日常的なタスクの実行にテクノロジーを使うことが多くなっている。例えば、銀行取引、ショッピング、人との交流もだ。そして、家庭内暴力では、本人の許可なしでの、あるいは強制的に許可させての個人の行動監視にもテクノロジーが使われている。
テクノロジーを使えば、簡単に誰かをストーキングできる。Tinderでのデートについての情報を調べることから、採用候補者のSNSのプロフィールのチェック、付き合っている相手のスマートフォンにスパイウェアをインストールすることなどだ。
つまり、テクノロジーはストーカー行為のための新たな手段を提供している。
スパイウェアとストーカーウェアの報告事例の数は近年減少しているが、それは検出と削除がより困難なモバイルアプリや隠しカメラ、アイテムトラッカーに置き換わったからにすぎない。
スパイウェアは通常、対象は不特定多数であり、個人的に使われることはあまりない。スパイウェアのような不正なソフトウェアを開発するサイバー犯罪者の目的は、盗難や詐欺で使うための、金融口座情報などの個人データの取得だ。
ストーカーウェアはスパイウェアとは別のものだ。特定の個人を積極的に監視するために使われる。ストーカーウェアアプリは、配偶者や別れた相手、子供、さらには仕事用端末に仕掛けて従業員を追跡することにも使われる。
ストーカーウェアでは、GPSを介しての位置情報追跡、通話やSNSでの会話の盗聴、ログの窃盗、ウェブブラウザー履歴の監視、スマートフォンのカメラとマイクを乗っ取ってスマートフォンの周囲の写真を撮影したり音を聞いたりすることなどができる。
ストーカーウェアを相手のスマートフォンにインストールするには通常、物理的にスマートフォンに触れる必要がある。だが、インストールにはさほど時間がかからない。例えば被害者がトイレに行っている間や食事の支度をしている間にインストールできる。
インストールされたアプリはバックグラウンドで静かに稼働を続け、検出は非常に難しい。バッテリーが熱を持ったり、バッテリーの消耗が激しくなったら、それはストーカーウェアが稼働しているという警告かもしれない。こうした兆候についての詳細はこちらのガイド(英文記事)を参照されたい。
Kasperskyの主席セキュリティ研究者、David Emm氏はストーカーウェアを「陰湿な脅威」と呼ぶ。
Emm氏は米ZDNetに次のように語った。「こうしたストーカー行為はかつては完全に現実世界での現象だった。われわれは今や、ストーカーウェアを虐待行為全体の文脈の中で見る必要があるが、これは氷山の一角だ」
Kasperskyは2020年と2021年に、スマートフォンにインストールされたストーカーウェアを数万件検出した。研究者によると、件数はわずかに減ったが、それは新型コロナウイルス感染症の影響だという。虐待相手がパンデミックで同じ部屋に閉じ込められていれば、ストーカーウェアをインストールする意味はほとんどないのだ。
だが半面、ロックダウンや外出禁止令によって常に近くにいるようになったため、不正なソフトウェアを相手のデバイスにインストールしやすくもなった。
ストーカーウェアのインストールは増えており、報告された数字は「全体的に過小評価されている」とEmm氏は言う。
「問題の規模は見た目より大きい」と同氏は語った。
ストーカーウェアの問題は文化的要素もはらんでいる。現代社会では監視が定着しているため、私生活にまで広がっている。
Kasperskyが2021年に実施した調査でも、驚くべき傾向が明らかになった。英国の回答者の10人に1人(11%)は、自分のパートナーの同意なしに監視、追跡することは許されると答えた。相手が自分を裏切っていると確信する場合は、その率は76%にまで上がった。
同社によると、英国の成人の27%はパートナーからの家庭内暴力を経験している。欧州の平均は21%で、英国よりも多いのはチェコ共和国の29%だけだった。
デジタルでのストーカー行為や虐待については、調査対象者の15%が経験があると答えた。その44%はスマートフォンアプリを介してのものだったと答えた。
「相手をデジタルで詮索する場合、人は自分をストーカーだとは思わないのかもしれない。昔のように相手を尾行したり、日記を盗み見たり、家族や友人に話を聞いたりしなくて済むからだ。デジタルでの追跡の容易さが、そうした行為が間違っているという認識を欠如させるのかもしれない」とEmm氏は記した。
一般に、ストーカーウェアの利用は「iPhone」よりも「Android」デバイスでの方が多い。だが、それは「iOS」ユーザーが安全だという意味ではない。別のテクノロジーがそのギャップを埋めている。
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