ゲーム業界でも“メタバース”という言葉を頻繁に耳にするようになってきました。米国フェイスブック(旧: Facebook, Inc.)が社名をメタ(Meta Platforms,Inc.)に変えた辺りから、一般メディアでも“メタバース”というワードをよく見るようになったかと思います。
メタバース(Metaverse)とは、90年代の「クリプトノミコン」などの代表作で知られる、Neal Stephenson作のサイバーパンク小説「スノウ・クラッシュ」に登場した言葉とされています。
サイバーパンクというと、さらにさかのぼること80年代にWilliam GibsonやBruceSterlingらの「ニューロマンサー」や「ディファレンス・エンジン」等の作風に代表される、当時のシリコンバレーやIT業界に従事する者にも影響を与えたムーブメントですから、インターネット創世記から常に並走していた、ネットワークワールドの概念が起源だと考えると感慨深いものがあります。
また、メタバースという言葉は“超(meta)”と“宇宙(universe)”の造語であるとされており、語源の生成の仕方も前述の「ニューロマンサー」と同じ匂いがします。
ニューロマンサーが、神経細胞の“NEURON(ニューロン)”とNEWROMANCEの造語(一説にはnecromancyとの関連も)であることを考えると、メタバースとは、80年代のテックヒップ・ムーブメント(tech-hippie)精神のDNAを受け継いで登場した概念であると言ってよいでしょう。
つまり、メタバースという言葉の中には、テクノロジーの進化、マシーンと人間、ネットワーク、コミュニケーション、社会への反抗(ヒッピー)、宇宙やリアルフィールドを超えたもの、新しい物語(ロマンス)といったさまざまな要素を含有した概念であるということが分かります。
そのような“メタバース”という言葉が、ビジネスの世界でも使われるようになったのは、90年代のインターネットの発展と共に、仮想空間を用いたサービスビジネスというものが具現化してきたことが挙げられます。代表的なものとして2000年代の「Second Life」が有名です。
そうして“メタバース”は、仮想空間やそのサービスのことを指すことになったわけですが、2020年代の今、改めて脚光を浴びるようになったきっかけは、2020年11月に新規株式公開を宣言した「Roblox(ロブロックス)」でした。
Robloxは、米国では16歳未満の子供の半数以上がプレイしているとも言われており、英語圏のZ世代に圧倒的な人気を誇るゲームです。「マインクラフト」のようなものと言えばイメージしやすいかと思います。
サービスにログインすると、ユーザーが作成したさまざまなゲームサーバーが建っており、友達と待ち合わせをしてゲームサーバー間を自由に行き来できます。
ゲームを移るごとにアバターも変化させ、そのアバターもその時々のトレンドを捉えた多様なアイテムを装着可能です。Roblox Studioを利用して自由にゲームやワールドを生成でき、Roblox内通貨である、Robux(ロバックス)を利用してさまざまなサービスを受けたりすることも可能です。
Robloxは、まさに子どもたちの放課後の仮想空間であり、Z世代のメタバースだったのです。新規株式公開と共に、メタバース企業Robloxとして“メタバース”のキーワードも注目を浴びるようになったのです。
2021年11月にフェイスブック社が社名をメタに変更すると、Roblox辺りから業界内で注目されていた“メタバース”という言葉が、一般のメディアでも踊りだすようになりました。メタバース企業という肩書でお金が集まるようになり、現状はメタバース・バブルという状況です。懐疑的な見方も少なくありません。
しかし、“メタバース”の歴史は長く、人類がネットワークワールドでコミュニケーションが可能になると知った瞬間からそのDNAは継承され、インターネット創世記からSFの世界で文化的熟成をベースとして出てきた概念なのです。クラウドゲームやイベントとしてのeスポーツ。VRやMR、通信スピードの高速化ど、“メタバース”を取り巻く環境は整ってきました。80年代にイメージされたさまざまなビジョンは、今まさに“メタバース”に集約され現実化していっているのです。
“メタバース”は流行りのバズワードですが、人類が、今後必然的に進むべき道のりであることもまた一つの真理であるのかもしれません。放課後、メタバースで時間を過ごしてきたZ世代が創り上げる次の世界は、メタバース・ネイティブの世界なのです。
この記事はビデオリサーチインタラクティブのコラムからの転載です。
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