神戸市行財政局職員研修所は、課長級職員を対象とした庁外インターンシップ研修を実施した。業務運用におけるDX化、導入にあたっての課題解決について、必要なノウハウを民間企業から学び取り、実務に生かすことが狙いだ。神戸市が市民サービス業務の一部を委託しているパーソルテンプスタッフとソフトバンクが受け入れに応じ、2021年12月に2社での研修を実施した。
パーソルテンプスタッフとのインターンシップ研修は5日間で、2人の課長級職員が参加した。カリキュラムの前半では、神戸市が委託している「ヘルプデスクおよびコールセンター業務」の現場となるパーソルワークスデザインを訪れ、どのようにITツールを使い、運用しているかを学んだうえで、実際にオペレーター業務を体験した。
元々神戸市は、民間企業との連携や外部人材の登用に積極的に取り組んでおり、また職員が民間企業や中央官庁へ出向することも多い。今回ポイントとなったのは、管理職である課長級の職員が研修に出向くこと。市役所内で業務のスマート化を進めている、およそ40の業務を担当する部署や、業務改善に取り組んでいる課長が参加対象になったのは、今回が初となる。
今回の研修は、パーソルテンプスタッフの子会社で神戸市を担当するパーソルワークスデザインが担当した。パーソルワークスデザイン 公共ソリューション部長を務める齋藤啓介氏は、「このプログラムは、当社としてはインターンというよりも、教育研修という場としてご用意した認識。とはいえ、今回のように自治体職員を受け入れたことは初めてで、実は民間企業の受け入れもしたことがない。そう言った意味で当社にとっても初めてづくしの取り組みで非常に刺激となっている」と語った。
委託している業務は、市民からの問い合わせを受ける「神戸市行政事務コールセンター」と、市の職員が使用しているPCのトラブルシューティングである「PCヘルプデスク」、そのほか「神戸市コロナワクチン接種予約コールセンター」「神戸市通報一次コールセンター」などがある。今回の研修は、「PCヘルプデスク」のコールセンター業務を体験した。
PCヘルプデスクへの問い合わせは、直近の2021年1〜12月で累計2万7481件。基本的に平日のみの運用で、実働日数は市役所の開庁日と同じ239日だ。これを1日に換算すると、実に110件以上のトラブル、困りごとといった何かしらの相談がある計算になる。問い合わせの内容や時期にも傾向があり、年間を通して共通する2つのピーク期があることがわかっている。
1つのピーク期は、新年度を迎えたばかりの4月上旬。職員が使用する事務処理用PCは人事異動の際、それまで使っていたPCを持って移ることができず、異動先でもともと前任が使用していたPCを受け継ぐ形になる。この時、初期設定に困る職員が多い。2021年4月の場合は、電話相談の発生件数が6000件を超えた。
次いで大きいもう1つのピーク期は、1~2月、PCなどの電子機器類の交換時期に当たる。理由は4月のピーク期とほぼ同様だ。新年度を間近に控え、人事異動や新入社員、職員の話題が組織内で取り上げられる一方で、システムや備品管理、情シス関連部門の従事者たちは、従業員の勤務環境整備のピークを迎える。一万人を超える神戸市職員のインフラ整備もまた、デジタル戦略部が筆頭となって取り組んでいる。必要最低限でも漏れなく全員をサポートできる仕組みが必要だ。
パーソルワークスデザインでは、このヘルプデスク(コールセンター)業務において、オペレーターのサポートに音声自動認識やAIによるFAQ回答の表示など、最新テクノロジーを活用している。
日頃神戸市との業務に向き合うパーソルテンプスタッフ 犀川幸秀氏は「コールセンター業務の中で、導入済みも含め、AIを使ったICT活用のフレームなど、さまざまな仕組みを実際に体験していただく。自治体ごとで取り組まれているICT化に向けた動きの中で、参考になるものがあれば」と話す。
カリキュラムの後半では、各オフィスを回りながら、現場で実践しているRPA構築をはじめとする業務効率化やBPOについての座学と、研修生となった二人が抱える悩み、課題などのブレインストーミングを行った。
パーソルテンプスタッフの業務改革推進部は、BPRやRPAの切り口から生産性向上をめざし、企画業務を担う。パーソルテンプスタッフ 業務改革推進部の矢頭慎太郎氏は「時間などの資源に余力を生み出して、現場や経営に還元し、お客様やマーケットへ付加価値をより高くできるよう、その環境と基盤を構築することが目的」で、業務改革推進室とRPA推進室の2課によって構成されていると話す。
――KPI設定やROI指標の考え方に基づくRPA導入の進め方で心掛けていることは?
矢頭氏:人を減らすという目的でRPAを活用するわけではなく、新しい企画のための時間を確保するため、という目的を持っています。社員を増やさないと解決できないくらいの業務量を、これ以上増やさず抑えるためにRPAを入れるイメージですね」と話す。
――ROIの思想を持って業務に取り組む行政組織はまだまだ少ない印象です。自治体に導入する手法として大事なことは何でしょうか?
矢頭氏:伴走者、支援者がいることです。そしてどんなに小さくても成功体験を積んでいくことが必要で、横串にしていくためには誰か(担当)だけの努力になってしまってはいけません。
そして、2つの大きなモチベーションがあると考えています。1つは推進する側のモチベーションで、もう1つは動かす側のモチベーションです。
――今回の研修では、二人の職員研修を受け入れていただきました。対話をしてみて、お感じになったことを教えてください
矢頭氏:業務改革は、基本的に中長期的に大きく変えるようなプロジェクトです。RPA推進から業務改革推進に転ずることもあれば、その逆もあり得ます。全体俯瞰、全体最適な状態である絵を描きながら、現場に行って関わっているバランスをとることが大事で、接点作りといった観点でも、現場に歩み寄り巻き込んでいった方が良いと思います。また、これは自戒も込めてではありますが、推進の定義は「未来志向、目的志向で“あるべき姿”を構想し、そこに向かって意思を持って進めていく」ことだと思っています。そしてその傍で、現場で困っていることに寄り添って理解したうえで、支援する姿勢も必要だなと思いました。
後編では研修者となった二人へのインタビューを通して、現場の実態を紹介する。
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