ているのか、それを物語のアイデアにどう反映しているか、互いに知ることはすごく有意義だと思う」と挨拶して、このように話した。

 「僕らがどんな時代に生きているのか、これからどうやって生きていくべきかを、みんなで考えてみたらいいなって思うし、どちらかというと僕ら大人が、みんなから教えてもらうっていうね。大人の人たちは気づいてないかもしれないけど、いまは世の中こうなってるんだよ、若い人はこう思ってるんだよ、というのを僕は学びたい」(細田監督)

 リアルで5名、オンラインで2名の生徒が、1人ずつ細田監督と映画企画のアイデアについて話をする。生徒たちはみな、初めこそ緊張した様子だったが、「おすすめのアイデアはどれ?」と尋ねる細田監督の声はとても優しく、徐々にリラックスしていく姿が見て取れた。


 たとえば、トップバッターのナナさん(高3)は、こんなアイデアを発表した。「太陽が出ている時だけ動ける少年と、太陽が沈んだ後しか動けない少女のお話です。会えないけれどお互いに惹かれていく、少年少女を描きたいなと思いました」(ナナさん)

 「うん、いいですね」と、細田監督。短い文章の中で面白さを伝えるとき、「対立構造を描く」ことがコツの1つになるという。「少年少女が対になってるから、この2人はどうなるんだろうって、興味を引きますよね」(細田監督)

 細田監督はさらに続けて、ほかにも気になった彼女のアイデアを、どんどん話題に上げた。「下っ端の死神の女の子の話も、いいなと思った。誰をいつどこで死なせるかを指示され、それを実行する役割なんだけど、人間を死なせることに抵抗があるとかさ。要は、役割があるんだけど、抵抗がある。すごく対立というか、葛藤を生んでるよね」(細田監督)

 「どうしてこんなこと、思いつくわけ?」と笑顔を向け、その人の“個性”を深いところから引き出そうとする問いは、カウンリングのようでもある。ひたすら生徒のインサイトに寄り添いながら、“分かったこと”を言語化して返してあげるのだ。

 「ナナさんのお話を聞いていると、死神の女の子も、結局は死なせないだろうなって思うし、一生に一度だけ自分の性別や容姿を変えられるというアイデアも、最終的にそこから自分自身にどうやって戻ってくんだろうって思う。ナナさんが面白いのは、完全ファンタジーの話というより、現実に即したうえでのアイデアになっているところで、自分自身を再定義しようとしているというか、みんなそういうことを思っているんだろうな、と気づかされますね」(細田監督)

リアル会場でのグラレコ
リアル会場でのグラレコ

いまの“時代”について、意見を交わす

 生徒学生たちがいまの世の中や時代をどう見ているか、細田監督が掘り下げていく場面も多く見られた。

 たとえば、こーたろーさん(高3)の「イマジナリーフレンドの存在に目覚めた主人公が、様々な困難を、予言によって解決してもらうけど、次第に心を乗っ取られてしまう」というアイデア。「僕の作品でいうと、『竜とそばかすの姫』では、すずという女の子と、ベルっていうもう1人の自分がいるけど、それも一種のイマジナリーフレンドなのかもしれない。両方とも自分であるけれども、それぞれにとってのもう1人の自分と対話する相手がいるみたいな」と、細田監督は、まず寄り添う。


 「こーたろーさんのアイデアが全体的に面白いのはね、ひねりがあるから。イマジナリーフレンドによっていい方向に行こうと思ったら乗っ取られるとか、不老不死の薬を手に入れたけども今度は困っちゃうとかね。面白いね。ひねりってのは、みんなにあるけど、こーたろーさんはどういう風に考えてるの?世の中、そんなシンプルじゃないだろうっていうこと?」(細田監督)

 問いを受けてこーたろーさんは、「いいことも全部、いずれどうせ悪くなるだろう、と考えることが多い。ネット広告などでも、飲むだけで痩せる薬とか、痛くない脱毛とか、そんなわけないだろうって思考が、いまの若い子にはあると思う」と返す。

 細田監督は、そこからさらに掘り下げて、「疑ってかかる姿勢っていうのは大事だと思う。何が正解か、分からない中で生きてるっていうことだよね。そういう意識って、若い人に共通した意識なのかな?」と投げかけた。「疑ってかかるべきだとは思っています。いまの日本の教育は、情報収集などの点でも、他国に比べて足りていないっていうのを見て、(疑ってかかる姿勢は)若い人には必要だと思っています」(こーたろーさん)


 いまの日本の教育については、オンラインで参加したゆめさん(中3)との対話でも、話題になった。その発端は、ゆめさんのこんなアイデアだ。「世の中はグレーなんだよと教えられるけど、やっぱり白黒つけたい。大人はグレーな世界を生きているんだよって言われるけど、グレーだけではないと思う。人の考えや気持ちはいっぱいあるから、一緒ってこともないってことに葛藤する中学生の話」

 「普通ってなんだろう、普通じゃないとダメなのかな、と思いながら、自分の思う普通の生活をする主人公。けれど、自分が思う普通の道から外れてしまって、立ち止まってしまう。そこの立ち止まった先で、自分が普通じゃないと思っていたことを、普通と考える人たちに出会い、自分の思う普通を見つけてどう生きるかという成長する話」


 細田監督が「ゆめさんは、『世の中よくわからないな』みたいな問題に、いつもぶち当たってるのかなっていう感じがするのね。それって具体的には、先生とか、親とか?」と尋ねると、ゆめさんは「例えば、いまの日本の教育。主体性を大事にしていくって言ってるのに、成績はテストの点数だったりとか」とズバリ。

 「おっしゃる通りですね(笑)。言ってることとやってることが違うじゃないか、っていうことだね。世界的にはそういう傾向だから、主体性を大事にって言わなきゃいけないけど、先生たちは生徒を序列化しなきゃいけないから、矛盾を生じている。その矛盾に、中高生のみんなは何も言わないけど、ほんとはおかしいと思ってるってことだよね。だから、世の中はグレーなんだと教えることで、納得しろって言われちゃうってことだよね」(細田監督)

 細田監督の話を聞いて、ゆめさんは自然と言葉をつなげる。「うん。だけど、自分は子供だから、世界を見てない。でも、やっぱり白黒つけたいし」。そこから監督の言葉がさらに引き出された。


 「でも、ちょっと言いたいのは、子どもだから白黒つけられなくて、大人だからグレーの世界で生きているのかというと、必ずしもそうじゃない。親や先生の中にも、世の中おかしいんじゃないかと感じている、でも建前上言わないという人は、実はいると思う。ひょっとしたら、そういう1つ1つの気持ちが、世界や常識を変えていくのかもしれないし、でもやっぱり曖昧なグレーな方が、世の中の運営には有効だっていうことなのかもしれないし」(細田監督)

 今回、初めて物語を作ったというゆめさん。「将来はどんな風になりたいの?」と尋ねられると、「まだ決められない」と答えつつも、やはりズバリとこう話した。「中学校で普通に学ぶ、国語、算数、理科、社会は、あまり使わないんじゃないかな…と思うから、N中等部(※)で自分が学びたいことを学んで、まだ決まってない夢の選択肢を、自分で増やそうと思っています」(ゆめさん)

※N中等部は学校教育法第一条に定められた中学校ではなく、生徒は自身の中学校に在籍したままN中等部で学ぶ形となる。

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