携帯4社とそのグループ企業の決算が発表された。大手3社が通期決算を迎え、いずれも行政による携帯料金引き下げの影響が直撃して大幅な利益減を余儀なくされたものの、各社ともに業績は好調を維持している。
その一方で楽天モバイルは、「0円」から利用できる料金プランの終了を打ち出し波紋を呼んだが、どのような要素が各社の戦略を左右しているのか、決算の内容から振り返ってみたい。
まずは各社の業績を振り返ってみよう。通期決算となる大手3社の決算だが、NTTドコモの2021年度決算は、営業収益が前年度比0.2%減の5兆8702億円、営業利益が1.2%増の1兆725億円と減収増益となっている。
一方で他の2社はいずれも増収増益で、KDDIの2022年3月期決算は売上高が前年度比2.5%増の5兆4467億円、営業利益が前年度比2.2%増の1兆606億円。ソフトバンクの2022年3月期決算は売上高が2021年度比9.3%増の5兆6906億円、営業利益が2021年度比1.5%増の9857億円となっている。
また楽天モバイルを有する楽天グループの2022年12月期第1四半期決算は、売上収益が前年同期比11.7%増の4371億円、営業損益が1126億円。こちらは引き続き、楽天モバイルの先行投資で赤字が続いている状況だ。
そして今回の決算で注目されるのは、通期決算を迎えた大手3社の好調ぶりだ。政府による携帯料金引き下げの影響を受け、各社が従来より安価な新料金プランを相次いで投入したことから今期は大幅な利益減が見込まれていたのだが、それにもかかわらず3社共に増益を達成しているのだ。
もちろん各社とも料金引き下げの影響は少なからず受けており、KDDIは872億円、ソフトバンクは700億円と、いずれも期初に想定していた規模を上回る減益影響が出たとしている。決して小さくない規模でマイナスの影響が出ているにもかかわらず、3社共に増益を達成したのはなぜかといえば、通信以外の事業が伸びているからだ。
3社の成長をけん引する要素は共通しており、1つは法人事業である。ネットワークを提供することを強みとして、コロナ禍で高まった企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)需要を獲得していることが、業績を大きく伸ばす要因となっているのだ。
しかも、ドコモやKDDIは法人事業を通信に続く第2の柱に育てる方針を打ち出すなど、各社の法人事業にかける期待感は大きい。ドコモは法人事業に強いNTTコミュニケーションズを子会社化したことを契機として、中小企業を主体とした営業体制を強化するなど事業強化を打ち出すほか、KDDIは法人向けのシステム開発強化に向け、新たに中間持ち株会社のKDDI Digital Divergence Holdingsの設立を発表している。
そしてもう1つは、携帯電話事業で培った顧客基盤を生かした、金融や電力などのライフスタイル関連事業だ。中でもこの分野で大きな動きを見せたのがソフトバンクで、2022年度にはスマートフォン決済のPayPayを連結子会社化する方針を打ち出している。PayPayの連結化によってソフトバンクは利益1兆円を達成する見込みだとしており、実現すれば大きなインパクトを与えることとなるだろう。
これら成長事業の支えもあって、3社は2022年度も増収増益を達成できるとの予想を打ち出している。もちろん今後も料金引き下げの影響は続くが、各社のトップの発言からは、それがいつまでも続く訳ではない様子も見えてくる。
実際ソフトバンクの代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は、端末の買い替えと同時に料金を見直す人が多く、また端末買い替えのサイクルは現在3年程度となっていることから、料金引き下げの影響が出た2021年度から3年後の2023年度で落ち着くのではないかと話している。
同様に、ドコモの代表取締役社長である井伊基之氏も「今年と来年は影響が残る」と話しており、各社が2021年からの3年間が、料金引き下げの節目と見ている様子がうかがえる。3社にとってはあと2年間が正念場といえ、それまでにいかに他の事業を成長させられるかが、業績を伸ばすための重要なポイントとなるようだ。
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