ウクライナの窮状を訴えるゼレンスキー大統領のネット発信力

Imad Khan (CNET News) 翻訳校正: 編集部2022年03月23日 07時30分

 ウクライナの首都、キエフの大統領府でVolodymyr Zelenskyy大統領がスマートフォンを手に、執務室に向かう自分を撮影している。これはロシアがウクライナに侵攻した2月24日以降に大統領が撮影した多くの動画の1つだ。ロシアに包囲されたウクライナで、このリーダーは疲れ切りながらも闘志を失うことなく、国民を鼓舞し続けている。

Zelenskyy大統領
提供:Aleksandr Gusev/SOPA Images/LightRocket via Getty Images

 この動画は一般的なポートレートモード(縦向き)ではなく、画角の広いランドスケープモード(横向き)で撮影されているため、大統領の姿だけでなく、執務室に続く廊下や扉に施された華麗な装飾も観ることができる。

 緑色のスウェットを着たZelenskyy大統領が力強い足取りで廊下を歩いて行く。執務室に到着すると、映像が微妙に変化する。大統領を撮影しているカメラが、スマートフォンからプロ用のレンズを装着したカメラに変わったのだろう。しかし冒頭の自撮り映像もスマートフォンを横向きに持った状態で撮影されていたため、途中でカメラが変わってもあまり違和感はない。

 このカリスマ的な大統領は執務室の机の向こうから、愛国心をかき立てる国旗を背に、こう語りかけた。「以前はよく『月曜日はしんどい』と言ったものだ。今、この国では戦争が起きている。つまり、毎日が月曜日だ」

 Zelenskyy氏のカリスマは、同氏が首都キエフのあちこちで撮影している自撮り動画だけでなく、ウクライナへの追加支援を呼びかけるために先週、米国議会で行ったビデオ演説でも輝いた。ロシアがウクライナに侵攻して以来、Zelenskyy氏の存在感がソーシャルメディアを中心に高まっている。これはウクライナ政府の情報発信力の高さを示すものだ。政府は国民に語りかけるだけでなく、CNNやRedditなど世界中のメディアやソーシャルサイトで活動し、ロシアのVladimir Putin大統領の命令で始まったこの戦争に対する世界の論調に大きな影響を与えている。

 この戦争をZelenskyy氏は「欧州全体に対する戦争」と呼ぶ。ウクライナではロシアの攻撃が始まって以来、すでに300万人以上が国外に避難した。ロシア軍は今もウクライナの都市やさまざまな標的への空爆を続けている。正確な死者数は不明だが、米国当局の推測ではウクライナ人とロシア人を合わせて少なくとも数千人の死者が出ている模様だ。

 アナリストたちは、ソーシャルメディアを駆使するウクライナ政府の情報戦略は、同国が世界中から支持を集める助けになっていると指摘する(ウクライナ政府は動画を撮影するだけでなく、Twitterに投稿し、ミームを作成している)。その結果か、多くの国がロシアに過去最大規模の制裁を課すようになった。ウクライナ政府が発信するメッセージは各国の世論にも影響を与えたとみられ、McDonaldsやCoca-Cola、Starbucksといった企業がロシア事業の停止を発表すると、多くの人が各社の決定を支持した。

 開戦以降、各ソーシャルメディアではウクライナ政府公式チャンネルのフォロワーが急増している。Social Bladeによると、ウクライナ政府のTwitterアカウントのフォロワー数は、開戦前の約6倍に相当する190万人に跳ね上がったという。Zelenskyy氏のInstagramアカウントのフォロワー数も過去30日間で650万人以上増加している。

 ミームやネットジョーク寄りの投稿は、通常の動画や文字ベースの投稿よりも多くの「いいね」を獲得し、リツイートされる傾向がある。例えば、ウクライナ政府が作成した俳優のTobey Maguireさんが登場するミームは8万7300もの「いいね」を獲得し、1万1700回もリツイートされた。それに対して、ロシア政府の高官を嘘つきだと批判する動画が獲得した「いいね」は2万2000、リツイートは5250回以下だった。

 ワルシャワ大学の政治コミュニケーション学教授Olgierd Annusewicz氏は、テレビや紙媒体よりもソーシャルメディアに重点を置いていることがウクライナの勝因だと指摘する。

 「(Zelensky氏が)TwitterやInstagram、Facebookで発信すれば、そのメッセージは大勢の人に届く。世界中のユーザーがアクセスできるからだ」と、Annusewicz氏はZoomのインタビューで語った。もし国営テレビ局だけで情報を発信していたら、「メッセージは届かなかっただろう」という。

 ウクライナ政府のメディアチームは、自国のメッセージを世界に届けるために国内の悲惨な現実も直視した。政府はロシア軍が激しい爆撃をくりかえし、民間人の命を奪っていることを証明するためにソーシャルメディアを活用している。先日、Zelenskyy氏が米国議会でビデオ演説を行い、ウクライナ上空を飛行禁止区域に設定するための支援を求めた際は、人々の心を動かすためにウクライナの現状を伝える生々しい動画を上映した。この動画はMeta傘下の写真共有サイト、Instagramにも投稿されている。

 この演説後間もなく、米国のJoe Biden大統領はドローン、対空システム、対戦車ミサイルを含む、8億ドル(約960億円)の追加軍事支援をウクライナに提供することを承認した。

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