パナソニックは6月20日、昆虫にもたらす光の影響に関する研究と照明技術に関する説明会を開催した。虫の目の研究から生まれた照明器具として誘虫器「ムシキーパー」を紹介したほか、ホタルの繁殖を阻害しにくい照明なども手掛けている。
パナソニックは、2000年ころから、昆虫と光の影響に関する研究を開始。2014年には、イチゴのうどん粉病発生の抑制に加え、ハダニの成長を阻害し、発生を抑える「UV-B 電球形蛍光灯」を発売しているほか、2021年には、虫の目の研究から生まれた誘虫器ムシキーパーを製品化している。
ムシキーパーは、紫外線はよく見えるが、人にとっての可視光はあまり見えていないという、昆虫のと人の見え方の違いに基づいて研究されたもの。花の蜜のありかやモンシロチョウの雌雄など、人からは判別しにくいものでも虫の目で見ると一目瞭然であることに加え、昆虫は視覚特性以上に、より短い波長の光である「すう光曲線」に引き付けられることが多く、すう光曲線を研究することで、光によって昆虫の行動にアプローチすることが可能になるという。
一方、蛍光灯やHIDランプなどの照明器具は、LEDに比較して、紫外線が多く虫が集まりやすい特性があり、課題となっていた。パナソニックでは、410nm以下の光をカットすることで、虫が寄り付きにくい蛍光灯「ムシベール」シリーズや、虫が誘引されやすい波長の光で虫を寄せ、粘着シートで捕獲する「ムシパットル」などの蛍光灯製品を発売していたが、現在では廃盤になっているという。
ムシキーパーは、殺虫機能をなくした新たなLED誘虫器。これまでは、虫の侵入を防ぐため、電撃殺虫器のような器具で虫害対策をしていたが、誘虫器に虫をおびき寄せて器具の周辺に留まらせることで夜間に虫が屋内に侵入しないような対策に変更した。
誘虫器は、昆虫が減ることにより捕食者も減り、生態系ピラミッドが崩れる問題を回避するもの。生態系の保全と虫が侵入してきて困るという2つの課題を解決する。
運動場、競技場など大型施設向けに導入しており、運動場などでナイター照明に虫が集まり、消灯と共に一気に近隣に拡散することを防ぐことが可能。特に対策をしたい、ユスリカ類、ヨコバイ類、ウンカ類、チョウバエ類、ガ類を誘引しやすいよう調整しているという。
虫の侵入を抑制する一方で、異なる角度からの保全にも取り組む。それがホタルの繁殖を阻害しにくい照明だ。ホタルは、成虫が光を発し、オスとメスが出会い交尾をして繁殖する。しかし、ホタルにとって明るすぎる環境では、お互いを見つけにくくなってしまい繁殖に影響があるとのこと。パナソニックでは、専門家と共にホタルに影響の少ない光を研究し、ホタル光影響度指数(FLI)を設定。住宅などの安全性が求めらる場所での明るさを確保しつつ、ホタルに影響のない光を実現。すでに、神奈川県逗子市に導入しており、導入の翌年にはホタルが増加したとの報告もあるとのこと。他の自治体からの引き合いもきている。
害虫防除技術としては、イチゴに適度な紫外線を照射することで免疫機能を活性化させ、うどん粉病の発生を抑制するUV-B電球形蛍光灯がハダニの成長を阻害し、発生の抑制に寄与。ハウス内の天井部にUV-B電球形蛍光灯を設置し、イチゴに紫外線を照射するほか、葉裏のハダニには、地面に光反射シートを置くことで照射し、ハダニのDNAの一部を損傷。卵、幼虫、蛹が成長できないようにすることで、発生、増殖を抑える。
パナソニック エレクトリックワークス社ソリューション開発本部ライティング開発センター照明アプリケーション開発部光空間制御アルゴリズム開発課主幹技師の青木慎一氏は「農薬を使いすぎると、虫に薬剤の耐性がつき、きかなくなるケースもあり、農薬を撒くのはよくないという事情もある。農薬を撒くことで人手もかかり、人体への影響もあるため、できるかぎり減らしていくべき。人々の暮らしを快適にしつつ、生き物の保全の両方につながる照明を今後も考えていきたい」とした。
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