一方で、今後も携帯電話事業が各社の大きな柱であり続けることに変わりはなく、それだけに重要になってくるのが5Gのネットワーク整備だ。携帯各社は現在5Gのエリア拡大に向け力を注いでいる状況だが、とりわけ3社のエリア整備状況と戦略には変化が出てきている。
現状最も整備が進んでいると見られるのは、5G向け周波数帯だけでなく4Gからの転用周波数帯も活用しているソフトバンクだろう。3月時点ですでに5Gの人口カバー率を達成しており、2022年度も5Gへの集中投資を継続する方針とのことで、宮川氏は「4G=5Gとなる所まではやり切る」と、さらなる5Gネットワークの充実に自信を見せている。
また、ソフトバンクと同時期に人口カバー率90%達成を予定していたKDDIは、「工事が若干苦しんでいる」と代表取締役社長の高橋誠氏は説明。現在もなお5Gの人口カバー率90%を達成できていない状況のようで、整備体制にやや不安が残る印象を与えている。
そして従来4G向け周波数帯の転用に否定的だったドコモは、ここにきて4G周波数帯の転用を開始し、2023年度までに人口カバー率90%達成を目指すよう方針転換を打ち出している。その理由について井伊氏は、岸田文雄首相が掲げる「デジタル田園都市国家構想」の影響で、5Gの広域整備を加速するよう要請されたことが大きいとしており、目標の達成には「4G(周波数帯)の再利用を組み込まないと間に合わない」と話している。
またその5Gを巡っては、4月に新たな周波数帯として2.3GHz帯の割り当て免許の受け付けが始まったのだが、申請したのは4社のうちKDDI(と傘下の沖縄セルラー)のみで、他の3社は申請すらしなかったことが驚きをもたらした。実際高橋氏も、他社が申請しなかったことに「びっくりした」と話しており、やはり驚いている様子を見せている。
この周波数帯は元々放送事業者がFPU(無線中継伝送装置)で使用している帯域で、割り当てられた事業者は放送事業者が使っていない時だけこの帯域を使用するよう制御する「ダイナミック周波数共用」という技術の導入が必要で、放送事業者に利用が大きく左右されてしまうデメリットがある。システム導入にコストがかかる割に、携帯電話会社にとって重要な広域のエリアカバーには適さず、獲得するメリットが小さいことが見送りの理由と見られている。
なのであればなぜ、KDDIはあえてこの帯域の免許獲得に動いたのだろうか。その理由について高橋氏は、「2.3GHz帯はグローバルで使われている貴重なエコバンド」と回答、既に対応している端末も多く活用しやすい帯域であることを挙げている。一方でダイナミック周波数共有システムの導入については「技術陣がなんとか対応できそうだという話なので手を挙げた」と答えるなど、対応に自信を示している。
また電波を巡ってはもう1つ、最近楽天モバイルが1GHz以下のいわゆる「プラチナバンド」の再割り当てを求めていることも注目されている。これは携帯各社が周波数免許を更新し使い続ける傾向にあることから、電波の有効利用や競争促進の観点に立ち周波数免許の再割り当てができる仕組みを導入するよう電波法を一部改正する法案が国会に提出されていることを受けたもので、楽天モバイルは携帯3社からのプラチナバンド再割り当てを、経営上の最重要課題として獲得に力を注いでいる。
だが他の3社からしてみれば、一部でもプラチナバンドが失われればサービスに影響が出るのは必至であるし、再割り当てをするには各社のネットワークに工事が必要になる。井伊氏や高橋氏は、周波数の有効活用の観点から再割り当ての仕組みを導入することには賛同の意向を示す一方、高橋氏が「有効利用している周波数帯を他に割り当てるのには慎重な議論が必要」と話すなど、やはり楽天モバイルの動向には懸念を示しているようだ。
高橋氏はさらに、楽天モバイルにプラチナバンドを再割り当てするとなれば、5Gの整備に割いているリソースをそちらの対応に回さざるを得なくなり、5Gのエリア整備スケジュールにも大きな影響が出る可能性も示唆していた。それだけに総務省、ひいては政府が今後、公正競争を重視して楽天モバイルへのプラチナバンド再割り当てを取るのか、デジタル田園都市国家構想を重視し既存事業者による5Gのエリア拡大を取るのか、どのような判断を下すのか注目される。
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