田窪氏は、フードテックで注目を集める企業の事例も複数紹介した。食品加工のデジタル化を手掛ける日本キャリア工業は、センサー技術を活用した食肉のスライスから折り畳み、トレイ盛りつけまでを自動化。生産性や衛生面、省人化で効果が期待されている。社内にデジタル戦略室や技術戦略室を設置し、人材育成も行うなど時代の先を読む取り組みでも注目されている。
食品流通のデジタル化もフードテックに含めており、例として東京に本社があるクロスマートと地元金融機関の伊予銀行の連携を紹介した。卸売業の業務効率化と売り上げをアップする受発注システムのDX化を進めており、県外企業との連携も支援対象としている。また、フードテックには食品容器も含まれることから、県の紙産業研究センターと産業界、大学との連携によるサステナブルな脱プラスティックの食品容器を研究開発している。
水産業のフードテックで有名な事例としては、赤坂水産の「白寿真鯛0」がある。1キロの真鯛を育てるのに4キロのカタクチイワシが必要だが、赤坂水産は植物性タンパク質を原料に、ICTを活用したというサステナブルな真鯛を養殖している。ほかにもAIを活用したIoT式のスマート給餌機「UMITRON CELL」や、真鯛の動きをソナーでセンシングしてコントロールする餌ロボを高知の会社と開発している。事業としても成功しており、こうした事例は全国でもまだめずらしいという。
今後世界で増える食料供給問題に対しては、雑貨商社のヒューネットが、フィンランドの大学ベンチャーが開発するコオロギ飼育ユニットを日本国内で独占契約し、自社でも姫路市にある廃校を利用して飼育するなどノウハウの蓄積と地域文化を守る取り組みにつなげている。
愛媛大学発ベンチャーのPLANT DATAは、特許技術を活用した植物栽培管理支援業務の自動化と高度化を実現し、植物の成長の見える化にも取り組んでいる。属人的な栽培ノウハウを形式知化することで、農業リスクを計算可能な投資価値ある事業にすることを目指している。愛媛県ではこうした科学技術のイノベーションの支援にもビジネスプランを募集するなどして、スタートアップ創出に力を入れていくとしている。
愛媛県ではこれからもフードテックをキーワードに県内外の協働パートナーを増やし、日本全体での横展開もできると考えている。「県内ではフードテックはテクノロジー活用を中心に機運が上がっており、チャレンジに取り組んでいきたい」
最後に、本カンファレンスの講演者に向けた共通の質問「共創の価値とは?」に対し、田窪氏は「地域の企業にとっての共創価値は、知恵の共有と資金の共有がある。特に後者は経済規模を大きくすることで首都圏の大企業とも闘えると考えている」と答え、カンファレンスを締め括った。
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