人間のような人工知能(AI)を構築しようとする場合、人間を脱構築の方法で分析することから始まることが多い。例えば、指紋について考えてみよう。石けんのついた皿を持つとき、私たちは直観的に指紋の凹凸を利用して持ち方を調整する。反射的な動きとみなしているため、持ち方について思いを巡らせたりはしない。長い間、科学者たちも同様だった。この仕組みを解明する方程式など存在しなかった。それほど重要なことではなかったからだ。だが、ロボット工学の台頭を受けて、物事は複雑になっている。
ロボットに同じことをやらせたければ、何が起きているのかを正確に理解するだけでなく、その理解を記述可能なコードに変換する必要もある。現在では、指紋が滑り止めの役割を果たす仕組みを解明することが重要になっており、研究者たちは、それを説明する新しい物理法則の発見にようやく着手している。
物理的な知識と、人間の特性をコード化する能力は、ある意味ロボットをプログラミングする際の前提条件だ。このことは、人間のようなAIを目指す際の重要な問題を提起している。この条件を当てはめることができない側面が、人間の意識にはあるのだろうか。一部の哲学者によると、そうした側面が存在する可能性もあるという。
以下で紹介する2つの驚くべき思考実験について読めば、あなたも哲学者の意見に同意するかもしれない。あるいは、納得しないかもしれないが。
メアリーは小さな家で暮らす女性で、外に出たことは一度もない。家の中や窓の外を見ると、すべてが白黒、またはさまざまな色合いの灰色に見える。メアリーには、色が見えない。だが、「白黒のテレビに出ている人が、赤いバラと言ったりする時、それは一体どういう意味なのだろうか」と、不思議に思うことが良くある。
メアリーの部屋に魔法の図書館があるとしよう。この架空の図書館には、赤という色に関する、ありとあらゆる情報、すなわち何から何まで記載された書籍が何冊もある。メアリーは知識欲を満たすために、それらすべての書籍に目を通す。
赤い電磁波の波長、深紅の色に人が抱く感情、緋色に関する極めて明確な説明、サクランボから連想できる物事、考えつく全てのことについて、メアリーは学ぶ。赤色に関して、メアリーほど詳しい人はいない。その後、全てを読み終えたメアリーは、家の外に出てみることにした。
メアリーは驚嘆する。
驚いたことに、さまざまな色が見えた。メアリーは色覚異常ではなかった。単に家や家具、電子機器が白色か黒色だっただけだ。また、外の世界は、窓ガラスのフィルターがモノクロにしていた。
それから、重大な出来事が起こった。メアリーは赤いリンゴを見つける。知り尽くしたはずの色だが、驚きで呆然としてしまう。赤色について、新たな知識を得たためだ。だが、それは不可解だ。図書館にこの知識が収められてないのはどういうわけだ。あの図書館には、赤色について学びうるすべての情報があったはずだ。
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