シリコンバレーで起業する(2)-- ピボットの繰り返しからビジネスアイデアを掴むまで

加納恵 (編集部)2022年06月02日 08時30分

 世界65カ国450都市で、ホテルやコリングスペースなどを賃貸サービスとして貸し出す「Anyplace」を展開するAnyplaceのCEOである内藤聡氏は、2014年に渡米し、シリコンバレーでサービスを立ち上げた起業家だ。「英語も話せない、お金もない、友達もいない」状態だったという渡米直後から、Anyplaceを立ち上げ、今に至るまで、どんな人と出会い、どういった過程を経てきたのかを3回に渡って紹介する。第2回ではAnyplaceの開始から、人材採用などについて聞く。

Anyplace CEOの内藤聡氏
Anyplace CEOの内藤聡氏

第1回「英語も話せない。お金も友達もいない」渡米から事業立ち上げまで」はこちら

第3回「チーム構築から新事業立ち上げまでとこれから」はこちら

事業の失敗から学んだスモールスタート

 順調にビジネスを世界に展開しているAnyplaceだが、「2年程度はピボットを繰り返した」と言うほど、ビジネスアイデアについては試行錯誤したという。当初手掛けていた、Airbnbの空き室を直前で割り引いて提供するマーケットプレイスは、事業がなかなか軌道に乗らず、半年程度でピボットを考えるようになったという。

 「ホテルの直前割引サービスが上手く機能していることに目をつけ、それを当時人気の高かった民泊に応用したビジネスだったが、実際にはじめてみて気がついたのはホテルと民泊は違うということ。ホテルであれば、1つの施設における部屋数が多いので当然余る部屋も出てくるが、民泊は1つの施設における部屋数は多くても数部屋。供給できる部屋数自体が違った。加えて、ホテルは部屋のクオリティが一定だが、民泊で余っている部屋は質が悪くなってしまう可能性もあり、ビジネスとして成り立ちづらかった」と内藤氏は当時を振り返る。

 別事業への転換を模索する中、重荷になってしまったのが、作り込んだアプリ。「工数や時間もかけて作ったアプリが、事業を転換することで必要なくなってしまう。これではだめだなと。事業を作り込むまでスモールスタートで、仮説検証し、本当にいけるとなった段階で作り込むことをこの時に身を持って学んだ」と話す。

 しかし「スモールスタートで始めることがわかっただけでも、この体験は無駄ではなかった。仮説検証は実際のプロダクト抜きでもできることもわかった。そういう意味では現在のほうが、よりよくなっていてノーコードで作れるツールも増えているので、プログラミングができないと事業が始まらないという考えたは捨てたほうがいい」と言い切る。

 このあと、内藤氏は2年ほど「ピボットしまくっていた」時期に突入する。「起業家として最も辛いのは、事業がないこと。野球選手に例えるならば、振るバットがないみたいな状態。当時はすでに資金調達もしていたので、お金が減っていってしまうこともこわいし、投資家の方の期待も裏切りたくない。本当にこの時期は辛かった」と思い返す。

 メンタル的にもヘビーな時期を過ごしたというが、どう乗り越えて来たのだろうか。「起業は自分にとって初めてのことばかりが起こる。そのため必要以上に疲れてしまったり、大げさに受け取ってしまいがちだが、同じようなことは、数千人といる起業家にも起きていること。自分だけではなく、みんな同じような思いをしていることに気づけるかが大事。失敗から学べることは本当に多い。人事を尽くして天命を待つではないが、自分が今できるベストをつくして、あとは結果を待つという姿勢を学んだ」と、メンタル面を鍛える。

 加えて、精神を一定に保つことの重要性も説く。「トップの仕事の多くは意思決定。メンタル面でのアップダウンが大きいとその質がブレる。どれだけフラットに保てるかはとても大事で、そのためか、米国ではコーチングやメディテーションを利用する人も多い。ただ、起業にまつわるあらゆる問題は、起業家の誰かが経験してきていることなので、そういう話せる相手を見つけておくことも大切」と誰かに相談できる環境を整える。

 この「本当に辛かった時期」を内藤氏ともに乗り越えたのが、CTOの田中浩一氏だ。内藤氏とは、シリアルアントレプレナーの小林清剛氏を通じて知り合い、出会った当時は、カリフォルニア大学に留学後、OPT(Optional Practical Training)を使い、シリコンバレーで働いていたという。

 「田中と出会えたのは本当にラッキーだった。CTOを探すのは実はすごく難しくて、まず接点があまりない。またエンジニアであれば、いわゆるGAFAMのような大手企業に就職する可能性もあるので、ゼロから作り上げるスタートアップに興味を持ってもらいづらいこともある。田中はエンジニアとして優秀なのはもちろん、スタートアップのファウンダーとして諦めない姿勢や挑戦し続ける気持ちを持っていたので、ここまで一緒にやってこられた」と感謝する。

 また「当時は英語があまり得意ではなくて、創業期の大変な時期に日本語でコミュニケーションがとれた点もありがたかった」とシリコンバレーで日本人2人で立ち上げたスタートアップの創業期を思い返す。

市場のニーズとソリューションのギャップがあるところこそ、スタートアップのチャンス

 転機になったのは、自身が日々暮らす中で感じていた「面倒くさい」に気づいたこと。「引っ越しってとにかく面倒くさい。家を探すだけではなくて、家具を買いそろえたり、電気、ガス、水道といったライフラインを確保したりと面倒くさいことだらけ。これを解決するのであれば、ホテルに住めばいいと思ったのがAnyplaceのきっかけ」と話す。

 アイデアが出てきてから、事業化まではとにかくスピードを意識して進めた。「まずウェブサイトビルダーを使ってサイトを立ち上げて、それをローカルの掲示板に投稿したところ、2〜3人の内見希望者が集まった。実際に部屋を見てもらうと入居したいと言われた。当時2000ドル前後の物件だったが、入居が決まった段階でこのビジネスはいけるかもと感じた」と明かす。

 ビジネスアイデアを探す中で内藤氏が大事にしたのは「世の中にないものを作り出すこと」。当時の状況を「アイデアを考えるというよりも気づくという作業。この気づくのが結構大変で、3日後に気づける人もいるし、1年かかる人もいる。基本的に今の世の中にあるものは、市場に最適化していて、ほしいなと思うものはすでにある状態だが、一部の人はそのソリューションが不十分だったり、満足していなかったりする。市場のニーズとソリューションのギャップが生まれているところこそ、スタートアップのチャンスになる。チャンスは技術的進化で生まれることもあるし、世代の違いで見つかることもある。ただ気づくのは本当に難しい」と実体験を持って話す。

 CEOとCTOの2人から、現在17名のスタッフを抱えるまでに拡大したAnyplaceだが、採用や勤務雇用形態は「採用はすべてLinkedInを使い、コロナ以前から全員がリモートワーク。スタッフは全世界に散らばっており、それぞれの場所で仕事をしている」と最先端を行く。

 「米国での採用は日本とはまったく事情が異なる。LinkedInを使用する前は、掲示板などで募集していたが、ブランド力もないため、全く人が集まらない。職種やキャリアを提示して募集しても、それとは全く異なる経歴の人が応募してくるなどなかなかのカオス状態(笑)。そこで、LinkedInに切り替えたところ、キャリアを一覧で見られたり、こちらからアプローチができたりして、採用がぐっと進んだ」とLinkedInを積極的に活用したとのこと。

 現在スタッフは、北米、欧州、カナダと居住地域は異なるが、SlackやNotionを使うことで、コミュニケーションを取っているという。「今はコロナのためできていないが、以前は年に1度ミートアップを設け、全員が一堂に会していた。ミートアップはコロナが落ち着いたらまた再開したい」とテクノロジーを活用する一方で対面も重視する。

コロナ以前は年に1度ミートアップを設け、全員が一堂に会していた
コロナ以前は年に1度ミートアップを設け、全員が一堂に会していた

 採用において米国ならではの苦労はあったのだろうか。「米国はマイノリティやジェンダーに対する考え方が進んでいるので、日本では気づかないような部分に気を配る必要があった。また、前職の給与や年齢、性別も面接で聞くことがNGで、その部分は本当に勉強になった。そうした中でも最も重視したのは、Anyplaceに対する共感度。優秀な人でもあってもやる気がなければいいものは作れない。情熱ややる気があればうまくいかないことも乗り越えられるときがある。この部分をしっかりと説明した上で、採用を進めていった」と思いをともにする人を集める。

 一方で、投資家など事業をサポートしてくれる人たちとの関係も築く。「米国ではファンドのサイズが大きい分、リターンに関してはかなり大きなリターンを期待する。日本では早く上場することを求められる部分もあるが、米国の市場は日本の市場に比べて上場するハードルが高いこともあり、未上場のまま資金調達を繰り返しているスタートアップも…という考え方もあり、未上場のままの資金調達を繰り返しているスタートアップもある。いずれにせよ求められるのは世界を獲るような規模への成長」と、求められる事業規模の違いを話す。

 日常の中の気づきからAnyplaceというビジネスを生み出した内藤氏。次回は、コロナ禍で立ち上げた新ビジネス「Anyplace Select」の背景や今後の展開などについて聞く。

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