KDDIは5月13日、2022年3月期通期の決算を発表した。売上高は前年度比2.5%増の5兆4467億円、営業利益は前年度比2.2%増の1兆606億円と、増収増益の決算となった。ライフデザイン領域やビジネスセグメントといった成長領域が、共にCAGR(年平均成長率)で2桁成長を達成するなど業績をけん引し、営業利益1兆円を超えるという目標の達成に至ったという。
その基盤となるマルチブランド戦略のグループID数は3184万と、期初予想を超える数値で推移。同社の代表取締役社長である高橋誠氏によると、前半は携帯料金引き下げによる競争激化で獲得が続いたというが、後半から持ち直して予想を上振れする水準で着地できたとのことだ。
その内訳について高橋氏は、料金引き下げ前は「au」が90%、「UQ mobile」「povo」が合計で10%程度のシェアだったと説明するが、2021年度末にはそれがauで80%、UQ mobileとpovoの合計で20%という構成に変化。実際povoは120万契約にまで伸びているという。
そうした低価格サービスの伸びを受け、料金引き下げによる減益影響は期初予想の600〜700億円から上振れし、872億円にまで拡大しているとのこと。それをグループのMVNOや、楽天モバイルからのローミング収入などで補い相殺することで、好業績へとつなげているようだ。
一方で、KDDIの決算発表と同日に、楽天モバイルが発表した新料金プランで「Rakuten UN-LIMIT VII」を発表、1GB以下なら0円で利用できる仕組みを廃止するとしたことが話題となった。それだけに、同じく0円から利用できるpovoの動向が注目されているが、高橋氏はpovo2.0と楽天モバイルとではサービスの性質が違うと説明、「今のところ止める理由はない」としている。
またその楽天モバイルは現在、携帯3社が持つプラチナバンドの再割り当てを主張している。高橋氏は有効利用されていない帯域の再割り当てをする制度自体には賛同するというが、「有効利用している周波数を他に割り当てるのには慎重な議論が必要」と回答。5Gのネットワーク整備にリソースを注いでいる中、楽天モバイルにプラチナバンドを割り当てる工事が必要となれば大幅な期間とコストがかかり5Gの整備にも影響が出るとし、「5Gの工事に集中させてほしい」と慎重な対応を求めている。
ちなみに5Gの周波数を巡っては、2022年4月に申請がなされた2.3GHz帯の免許割り当てに申請したのがKDDIだけだったことが話題となった。この帯域は放送用の中継回線が先に利用しているため、そちらに影響を与えないよう「ダイナミック周波数共用システム」の導入が必要などデメリットが多いことが理由と見られている。
それでも割り当てを申請した理由について、高橋氏は「2.3GHz帯はグローバルで使われている貴重なエコバンドで、既に対応済みの端末も多い」と高橋氏は説明。技術的にも対応できると答えており、他社が手を挙げなかったことには「びっくりした」と驚いた様子を見せている。
またここ最近激化していた、スマートフォンを「一括1円」など激安に販売することの影響について、高橋氏は「顧客は端末価格に非常にセンシティブだと感じている」と回答。4Gまでの時代は端末を安く手に入れて長く利用するいうサイクルがうまく回り、それが早期のエリア拡大につながっていたことから、制度を守りながら取り組むとしながらも、端末値引きが「5Gの展開スピードを速めるためには悪くない形なんじゃないかと思うことがある」とも高橋氏は話している。
なおKDDIは今回の決算発表に合わせ、新たに「KDDI VISION 2030」と、それに向けた2022〜2024年度までの中期経営戦略を打ち出している。
高橋氏はその背景について、価値観やワークスタイルの多様化、DX、サステナビリティ、Beyond 5Gなど、事業を取り巻く環境が大きく変化していることから、それに対応しながら未来社会を実現するべく策定したのがKDDI VISION 2030になるという。そのコンセプトは「『つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会を作る」というもので、社会の持続的成長と企業価値の向上の好循環を実現するサステナビリティ経営を目指すとしている。
その実現に向けて打ち出した中期経営計画では、5G通信の進化と、それを核にして注力領域を拡大していく「サテライトグロース戦略」を推進していくとのこと。具体的には従来の法人事業に当たる「DX」と、従来のライフデザイン領域に当たる「金融」「エネルギー」「LX(ライフトランスフォーメーション)」、そして地域共創の5つを注力領域に位置付けるとしている。
今後の成長の鍵は軸となる5Gであることから、その基盤となる5Gネットワークの拡大に加え、5Gの実力を発揮できるスタンドアロン(SA)運用の本格化で、Beyond 5Gを見据えた価値提供をしていく方針とのこと。ただし現時点での5Gの人口カバー率は「(本日)人口カバー率90%を達成したと言いたかったが、工事が若干苦しんでいる」と高橋氏は回答、まだ整備の遅れが続いているようだ。
また5Gの契約数浸透率は2024年度までに80%まで上昇させることを目指すほか、料金引き下げの影響で低下が続いているマルチブランド通信ARPUも増加させたいとしている。競合他社は今後ARPUの伸びが見込めない様子を見せているが、高橋氏は「OTTプレーヤーとの連携が非常に強くなっている」ことから、セットプランの強化など他社にはない取り組みでARPU向上に結び付けられると見ているようだ。
一方の注力領域の戦略について、DX事業に関しては引き続きソリューションなどの「NEXTコア事業」を強化し、通信に続く第2の柱に成長させることを目指すとしている。またそのための開発を強化する取り組みとして新たに、中間持ち株会社のKDDI Digital Divergence Holdingsを設立することも発表している。
金融事業については、複数持つ金融サービスのクロスユースを強化し利用を拡大するとともに、グループが保有する金融サービス基盤を非金融事業者に提供するプラットフォーム事業の展開で拡大を目指すとしている。また新たに設けられたLX事業については、5Gとテクノロジーの進化で生活者目線に立った価値創出をしたいとしており、具体的にはWeb3.0やメタバース、ドローンなどに関する取り組みを強化する姿勢を示している。
それに加えて中期経営計画ではコスト効率化も引き続き推し進め、インフラ投資のコントロールや営業の効率化などで1000億円の効率化を目指すとのこと。一方で持続的成長に向けた投資は強化し、5Gや注力領域への設備投資は1.3兆円、戦略的事業への投資は7000億円規模になるという。
そうした中期経営計画の内容を踏まえ、2022年度の連結業績は売上高が前年度比2.1%増の5兆5600億円、営業利益は前年同期比3.7%増の1兆1000億円を予想する。高橋氏によると、今年度も料金引き下げの影響が700〜800億円見込まれるのに加え、楽天モバイルからのローミング収入も500億円程度減るというが、一方で3Gが停波したことで従来800億円程度あった引当金がなくなること、そして注力領域の利益増加でそれらをカバーし、利益目標は達成できると見ているようだ。
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