そこそこのスマートフォンを手に入れるために、1000ドル(約12万円)近くも出す必要はもうない――この点でAppleとサムスンの意見は一致しているようだ。しかし、手頃な価格のスマートフォンが何を指すのかについて、両社のビジョンは大きく異なっている。
両社のアプローチの違いが、今回ほどはっきり感じられたことはない。Appleとサムスンはどちらも3月にオンラインで基調講演を行い、「iPhone 13」や「Galaxy S22」といった話題の上位機種より数百ドル安い新機種を発表した。先行したのはAppleだ。同社は米国時間3月8日のイベントで429ドル(日本では税込5万7800円)の新型「iPhone SE」を発表した。この手頃な価格のiPhoneは、見た目こそ2017年発売の「iPhone 8」と似ているが、5Gに対応している上にiPhone 13と同じプロセッサーを搭載している。続いて17日にはサムスンが広い画面やマルチレンズのカメラなど、上位機種の機能を部分的に取り入れた449.99ドル(約5万3000円)の「Galaxy A53 5G」を発表した。
相次いで登場したこの2モデルは、Appleとサムスンが現代のスマートフォンに必要だと考えている技術について、多くのことを教えてくれる。Appleはデザインの新しさやカメラの性能を犠牲にしても、最新のプロセッサーを搭載することにこだわった。サムスンのアプローチはAppleの逆だと言えるかもしれない。サムスンの低価格帯スマートフォンは、「Galaxy S」シリーズよりも性能の劣るプロセッサーを搭載していることが多いが、ぱっと見には上位機種と変わらないモダンなデザインを採用している。
Appleにとって、iPhone SEは「iMessage」「Apple TV+」「Apple Arcade」「App Store」といった自社サービスに新たな顧客を引き込む安価な方法だ。一方、サムスンは高度な機能を低価格で提供することを目指している。
2022年発売の機種でありながら、4年前に発売された「iPhone 8」と見間違いそうになるのも無理はない。新型iPhone SEは昔のiPhoneのように画面の上下に厚いベゼルがあり、物理的なホームボタンを備えている。ディスプレイは4.7インチ、つまり「iPhone 13 mini」の5.4インチと比べてもかなり小さい。また、上位機種は2つか3つのカメラを搭載しているのに対し、新型iPhone SEに搭載されているのは12メガピクセルのカメラだけだ。
そう聞くと、新型iPhone SEは時代遅れの端末のように思うかもしれないが、重要なのは中身だ。新型iPhone SEは、最新のiPhone 13と同じ「A15 Bionic」プロセッサーを搭載しているため、きびきび動く。また最新のチップを搭載しているということは、今後何年にもわたってiOSの新機能を利用できることを意味する。「iOS 15」は「iPhone 6s」や2016年発売のiPhone SEなどの旧機種でも動作するが、一部の機能は新しいチップを搭載した機種でしか利用できない。
これこそが新型iPhone SEの魅力だ。深度センサーやマルチレンズカメラ、鮮やかな有機EL画面といった最先端の技術を提供することは、この機種の目的ではない。新型iPhone SEは、普段使いのiPhoneをなるべく低価格で手に入れたい人のためのものだ。
Appleは新型iPhone SEを通じて、高額なハイエンドiPhoneには見向きもしてこなかった低予算の消費者にアプローチしようとしている。こうした消費者が新型iPhone SEを買えば、いずれは「AirPods」や「Apple Watch」も買うかもしれない。「Apple Music」や「iCloud」ストレージプランに加入するかもしれない。つまり、iPhone SEの魅力はハードウェアではなく、Appleという世界への入場券が手に入るところにある。
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