今回試しているMojo Lensは、前回試した2020年バージョンより、搭載するハードウェアが増えているのは間違いないが、まだ完全稼動には至っていない。「無線機能があって、ディスプレイと3種類のモーションセンサーを搭載している。十分なバッテリーと電力管理システムも備えている。すべて内蔵しているのだ」。Sinclair氏はこう話す。ただし、レンズ上の電力システムは、まだ眼球の上で動作する段階ではない。現時点では手に持ったアームブラケットに接続され、そこを通じて給電されている。また、筆者が試したデモ機では、表示するデータの通信も無線チップを使って実施している。
レンズ自体に搭載されているのは、小型プロセッサー「ARM Core M0」で、それがレンズで送受信される暗号化データや、電力管理を処理する。首に装着するデバイスがアプリケーションを実行し、アイトラッキングのデータを処理して、100分の1秒ごとに画像の配置を更新する。グラフィックは鮮明とは言い切れないものの(Sinclair氏によると「コンテンツの径は300ピクセル」だという)、プロセッサーはそのデータを短時間で確実に更新し続ける必要がある。同期がとれなくなったら、眼球の上の情報はたちまち乱れてしまうかもしれない。
Mojo Lensを最初に眼球に装着するのは、Mojo Visionの最高経営責任者(CEO)Drew Perkins氏で、同社幹部がそれに続く予定だ、とSinclair氏は説明する。それ以外の幹部チームによる試用は、さらにその後になる。同社は2022年に入ってすぐ、スポーツやフィットネスの大手ブランドと提携したことを発表しているが、その目的は、Mojo Lensをフィットネスやスポーツトレーニングの用途でどう活用できるかについての早期テストに取り組むことだ。
Mojo Visionは、同社のレンズ製品を、医療用として認定された視覚補助デバイスとしても活用すべく取り組んでいるが、こちらの展開はまだ先のことになりそうだ。その未来像について、Sinclair氏はこう語っている。「低視力のユーザーが、第2の高解像度カメラをメガネに組み込んで、あるいは耳にかけて使うという用途も思い描ける。そのカメラが、被写体から真に高解像度の画像を取得して、ユーザーの目の前に再現する。ユーザーは、パンやズームも使いながら見ることが可能になる」。今はまだそんな段階ではないが、今回のようなアイトラッキング機能を備えたウェアラブルのマイクロディスプレイは、そのはしりといえるだろう。
一方、コンタクトレンズとしては米食品医薬品局(FDA)の承認も必要で、Mojo Visionはその取り組みも進めている。また、実際の製造には各種処方箋が必要になり、同社はレンズが自然に見えるように、チップハードウェアを人工虹彩で覆うことも目指している。
「製品化までの課題は多い。まだ製品ではない」と、Mojo Lensの現状をSinclair氏は強調する。こうしたレンズを眼球に装着してみる最初の1人になるとしたら、筆者だったらかなり不安になるに違いない。これまで全く存在していなかった技術なのだから、それは当然だ。Mojo Vision以外にスマートコンタクトレンズを開発している企業は、筆者の知る限りもう1社、InWithしかない。こちらはソフトレンズで、その動作に関するデモを見たことはないが、まだディスプレイは備えていないようだ。こうした小型ウェアラブルディスプレイの最前線を見ていると、これまで最先端だったスマートグラスが、相対的に時代後れに見えてくる。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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