企業の成長につなげる「メンタルヘルスDX」最前線--人事と管理職のための改善策 - (page 2)

山田洋太 (iCARE 代表取締役 CEO)2022年03月28日 09時00分

“やりっぱなしサーベイ”の弊害--メンタルヘルス不調者が減らない理由

 テレワークの普及により、わたしたちが使うツールも続々とデジタル化されてきています。

 会議室ではなくZoomやTeamsなどのオンライン会議ツールを利用し、従業員同士の連絡・情報共有は音声による会話からチャットによる文字コミュニケーションが主軸となりました。人事や管理職から見えづらくなってきた働き方は、PCのカメラによる監視ツールやパルスサーベイ(日次・週次といった高頻度での従業員アンケート)によって把握しようと導入が進んでいます。

 リアルをデジタルツールに置き換えることによって、見えないものを可視化することを目的に導入するのでしょう。しかし、メンタルヘルスの不調要因は、テレワーク以前から見えていなかったのです。ツールをデジタルに置き換えただけでは、仕事のストレス要因は見えないままなので、メンタルヘルス不調者は一向に減ることはないのです。

 またサーベイ・従業員アンケートの実施については、「やらないよりはマシ」という意思決定でとりあえずはじめてしまった弊害が現れはじめています。

 企業側としてはサーベイを通して従業員個人の生産性やモチベーションを知りたいという思惑がありますが、従業員視点で考えてみてください。「人間関係とか気持ちを企業側には知られたくない」「仕事外の個人的なことに介入してほしくない」と会社側には知られたくない気持ちがあります。

 知られたくないならば、匿名でサーベイを実施する方法もあります。しかし、アンケートを実施するだけに留まってしまい、従業員へのフィードバックがない状況が続くと「サーベイ疲れ」が生じます。担当者にありがちな落とし穴として、サーベイによって経営陣へのフィードバックは返しているものの、従業員側への対応は後回しになっているパターンです。これがやりっぱなしのサーベイによる弊害です。

「やりっぱなしのサーベイによる弊害」に注意しましょう
「やりっぱなしのサーベイによる弊害」に注意しましょう

 とはいえ、匿名サーベイでは個々の従業員に対しての対応は不可能ですし、全社一括でのフィードバックにも限界があります。部門ごとに業務内容・作業の進め方・目標・人員の数など仕事の環境がバラバラだからです。

 だからこそ、サーベイ・従業員アンケートのフィードバックには管理職を巻き込むことが重要になります。それぞれの管理職に対して、自部署の傾向や他部署との違いを伝えることで何らかの解決策をとるように促すことが、従業員へのフィードバックにもつながるのです。

ストレスチェックは役に立たない、は本当か?--対策のヒント

 オフィスワークとテレワークが入り交じる働き方となった企業において、メンタルヘルス対策はどこから着手すればいいのでしょうか。

 ここまでの話を総合すると2つの条件が浮かび上がってきます。ひとつは、ストレス症状を見つけるだけでなく仕事のストレス要因も特定すること。もうひとつは、改善策に管理職を巻き込むこと。

 この2つの条件をクリアする方法として、筆者が注力しているのが「ストレスチェック」です。

 2015年、一定規模以上の企業(常時50人以上の従業員が働く事業場)には年に1回以上のストレスチェックの実施が義務付けられました。ストレスチェック制度の詳細について本記事では省きますが、ストレスチェックをメンタルヘルス対策として活用するポイントをご紹介しましょう。

■ ストレスチェックは匿名である

 まずストレスチェックのもっとも大きな特徴として、法律で厳格なプライバシー保護が定められている点です。ご存じない方も多いのですが、実は従業員それぞれのストレスチェックの結果は個人の同意が得られない限り企業側が閲覧することはできません。個人ごとのストレスチェックを閲覧できるのは、産業医や人事権を持たない一部の事務担当者に限られています。

 「会社に知られたくないから、ストレスチェックには本音で答えられない」という声もよくあがりますが、企業が保有する個人情報としてはマイナンバー並に厳格に守られている点を従業員には説明するとよいでしょう。

■ 組織診断として、仕事のストレス要因を特定できる

 ストレスチェックの調査票には設問数によって4種類ありますが、いずれの調査票でも従業員のストレス状況を3つの視点から数値化できます。

 1つめは現在の視点として、ストレス反応が起きていないかどうかのチェックです。活気の低下・イライラ感・疲労・食欲や睡眠などについて自覚症状があるかどうかを4択で選択します。2つめは過去の視点として、仕事のストレス要因がどれだけ負担をかけているかどうかのチェックです。業務量・業務のプレッシャー・裁量権やコミュニケーションの状況を計測します。3つめは未来の視点として、ストレスを緩和する周囲のフォローがあるかどうかのチェックです。

 先ほど解説したとおり、これらの回答を個人ごとに確認することは容易にはできません。ではストレスチェックの集計結果をどのように扱うかというと「組織診断」として利用します。

 つまり個人ごとではなく部署単位で集計された結果を比較することで、部署ごとにストレス状況を数値として可視化できるのです。たとえば、仕事のストレス要因については下図のように9つの要因が見えてきます。

  1. 仕事の負担(量)
  2. 仕事の質(質)
  3. 仕事のコントロール度
  4. 身体的負担度
  5. 対人関係
  6. 技術の活用度
  7. 仕事の適性度
  8. 職場環境
  9. 働きがい
集団分析集団分析

 これらを数値の高い(良好)部署と数値の低い(不良)部署と比較する、あるいは過去の実績と比較することによって、職場の改善策を見出すことができるのです。

 なお、このような組織診断の集計方法や改善策については、厚生労働省より「集団分析」としてガイドラインや事例集が公開されています。

■ 人事と管理職、双方の視点から改善策を実行できる

 企業におけるメンタルヘルス対策はどうしてもいたちごっこになりがちです。パルスサーベイやストレスチェックによって高ストレスな個人を特定し、個人ごとの措置を繰り返していては、いつかは管理者側のリソース不足によって対応が追いつかなくなります。筆者も経営者視点では、対処療法的な対策ではなく、ストレス要因となる職場環境を改善することで根本治療としてのメンタルヘルス対策に取り組んでほしいと考えています。

 そのためには、ストレスチェックによる組織診断を活用して、人事部門に加えて各部門の管理職を巻き込んだメンタルヘルス対策へと業務プロセスを変化させる必要があるのです。

人の目に頼っていたメンタルヘルス対策を、デジタルによって効率化する

iCARE 代表取締役 CEOの山田洋太氏
iCARE 代表取締役 CEOの山田洋太氏

 2020年以前のメンタルヘルス対策は、オフィスという集中管理された働き方によって担保されていました。しかし、強制的にテレワークへの移行を余儀なくされ、従業員のニーズとしてオフィスワークとテレワークを選択できることは当たり前となりました。その結果、人事や管理職の目に頼っていたメンタルヘルス対策は通じなくなってしまったのです。

 この課題を解決するために、業務のデジタル化が必要不可欠です。

 DX(デジタル・トランスフォーメーション)の視点でメンタルヘルス対策を捉えたとき、従来の取り組みをデジタルツールに置き換えるだけでは根本解決にはなりえません。ハイリスクな個人を見つけて個人へのアプローチによって対処療法を繰り返すことは、メンタルヘルスをデジタル化する選択肢が少なかった時代の方法です。現在では、ストレスチェックをはじめとした複数のデジタル化によって、リスクを生み出す職場環境を根本から解決できる時代になりました。

 従業員の健康を創ることが企業の事業成長につながる、そんな好循環をあなたの会社でも生み出せるように本記事の内容をぜひ社内で共有し、具体的な取り組みにつなげていただければ幸いです。

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