シャープ呉CEO、IT部門強化で社外流出コスト半減に、今後は社員の英語力を強化

 シャープ CEOの呉柏勲(Robert Wu)氏は6月21日、社内イントラネットを通じて、CEOメッセージを配信した。4月1日付で、CEOに就任して以来、CEOメッセージは今回で3回目。「将来を見据えた“イノベーション”に挑戦しましょう」と題し、これまでのやり方を抜本的に見直す「改革」に取り組む姿勢を徹底する一方、事業所視察やCEOランチミーティングの開催について報告。さらに、新たにスタートアップコンペを開催すること、社員の英語力強化を重点的にサポートするといった取り組みを開始することにも言及した。

シャープ CEOの呉柏勲氏
シャープ CEOの呉柏勲氏

 今回のCEOメッセージの最初のテーマは、2022年度通期業績予想についてだ。シャープでは、5月11日に開催した2021年度業績発表の会見では、2022年度業績見通しを公表せず、1カ月後を目途に発表することを明らかにしていた。

 その約束通り、6月8日に、2022年度通期業績予想を公表。売上高は前年比8.2%増の2兆7000億円、営業利益は23.3%減の650億円、経常利益は45.2%減の630億円、当期純利益は32.4%減の500億円とした。

2022年度業績見通し
2022年度業績見通し

 呉CEOは「今回の業績予想は、サプライチェーンの混乱や円安が当面継続するという前提のもと、中国のロックダウンの影響や完全子会社化する予定の堺ディスプレイプロダクト(SDP)の業績悪化の影響などを織り込み、増収減益の予想とした」と説明した。

 SDPについては、テレビ向けの大型液晶パネルの市況が、当初の想定以上に悪化していることを指摘しながらも「2022年度は苦しい経営が続く見通しだが、高い技術力やコスト力、大型に優位性がある第10世代液晶パネル工場の強みを活かし、市況変動の激しいテレビ向けパネルから、ゲーミングやボリュームゾーンのPC向けパネル、スーパーロングディスプレイなどの車載向けパネルにシフトすることで、早期の黒字転換、業績の安定化を目指す。これにより、ディスプレイデバイス事業およびテレビ事業の将来のさらなる成長につなげていく」と述べた。

 また、2022年度の業績見通しについては「今後も、非常に厳しい事業環境が続くが、米州や欧州、ASEANを中心とした『海外事業の強化』、新商品やサービスの開発、新市場の開拓、新規事業の創出といった『新規領域の拡大』、サプライチェーンの混乱をはじめとした『リスクへの対応』の3つに重点的に取り組み、公表値の達成、さらなる業績向上を目指そう」とした。

 2つめのテーマにあげたのが、「開源節流会議」の開催である。「開源節流」とは、健全な財政を川の流れに例えた言葉で、「開源」とは水源を開発すること、「節流」とは水の流れる量をしっかりと調節することを意味する。前CEOの戴正呉氏が使っていた言葉でもある。

 5月28日と6月4日の2日間、事業部長以上のすべての役員、社員が出席し、「節流」におけるコストダウンや経費削減、品質コスト低減、在庫削減などについて議論。「開源」では、海外事業の強化や新規領域の拡大、M&A、特許戦略などについて報告があったという。

 ここで、呉CEOは、「改善」ではなく、「改革」により、積極的に挑戦することを改めて徹底したとする。

 「既存事業や、いままでのやり方を前提とした『改善』には限界があり、それだけでは、たとえ足もとの厳しい事業環境を乗り越えることができたとしても、長続きはしない。5年後、10年後のあるべき姿を起点に、いまやるべきことを考え、高い目標を設定し、その達成に向けて、これまでのやり方を抜本的に見直す『改革(イノベーション)』に取り組んでこそ、持続的成長を実現することができる」と語った。

 事例のひとつとしてあげたのが、IT部門での成果だ。従来は、社外ITベンダーに依存してきたが、2016年以降、内製化する体制へと切り替え、5年間で社外流出コストを半減させることができたという。また、この取り組みが評価され、日経コンピュータの「IT Japan Award 2022」の特別賞に選ばれたという。

 「各事業のリーダーは、足もとを生き抜くための『改善』から、将来を見据えた『改革(イノベーション)』へと、いま一度、マインドを切り替え、新たな発想で、自らの事業の成長を、より力強く牽引してほしい」と要望した。

シャープブランドを日本中心から世界のブランドへ

 呉CEOは、6月3日に、亀山事業所と多気事業所を視察し、工場の状況や新技術を確認したほか、ディスプレイデバイス事業の今後の取り組みについて議論したことを報告した。

 呉CEOは、「私の考えるデバイス事業の拡大のポイントは、スマイルカーブの川上と川下、つまり、開発力と販売力の強化である」とし、開発力の強化では、「近年、世の中の技術やサービスの進化、変化のスピードがますます高まっており、新たな産業の動きをいち早く掴むとともに、そのポテンシャルを見定め、より効率的に、かつスピードをあげた開発を行うことが重要になっている。当面は、EVやAR/VR、デジタルヘルスなどの分野に積極的にリソースを投入し、新規事業の立ち上げを加速していく考えである」と発言。

 また、販売力の強化では、「デバイス各事業の営業部門の連携を一層強化し、One SHARPの総合力を発揮した営業活動を展開することが重要である。今後は、One Stop SHARPをキーワードに、事業拡大のスピードをさらに向上させるために、新たな体制構築を進める」と述べた。

 一方で、ブランド事業においては、独自の技術力や世界各地域におけるマーケティング力を一層強化し、地域に根差した商品やサービスの開発、効果的な販売活動に取り組むという。

 「こうした取り組みを通じて、シャープブランドを、『日本中心のブランド』から、『世界のブランド』へと、大きく飛躍させていこう」と述べた。

 さらに、5月18日、6月1日の2日間、堺本社において、CEOランチミーティングを2時間ずつ開催したことも報告。また、7月から、全社規模での「スタートアップコンペ(新規事業提案会)」を開催することを発表した。

 「社員の皆さんに、創造力や熱意、志、起業家精神をより高めてもらいたいと考え、その取り組みのひとつとして、スタートアップコンペを開催する。有望な提案に対しては、事業化に向けた資金をCEOファンドでサポートする。積極的な挑戦を期待している」と呼びかけた。

 また、社員の英語力強化を重点的にサポートしていく考えも打ち出した。「グローバル競争を勝ち抜くためには、多様な価値観を持つ人材が集い、互いに考え方をぶつけ合い、それらを融合させ、新たな価値を次々と生み出す会社になることが重要である。社員の英語力強化を重点的にサポートし、国籍を問わず、優秀な人材が、自らの能力をいかんなく発揮できる環境を構築していきたい」と意欲をみせた。

 CEOメッセージの最後に呉CEOは、「第1四半期は、中国でのロックダウンの影響を大きく受けたが、6月1日には上海のロックダウンが解除された。予断を許さない状況に変わりはないが、徐々に回復の兆しが見えつつある。各事業本部においては、この機を逃すことなく、しっかりと挽回に取り組み、第1四半期の着地をやり切るとともに、今後の業績回復につなげていこう」と述べた。

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