簡潔に言うと、赤色に関する情報を本当にすべて持っていたのであれば、メアリーはある意味で全知の神なのではないだろうか、というのがDennett氏の主張だ。彼女は普通の人間のように色を知っているだけではない。もし赤色の「クオリア」なるものが実在するのであれば、理論的には、彼女はそれについて文献から学んだはずだ。この考え方からすると、クオリアこそがAIを進化させるものであり、現状は活用法がわかっていないだけ、という推測もなりたつ。
とはいえ、この議論は袋小路のように感じる。メアリーがそのような力を持っているのかどうか知るよしもない。人間は全知の神ではないので、そうした力がどのようなものなのかも分からない。したがって、こうした制約を取り除くために、メアリーは人間ではないと考えてみよう、とDennett氏は述べている。
ここで、ロボメアリーの登場だ。
「ロボットの観点から考えることは、有益な知的訓練である。脳はまだ十分に解明されていないので、どんな重要なことが起きているのか特定することはできない、という言い訳を排除できるからだ。脳の神秘的な力に関する、ある意味漠然としたロマン主義によって、私たちの判断が鈍ってしまうのも防ぐことができる」。Dennett氏は、そう記している。
2つ目の思考実験へようこそ。
ロボメアリーは、「Mark 19」と呼ばれるロボット群の一種だが、不幸にもカラーカメラが組み込まれていないという点で異なっており、アップグレードが待たれている。アップグレードまで、ロボメアリーの「目」、つまりビデオカメラは白黒でのみ情報を送信する。
「ロボメアリーの白黒カメラは、隔離された人間のメアリーの代役を務めるのに最適だ。ロボメアリーには、白黒カメラの目で、精神物理学や神経科学の雑誌を自由に読ませることにする」(Dennett氏)
基本的に、ロボメアリーは彼女独自の魔法の図書館で書籍を閲覧している。だが、ロボメアリーはその行動をもう一段階発展させる。
Dennett氏の記述によると、ロボメアリーは、Mark 19の色入力の仕組みを学習した後、「自身の膨大な知識を利用して、白黒カメラからの入力に色を付けることができるコードを記述する」という。ロボメアリーは人間のメアリーができない方法で自分自身に変更を加えている。
この新しい設定により、ロボメアリーは、例えば白黒の視覚でリンゴを見た後、Mark 19ロボットの正しいカラーコードと同じように、それを正確に想像することができる。ロボメアリーは、世界を探索しながら、その設定をあらゆるものに自動で適用するようになる。しかし、ロボメアリーが人間のメアリーと大きく違うのは、動作している他のMark 19を観察して、さまざまな色に対する反応を分析し、同じような反応を返すよう自分自身を調整することだ。
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