2025年開催の日本国際博覧会こと大阪・関西万博(以下、万博)を通じて提案される未来社会デザインをテーマにしたシンポジウムが、大阪国際会議場とオンラインのハイブリッド形式で1月21日に開催された。日本抗加齢協会主催で3回目となる今回は、詳細が決まりつつある大阪ヘルスケアパビリオンの展示内容と、万博を通じて目指す2050年の大阪の姿が紹介された。また、パネルディスカッションでは大阪府知事の吉村洋文氏と大阪市長の松井一郎氏が登壇し、大阪市内で進行中の都市開発やスーパーシティ構想の進捗状況などについて説明した。
開催まであと3年に近付いた万博では、日本政府館(日本館)と並んで大阪パビリオンが出展される。総合プロデューサーを務める大阪大学大学院の森下竜一氏は、万博全体のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」として、最先端の技術と日本型医療、ヘルスケアサービスを発信し、コンセプトの「未来社会の実験場」として、パビリオン全体を「ミライの都市生活」と設定し、来館者がさまざまな未来を体験できるようにすると説明する。会場ではデジタルIDやデジタル地域通貨の使用や、AIによる多言語情報、ビーコンによる位置情報なども活用する。
仮称「大阪ヘルスケアパビリオン」(以下、パビリオン)では、人は生まれ変わり、新たな一歩を踏み出せる、ということを意味する「Reborn」を全体のテーマに、ミライの病院やアンチエイジングを体験できる場になると説明した。森下氏は「テーマはコロナ前に決まっていたが、図らずもウィズコロナ時代にふさわしい内容になった。健康と医療を中心にライフサイエンス産業、大阪の食文化などをアピールし、未来の都市生活を描くことで関西経済の発展につなげたい」と話す。紹介されたイメージ動画では、万博をきっかけに起業したり、エンジニア教育などに取り組む人たちの姿が描かれ、一過性のイベントに終わらず2050年の未来に向けた通過点であることを強調した。
パビリオンには5つのゾーンがあり、ホールの中を移動しながら搭乗者を診断する乗り物「アンチエイジング・ライド」が目玉の一つになっている。そのプロデュースを担当する近畿大学医学部近畿大学アンチエイジングセンターの山田秀和氏は、「世界では平均寿命の延伸より疾患や罹患率を圧縮することが注目され、シックケアからヘルスケアへシフトする方が経済的な影響も高いと見られている」と説明する。
世界では老化を計測する研究が進み、暦ではなく生物学的年齢を計測するエイジングクロックをコントロールすることで、長い間元気に活動できるようにする方法が検討されている。アンチエイジング・ライドでは移動しながら生体情報を計測し、パーソナルヘルスレコード(PHR)などのデータとつなげ、運動と栄養とココロに向けたアンチエイジングを提案する未来を体験できるようにするということだ。
続いてもう一つの目玉である「ミライの病院」で企画中のアイデアについて、プロデュースを担当する大阪大学運動器バイオマテリアル学講座寄附講座准教授の冨田哲也氏が紹介した。
「万博後もレガシーとして残る2050年の生活を体験する場とし、未来の医療を総合イメージとして、病院だけでなく家や街の中で日々の健康管理ができるといった、みんながわくわくする疑似体験を提供する」としている。例として、健康状態をスキャニングする鏡、寝ている間にさまざまな生体情報を取得してアドバイスするヘルスケアベッド、適切な運動方法を取り入れたウェルネス通勤などが紹介された。
医療関連ではリモート手術をはじめ、自身の細胞を使ってiPS細胞を培養する「細胞バンク」、iPS細胞を使用した再生心臓を拍動する状態で展示するなど、世界にインパクトをもたらす構想を検討している。「中にはすでに実現しそうな技術もあり、2050年の未来を想像するのはなかなか難しいので、広く一般からも意見を募集していきたい」ということだ。
リアルと並行して公開される「バーチャル大阪パビリオン」について、プロデュースを担当する大阪大学グローバルイニシアティブ機構招へい研究員の佐久間洋司氏が紹介した。
世界から24時間アクセスできるバーチャルパビリオンは2021年12月にメタバースプラットフォームのclusterで公開されており、順次エリアを拡大する予定だ。アドバイザーに東京大学大学院の稲見昌彦氏、バーチャルライブ配信アプリ「REALITY」の代表取締役社長の荒木英士氏、バーチャルシンガー事務所THINKER代表取締役の針谷健二郎氏が参加している。
「未来のバーチャル・ビーイング」をテーマに、相互理解やテクノロジー体験、サブカルチャーをコンセプトに「体験重視を重視した楽しさを詰め込み、1970年の大阪万博を知らない若者たちに新しい万博へ来てもらう仕組みをつくりたい」と言う佐久間氏は「分断の時代から調和に満ちた時代へと少しでも役立ちたい」とし、その思いはそのままメインコンテンツのビジョンである「わたしを知り、あなたを知る。わたしたちの調和のために。」にもこめられている。
大阪パビリオンでいち早く展示が決まった、1970年の大阪万博で話題になった人間洗濯機こと「ウルトラソニックバス」の実現について、開発に取り組むサイエンス代表取締役会長の青山恭明氏が状況を説明した。超音波で発生させた気泡で体の汚れを落とすという当時のアイデアを、同社のヒット商品「ミラブル」に使用されている技術で実現し、音と映像によるヒーリングやセンシング機能を搭載する。サンヨー館の展示品を制作した開発者と大阪大学の研究室とも協力し、さらに宇宙で入浴できる風呂も展示する予定だ。
パネルディスカッションでは、1月に共同で万博推進局を設置した大阪府知事の吉村氏と大阪市長の松井氏がパネリストとして参加し、大阪大学教授の森下氏と一緒に進行状況を説明した。会場では世界共通の問題である超高齢化社会に向けた提案以外に、地下水熱や水素エネルギーの利用など、万博と大阪が目指すSDGsを意識した運営で世界にアピールするとしている。
吉村氏は、「2024年に完成予定の未来医療国際拠点や、同年に街びらきを予定しているうめきた2期プロジェクトの公園を、健康に生きるための研究につなぐ都市戦略と位置付けている」と説明する。松井氏はそこに2022年4月に開校する日本最大の公立大学となる大阪公立大学が加わり、「大阪をチャレンジできる場として世界から人を集めたい」と話す。森下氏は、「大阪パビリオンで計画している先進的な展示を実現し、新しいチャレンジができるようにするには、規制緩和が不可欠であり大阪が提案しているスーパーシティの指定はぜひとも必要だ」としている。松井氏は、「日程は遅れているが霞が関とは引き続き協議しており、ぜひとも指定を勝ち取りたい」と述べた。
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