企業にESG(環境、社会、コーポレートガバナンス)関連の情報開示を求める声が高まる中、IR部門にESGに通じた優れた人材が加わる例が増えています。自社の製造現場や、サプライチェーン、製品、産業廃棄の仕組みなどに通じ、投資家などの求めに応対するIR担当者はどこでも引っ張りだこです。
例えば、英大手IRコンサル会社の調査(44カ国、250社のIR責任者)によると、ESGがIR業務の一部となり、情報開示の要請が高まるにつれて、回答企業の半数近くが社内ESGの専門的な知見に投資しているといいます。
実際、欧州企業ではすでに43%の回答がIRチームにESG専門家がいるとし、直近1年にこうした人材を採用したという回答も37%もありました。急速な補強ぶりです。他方、北米でもすでに27%の企業でIRチームにESG専門家が活躍しているといい、さらに2022年半ばまでにESGの専門家を採用する予定だとの回答は9社に1社でした。
機関投資家も動いています。ESGは企業との「建設的な対話」でも大きなテーマですし、ESG投資の部門強化もあります。
例えば、2022年4月に日本のESG投信(37社、225本)を調査した金融庁の発表によると、ESG専門部署、チームのない運用会社は30%(11社)、1人のESG専門人材もいない例は38%(14社)もあったといい、事態は急を要しています。
すでに世界の大手機関投資家の間では、ESG人材を確保し維持するために同業他社からの引き抜きはもちろん、大手コンサルタント会社やESG格付け機関のデータプロバイダー、有力会計監査企業といった業界外から、こうした人材を採用するという話もよく聞こえてきます。
そして一部には、政府機関やNGO、国際開発金融機関(MDBs)(注)などに目を向け始めているといいます。まさに、資産運用に熟達したシニアESGスタッフのリクルートは、まるで「椅子取りゲーム」のように激しくなっています。
話を企業のIR担当者に戻すと、投資プロの資格認証で知られる米CFA協会は、2年前からESG関連の資格を用意し、全米IR協会(NIRI)や英国IR協会も、その資格試験のための研修セミナーを開催しています。
当然、自社のIRチームを紹介するサイトでESG担当者を紹介する例も少なくありません。例えばフランスの食品大手ダノンや、ドイツ化学大手BASFです。BASFの場合、11人のIRチームのうち2人がESG担当です。自社の住所と電話番号、メールアドレスなどを載せた「IR部門のコンタクト先」に、IRスタッフの名前にESGという担当業務、そして電話、メールアドレスが掲載されています。
「一般的なコンタクト先の記載だと、自分が誰に連絡しているのか、その確信がいまひとつのように感じる」「担当者の名前があれば、責任ある回答を期待できる確信が増すように思う」という投資家の声も多く聞かれます。
説明力のあるESGストーリーを語る力量を備えたIR人材が活躍する時代が始まっているのです。
(注)一般的にMDBsと言えば、全世界を支援対象とする世界銀行と各所轄地域を支援する4つの地域開発金融機関(アジア開発銀行、米州開発銀行、アフリカ開発銀行、欧州復興開発銀行)を指す。
この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス