共創コミュニティの「ムラ社会化」を防ぐには?--オープンイノベーション施設の運営者たちが語るリアル

 CNET Japanは、2月21日〜3月4日の2週間にわたりオンラインカンファレンス「CNET Japan Live2022」を開催した。テーマは「社内外の『知の結集』で生み出すイノベーション」。社内の知恵を募集する社内ビジネスコンテストや、複数企業の強みを掛け合わせるオープンイノベーションなどに、今まさに取り組んでいる挑戦者たちをスピーカーとして迎えた、全18のプログラムで構成されたオンラインイベントだ。

 ここでは、3月1日に行われたパネルディスカッション「オープンイノベーションに求められる『コミュニティ』とは ~コミュニティの重要性とメリット・デメリット~」の様子をお伝えする。登壇者は、NTT西日本 イノベーション戦略室 シニアマネージャーでQUINTBRIDGE オープンイノベーションプロデューサーの及部一堯氏、ライオン 研究開発本部 戦略統括部 イノベーションラボ所長、point 0 取締役、station アンバサダーを務める宇野大介氏、森ビルオフィス事業部 ARCH企画運営室 室長 飛松健太郎氏のの3名。モデレーターは、CNET Japan編集長の藤井涼が務めた。

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 パネルディスカッションは、NTT西日本が立ち上げたオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」に及部氏と宇野氏、モデレーターの藤井が集まり、リモートで飛松氏が参加する形で行われた。登壇者の3名は、それぞれ大企業に籍を置いてオープンイノベーションに取り組み、そのための施設を運営するという共通項を持つ。

 及部氏は、個人としてもこれまでに関西の大企業有志団体ネットワーク「ICOLA」、一般社団法人のパラレルプレナージャパンなどを立ち上げ、社内外でさまざまなコミュニティを形成してきた。NTT西日本のQUINTBRIDGEは、業界・地域課題の解決や未来社会の創造に向けて、「学び・繋がり・集う・共創する」ための“場”であり、共創パートナーとして、企業やスタートアップ、自治体、大学などとコミュニティを構築する。「ビジネスアイデアの構築支援、技術検証やサービス開発の支援、社会実装に向けたPoC・導入支援をし、一緒に地域や業界の課題解決や、未来社会に向けたビジネス共創をおこなっていきたい」と話す。

QUINTBRIDGEのコミュニティ構築スキーム
QUINTBRIDGEのコミュニティ構築スキーム

 宇野氏は、2018年にライオン社内で新規事業立ち上げに取り組む組織「イノベーションラボ」を発足。その絡みで共創コンソーシアム「point 0」に参加したことで「コミュニティの大事さに気付き」(宇野氏)、副業でコミュニティデザイン企業のstationでアンバサダーとして活動している。point 0は現在コミッティ企業として20社が参加し、東京の丸の内で「point 0 marunouchi」を運営するほか、昨今では自宅でのリモートワークが難しい人向けに、パートナー企業と組み東京と大阪でサテライト型の個人向けオフィスを設置している。

point 0 marunouchiの概要
point 0 marunouchiの概要

 飛松氏は、東京の虎ノ門ヒルズの大企業向けインキュベーション施設「ARCH」の仕掛け人である。以前はメルカリやFacebookなど数々のスタートアップ企業の誘致を進め、その後社内でイノベーション創発領域のチームを発足、2020年4月からはARCHの責任者を務める。ARCHは、大企業の新規事業部署に特化した施設で、メソッドから情報共有までさまざまなカリキュラムを付けていることが特徴。参画企業は3月時点で100社を超え、早晩120社800人になる」という。

ARCH内部の様子
ARCH内部の様子

コミュニティづくりに取り組んだきっかけは?

 パネルディスカッション最初のテーマは、「コミュニティづくりに取り組んだきっかけについて」。及部氏は、大手飲料メーカーに出向した際の気付きが発端であり、外を知ることで自社の改善点が見え、知識の幅やできることが広がることがわかったのだという。

 「いろいろな人と接点をつくっていくと自分の成長につながり、それが企業の成長にもつながる。企業の成長ができれば社会経済の発展に貢献できると思い、社内の有志団体や社外の有志団体を作っていった。それが最初のコミュニティづくりのきっかけ」(及部氏)

 宇野氏の場合は、前提としてpoint 0を作ろうとした企業横断のメンバーがおり、そこでのコミュニティがまず存在し、個人同士がつながって組織化されていった形であるという。「マンツーマンでつながっていた状態から大きくなる段階でのコミュニティづくりが、今自分が抱えている課題であり、楽しいと思えるところ。あえてきっかけと言えば、面白いと思ったこと」(宇野氏)

 飛松氏の場合は2人とは若干異なり、デベロッパーとしての戦略でエリアブランディングのために、コミュニティづくりを武器と捉え取り組んでいると話す。かつて六本木ヒルズに居を構えた新興のIT企業や外資金融業の躍進が大企業主義の日本社会にインパクトを与えたように、令和の今はイノベーションコミュニティの存在が大きなムーブメントを起こす可能性があるとの見方を示す。「ディベロッパーがコミュニティをうまく仕掛け、活性化することによって、世の中を動かして進化させていけると感じている」と飛松氏はいう。

 このようにきっかけは三者三様であるが、目指しているところは似通っていると宇野氏は語る。「何かをしようとしても一人ではできない。その中で、さまざまな人たちが一緒になって大きな動きができあがってくる。そういうところを目指しているのだと思う」(宇野氏)

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point 0の宇野氏(左)、NTT西日本の及部氏(右)

3者が考えるコミュニティの「定義」と重要性

 続いてのテーマは、「なぜコミュニティが重要なのか」。視聴者からの「そもそもコミュニティとは何を指しているのか」という質問と合わせてそれぞれが回答した。

 飛松氏はコミュニティについて、「共通の価値観や考え方、意識を持って集まっているひとつの集団」と定義する。「コミュニティに同一な目的を持つ多様な背景の人を集めることによって、その中で意思決定や化学反応が起き、徐々にそれが磁力を生み、発信に変わる。それが活発になると、世の中を動かす力になる」のだという。

 宇野氏は言葉が持つ定義こそ同様であるものの、飛松氏が運営するコミュニティがまず場を作っていくものであるのに対し、あくまで自然発生的であるとの違いを示す。「何かに拘束されているのではない状態。組織の目標だけでなく、個人の責任や裁量にフォーカスして活動をしているからこそ、コミュニティが活動できる範囲が広くなってスピード感が高まる。それがいま求められているため、コミュニティが重要だといわれているのではないか」(宇野氏)

 及部氏も同様に、コミュニティはある目的のために集まった集団であると定義する。ただし、「箱のことでも場のことでもなく、ある目的の下に集まっている人や企業、団体などの集団のこと」であると強調する。

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