第1回ではEV充電難民の現状、第2回ではデザイン視点からの海外との充電環境比較を紹介した。いずれも充電器の数や機能だけではなく、ユーザー視点での普及を提議するものであるが、これには筆者の経歴が大いに関係する。
前述の通り筆者の家業は創業88年の自動車部品製造業だが、事業継承前となる大学卒業後の2002年から2010年の8年間は、広告会社でマーケティングや新規事業の立ち上げに携わっていた。いずれ家業を継ぐ前に見聞を広めるため入った無形価値創造の世界だが、消費者の傾向やニーズの市場調査、最適なターゲットへの広告キャンペーン、効果検証などにより新しいサービスを広めていく体験は、現在のEV充電ソリューション事業に大きな影響を及ぼしたといえる。
筆者自身がEVユーザーであることに起因する実感かもしれないが、EVシフトに関しては自動車という最も私たちの生活に身近なプロダクトにも関わらず、脱炭素施策や、欧米の動き、政府目標、大手メーカーの動きなど外部要因に大きく左右され、肝心のユーザーニーズや体験価値が重視されていないように感じる。
今回は、プラゴが2021年8月に実施したEVユーザーへのウェブアンケートの調査結果から、現在ユーザーが実感している課題を浮き彫りにし、今後の商品やサービスの開発に必要な視点を検討していきたい。
実施したアンケート概要は以下の通りである。
複数選択可とした「充電スポットに到着して困った経験はありますか?」では、充電時の困りごとの上位5位のうち3項目が、充電スポットでの先客にまつわるものであることがわかった。
この先客問題については、自由記入欄にかなりの文字数でご意見を書いてくださったユーザーも多く、今回はその中から3分で満タンになるガソリン車の概念では理解しがたい、EV充電事情を解説しながらユーザーの声を紹介する。
まずは、先客タイムロス問題だ。第1回の図1の通り充電環境にもよるが、一般的に急速充電には30分、普通充電には1~8時間を要する。
せっかく見つけた急速充電スポットに先客がいた場合、自分の充電時間30分に加え、待ち時間30分、充電するために計1時間を費やすことになる。実際のユーザーの声は次の通りだ。
2.先客順番問題--どこに並ぶ?「充電待ちがあり、目的地到着時間が読めない」
「高速で2台の充電待ちがあり高速を使う意味がないなぁと感じた」
「前の人が始めたばかりでも待たなきゃならないので、その待ち時間の30分は苦痛」
「せっかく高速道路を利用しても待ちに30分、自分の充電に30分で1時間のロスになる」
「アプリで確認して行ったのに、着くまでのわずかな時間差で先に使われて待たなければ
いけなかった」
「常に先客がいないか心配です。時間のロスが最大2倍になるので」
次にあげるのが充電待ちの順番問題である。大抵の充電スポットにはスーパーのレジ待ちレーンのような明確な待機場所がない。そのためこのような悩みがあがるのは必然ともいえる。
3.先客が行方不明「充電スポットに待機場所がない、先着なのか次着なのかわからない」
「充電待ち車両が複数台いる際に、駐車スペースが無いため、どの車両が何番目に充電待ちしているのかわからず困る」
「2台目の充電待ちがあることがわかるシステムがほしい」
30分という充電時間を社内で新聞やスマホ等を見て過ごす人も多いが、トイレや買い物などのために車を離れる人もいる。そして実際に体験するとわかるのだが、30分という時間は待つには長く、用事を足すには短すぎるのだ。うっかり30分が過ぎてしまって車に戻れない場合、次の充電待ちをしている車はいつ戻るかわからない先客ユーザーにいらだつこととなる。そして施設側に呼び出しを依頼しようとすると、さらに時間がかかるという悪循環が待っている。
4.先客がガソリン車「ショッピングモールで普通充電器が使用できる場合に一日中充電放置されている車多々あり」
「ショッピングモールでの充電で、前の人が終わっていて呼び出しをして貰いたくても近くに一度停車して、サービスセンターまで呼び出しのお願いに行き、戻って先客が来るのを待ち、空いたらそこに止め直すのは面倒」
「やっと辿り着いた充電スポットで接続エラーで充電できず、他のスポットにギリギリで到着したら、前の使用者が終了しているのに1時間程放置していて移動できずにずっと待った」
幸いまだ筆者は遭遇していないが、EV充電スポットにガソリン車が駐車しているという声もあった。充電用スペースであることを理解していないことも考えられるが、EV車専用というコーンをどかせて停めているケースもあるようで、このあたりはガソリン車ユーザーにも理解を求めたいところである。
5.先客が“おかわり充電”中「ガソリン車など充電不要な自動車が占拠している」
「PAの充電器でガソリン車が停まっていて、避けてほしいとお願いしたら逆に怒られました」
ここで“おかわり充電”という言葉をはじめて聞く方のために解説を加えたい。
まず、ガソリン車を満タンにするように、EVすべての車種が100%フル充電できるわけではない。ガソリンを給油する際は満タンになるまで同じスピードで流れていく。しかし給電の場合は80%程度までは同じ速度で進むが、それ以上になると給電スピードが遅くなる。
これは火災などを防ぐ充電制御のためなのだが、スマホの充電中異常発熱や発火したニュースを思い出してほしい。こうした事態を防ぎ過充電を避けるため、ある程度給電されると最後はゆっくり電気が流れるようになっているのだ。そして急速充電の場合は満充電にならなくても30分で終了してしまう。
数少ないスポットで、先客を待ってようやく充電できたユーザーとしては少しでも多く電気をチャージしておきたい。そこで一度充電が終わった後にもう一度、スタートする。これがおかわり充電である。
「残電池20%を切ってやっと到着したSA、PAにて、電池残量80%以上にもかかわらず、
おかわり充電している人が居ると、正直マナーにがっかり」
「待っている人がいるときのおかわり充電、高速のSA、PAではそこしかないので仕方なく待ちますが、おかわり充電されたときのショックは計り知れない」
「おかわり充電や8割以上の充電。マナーを守ってない人が増えてきた」
ここまでEVユーザーと先客にまつわる問題を紹介してきた。これから追々充電インフラが整ってくれば解決する問題もあるだろう。
しかし、プラゴではEVユーザーのニーズ、および潜在シーズに応えるため、今このときに全力を尽くしている。
今回のウェブアンケートでは、電気自動車/プラグインハイブリッド車を選択した理由についても聞いたが、第一位は環境にやさしいからというものだった。
筆者はSDGsを意識し、いち早く行動したEVユーザーたちに不便を強いるのではなく、今、報われる社会を目指したい。
ガソリンスタンド並に充電設備を増えるのを待ってもらうのではなく、ガソリン車ではできなかった新たな体験価値を、ユーザーが気づいていないEVの可能性と楽しさを広げていく、それが我々の使命であると考えている。
尚、ウェブアンケート回答者からさらに数人にご協力いただき、新型コロナウイルス対策のもと、2月中旬にプラゴのオフィスでグループインタビューを実施した。充電頻度やコスト面などこれからEV購入を検討中の読者へ先輩ユーザーとしてより具体的な意見を聞いた内容を、次回お伝えしたい。
大川 直樹(おおかわ なおき)
プラゴ 代表取締役
東京都出身。 2002年、慶應義塾大学法学部卒業。
電通に入社し、携帯電話市場におけるマーケティング業務に従事。
2007年、子会社のインタラクティブ・プログラム・ガイド社に出向し、放送通信連携に関わるベンチャー企業の経営に携わる。
2010年、自動車部品製造業である、大川精螺工業入社、取締役就任。
2013年、メキシコに駐在し、現地法人、工場を立上げ。
2018年より日本に帰国し、代表取締役に着任。
同年、プラゴを設立。
2021年 大川精螺工業代表取締役を退任し、プラゴの経営に専念。
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