1年の大半を海外で飛び回るモンスターラボ鮄川社長が「対面」にこだわり続ける理由 - (page 2)

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2022年05月03日 09時00分

コロナ禍における最大の変化は「3年ぶりに日本に部屋を借りた」

——ところで、鮄川さんは1年のかなりの期間、本社がある東京を離れて仕事されているそうですが、なぜ頻繁に海外に行っているのでしょうか。

 コロナ禍以前はだいたい1年の3分の2くらい、最近は半分ほどが海外で、これまでに68カ国を回りましたが、こういう生活になったのは2016年頃からです。海外で何をしているかというと、拠点のリーダーシップメンバーらと経営の方向性や戦略について対面で話し合うことが多いですね。互いに理解を深めるにはやはりフェイストゥフェイスの方がやりやすいんです。

 また、M&Aや新しい市場を開拓していくにあたっては、事前のリサーチや相手企業とのファーストコンタクトはリモートでやるとはいえ、直接経営者と話すフェーズになってくると自分で現地に行って会うようにしています。マーケットを知り、会社や経営メンバーをよく知るというのは一番大事なところですし、そこはオンラインではできない部分だと思っていますので。

——以前から海外との関わりは多かったのでしょうか。

 大学を卒業するまでは海外に行ったこともありませんでした。もちろん留学や海外に住んだ経験もないです。ただ、最初に勤めたコンサルティングファームでは、たまたま自動車メーカーのプロジェクトに配属されてフランスで仕事をしましたし、その後、中国に開発拠点をもつ会社に勤めたときに海外出張に行ったり、ということはありました。

 その中で、自分としては新興国に貢献したいという思いがあって、それに対して日本の人口・労働力減少の問題と合わせてボーダーレスで考えることで解決の糸口が見つかるだろうな、という予感も頭にありました。どこの国でどんなニーズがあり、どんな人がいて、どんな会社があって、どんな可能性があるのか。そういうことを物理的に肌身に感じて自分が知りたいというのもありますし、その上で会社を成長させながら社会に貢献できることを探したい、というのが海外に行く強い動機になっているように思います。

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——海外に行かれたときは、どんなことを大事にして過ごしていますか。

 ビジネスの視点で言えば、数に当たることが大事ですね。いろいろな会社の人と話せばその都度新しいインプットがあり、新しい視点がもらえます。だから時間をかけて数に当たる。マーケットのトッププレーヤーだったり、スタートアップだったり、異なる業界の会社の人と会ったり、そういうところを意識して動いています。あとは普通に街に出て、物価を確認したり、どんな環境で人々が生活しているのか見たりしますし、大学を訪問することもあります。若い人たちがどういうカリキュラムでどんな勉強しているのかとか、そういうこともわかりますので。

 あえて通訳やアシスタントは連れて行かず、自分で動き回ります。そうすることで土地感覚が否応なしに身に付きますよね。ホテルの人やUberのドライバーなど、いろいろな人たちと話すことになりますし、現地の人と少しでも会話することでビジネスに役立つ情報が得られたりするものです。あまり危険なところを1人でうろうろするなと会社の人には言われているんですけど(笑)。

——1箇所の滞在期間としてはどれくらいになることが多いですか。

 だいたい1都市あたりは2~3日滞在しますね。場合によっては6~7週間で十数カ国回ったりとか。コロナ前だと年間150回は飛行機に乗っていたので、移動 は確かに大変でした。空港までの時間と空港に滞在している時間、フライトの時間を全部合わせると、それだけで年のうち数カ月分は移動だけに使っているような感じで嫌になります。

 ただそれでも、自社の拠点、特に規模が大きかったり重要な機能が集まっていたりする拠点では、フェイストゥフェイスでやることが大事ですし、それによってオンラインでは不可能なより深い話ができるので、時間をかけて移動してでもその価値はあると考えています。最近はオフィス設立何周年記念みたいなパーティーなど社内イベントも多く、それにもできるだけ参加するようにしています。

 既存の拠点にトップが顔を出すのは、きちんとその拠点や国を重要視しているという意味づけにもなるんですよね。あまり行っていない拠点があると、「あの国にはよく行ってるのに、自分のところにはなかなか来てくれないな」と思われるので、それを気にするとずっとぐるぐる回り続けないといけなくなっちゃうんですが、その気持ちも理解はできるので、できるだけ定期的に拠点は回ろうと思って顔を出しています。

——このコロナ禍で移動が制限されることになり、海外に行く頻度はやや少なくなったようですが、他に気持ちの上で変化したようなところはありますか。

 実は2021年に、久しぶりに東京に家を借りたんです。それまで3年間、どこにも家を借りてなかったんですが(笑)。もともと僕が家を持たなくなった理由は、たとえば東京に家があることで、取締役会や金融機関との打ち合わせなどで物理的に会うのが当たり前になってしまうからでした。それにすごく制約を感じたというか、違和感を覚えたんです。グローバル企業なのに、特別な理由がないときでも東京や日本に居るのが経営者としては普通のことだと周囲の人たちが自然とそう思っていました。

 オンラインでほとんどのことが実現できるわけですから、何もないときに外国にいたって本当はいいはずなんですよね。そもそも世界のどの国にどんなオポチュニティがあって、会社として今どこに注力するべきか、といったことをトップが俯瞰して見るためには、あえて東京に住居を置かない方がいいという考え方もあります。そういう意味でも「東京に家がないんです」と説明できるのは一番わかりやすかった。打ち合わせしたいと言われたときに、普段は東京にいないのでオンラインでいいですか、と言いやすいわけです。

 しかしコロナによって、自分1人で社会の目に見えない常識みたいなものに抗わなくても、世の中がそれを許容していった。それが自分にとって一番大きな変化でしたね。以前は取締役会などで自分が物理的にいないのが、なんとなく他の参加者が違和感を抱くような気配があったんですが、それもなくなりました。それで、僕としては東京で1年の3分の1、あるいは半分近くを過ごしているときに、ずっとホテル暮らしというのもやはりきつかったんですよね。なので、世間が変わったのであれば、そろそろ家を持ってもいいかなと思って、再び東京に部屋を借りることにしました。

 当たり前のことなんですが、睡眠の質を上げるためにも、できるだけ同じ枕で寝たほうがいいじゃないですか(笑)。だから、自分の生活や仕事環境だけを考えると、僕の中ではコロナの影響はポジティブでしたね。1人で何かに一生懸命抗う必要がなくなったみたいな。もちろん経済的な影響とか、厳しい事業環境のなかでも会社をちゃんと存続させないといけないとか、そういうプレッシャーはありましたが。

グローバル企業ならではの「日本の地方創生」

——話題を変えて、会社としてはどの拠点のどのプロジェクトにも力を入れていると思いますが、個人的に気合の入っている最近のプロジェクトがあれば教えてください。

 2021年8月に島根県出雲市のデジタルアドバイザーに任命されたことでしょうか。市長がCDO(チーフデジタルオフィサー)を兼務して、その市長直下でCDO補佐官を担当しています。地域のDXについては、ウェブサイトやモバイルアプリを作るようなところから、近年は空間全体、たとえばスマートシティにまでスコープが広がってきて、市民の暮らしや出雲市の未来をどうデジタルでアップデートできるか、みたいな話になってきています。

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 まだスタートして1年弱ですが、ロードマップを作り行政改革に近い部分も手がけつつ、観光、医療、教育などいろいろな分野においてデジタルで実現できることをさまざまなステークホルダーと一緒に考えていく、というような形でプロジェクトを進めているところです。

——そのような日本国内の地方に関わるようなプロジェクトは、これからも増えていきそうでしょうか。

 そうですね。これにはわれわれとしては2つの意義があると思っています。まず、日本がこれから人口減少していくことを考えると、少ない労働力で効率化していくためにもテクノロジーの活用は欠かせませんし、それに対してわれわれは国内外の多くのお客様やパートナーがいますので、彼らとともに貢献できる余地が大いにある、と考えているのが1つ。

 もう1つは、グローバル企業だからこそ日本の地方創生、地方活性化に役に立てると考えていることです。たとえばまさに今、ロシアで会社を経営している友人が、ロシア人やウクライナ人の社員も含め出雲市に会社ごと移転する、という動きをしているところだったりします。

 日本の地方にそうやって海外の人材を呼び込むことができれば、地域活性化や日本の国力アップにもつながるかもしれません。これこそ世界と繋がっている企業でなければ実現できないことですから、そういう事例をたくさん作れる会社になっていきたいと考えていますね。

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