日本百名山の1つに数えられる羊蹄山を中心として、豊かな自然に囲まれた北海道ニセコ町。世界的にも有名なスキーリゾートエリアであり、冬時期には良質な“パウダースノー”を求めて国内外から大勢が集まる。そんなニセコ町が、新たな試みとしてワーケーションのモデル事業を開始した。
ニセコ町はワーケーションを通じて、何を目指しているのか。そして、どのようなワーケーションライフを送ることができるのか。2021年12月24〜30日の1週間にわたり、私は家族を連れて実際にニセコ町を訪れてみた。そこで2回に分け、現地で体験したワーケーションの模様などをお届けする。まずは関係者に伺った、ワーケーション企画の背景や思いなどをご紹介したい。
なお、このワーケーションは自治体(ニセコ町)が主体となって取り組んでいるモデル事業。ニセコ中央倉庫群や地域おこし協力隊が、現地での調整やアテンドなどを行い、バーチャルオフィス事業を展開するワンストップビジネスセンターが企画・運営などを支援している。
ニセコ町は人口約5000人ながら、過去20年ほど人口は増加しているという。これは、国内において珍しい傾向だろう。景観や環境などの魅力はもちろん、「ニセコだから」と移住先に選ぶ人も多いという。海外からの移住者も多く、人の多様性があり多文化な地域だ。そんなニセコ町の魅力を高められる方法として、ワーケーションへの取り組みに至った。
ニセコ町役場の川埜満寿夫氏は、「ワーケーションがニセコの良さ、ニセコらしさなどをPRする1つのキッカケになれば」と話す。自分たちではなく外から訪れた人に生の声や体験を発信してもらった方が、魅力発信やブランディングに効果的と考えているようだ。実際、ニセコ町はウィンターリゾートとして知名度を得てきたが、行政が大々的にプロモーションしたのではなく、ニセコに来て楽しんでくれた方々が口々にPRしてくれた部分が大きいのだという。
また、新型コロナウイルスの影響でも状況は大きく変わった。観光客、特に海外からの訪れる人は激減。ニセコ町は、これからの時代にあった形を模索しているようだ。川埜氏は「インバウンドが復活した後も、国内でこれまでと違う人の呼び込みが求められる」と課題に感じている様子。将来的には移住促進などにもつながっていければと考えているが、まずは二拠点、あるいはシーズンごとの多様な暮らし方を広めていきたいという。
モデル事業を支援するワンストップビジネスセンターの代表・土本真也氏も、何を隠そうニセコ町のファンの1人。冬はもちろん、以前から社員とともに夏も毎年遊びに訪れているのだとか。「夏は天候が過ごしやすく、冬は世界的なスノーリゾートという魅力で世界中から観光客が集まっていたニセコの町は、まるで海外に滞在しているかのような気持ちになる」と話してくれた。その魅力を多くの方々に届けたいという思いで、ワーケーションに関する連携協定をニセコ町と結んだのだ。
もちろん、同社の取り組むバーチャルオフィスという事業との親和性も高い。本質的には“働き方を変える”サポートサービスだと考えており、それによってより自由な働き方を実現したり、独立のハードルを下げたり、あるいは副業で自分自身の可能性を高めるといったことに貢献してきた。今後はさらに“働き方を変える”ことのバリエーションを増やそうという方針で、魅力ある自治体との出会いを作るべく始めたのがワーケーション支援である。
同社は以前より、いわゆるワーケーション的な働き方を実践してきた。日本中、ときには海外で仕事と遊びを両立させながら、仲間とともに事業を成長させてきたのだ。
「雄大な景色や自然、環境の違う場所に身を置くことは、多くの刺激を与えてくれる。昨今はインターネットやオンライン会議などが普及し、どこでも働くことができるようになった。刺激を受けられる場所で仕事ができたら楽しい。ワーケーションに取り組もうと考えたキッカケは、単純にそれだけ」と話す土本氏。
同社が運営するバーチャルオフィスサービスの利用者も、同様に固定オフィスを持たず自由度の高い働き方をする方ばかり。こうした背景から、ワーケーション支援に辿り着いたのは必然なのかもしれない。
ニセコ町にはさまざまな仕事をしながら過ごし、たとえば夏だけ一生懸命に働いて冬はスキー三昧という方もいるという。そのため、以前よりテレワークスペースは確保されていた。長期滞在者も多いため、宿泊所などでもWi-Fiや電波状況の整備が進んでいる。実際、私が滞在したコテージやホテル、あるいはニセコ中央倉庫群や役場などもWi-Fiが用意されており、滞在中に困ることはなかった。
また、ニセコ町は田舎でありながら都会的な側面を持ち、自然体験ができる反面でトップブランドホテルやオシャレな飲食店などもある。訪れる人のニーズに応じ、多様な過ごし方が実現できる地域と言えるだろう。ワーケーションにおいても、各個人がイメージするワーク&ライフスタイルが実現できそうだ。
また、相対的に見て外から訪れる人、チャレンジする人に対してフレンドリーだという。川埜氏は「長期滞在して、働きながら町の人々とコミュニケーション取ってもらう際にも温かい人が多い。実際、すごい実績のあるビジネスパーソンも、ニセコが好きで移り住んでいる」と話してくれた。
ワーケーションは一時的な滞在であるものの、年数回にわたり訪れる、まさに二拠点のようなスタイルにもマッチしそうだ。季節によって景色はもちろん、そこにいる人も変わるというニセコ町。その交流も魅力であり、ぜひ時期を変えて何度も訪れて欲しいとのことだ。
ニセコ中央倉庫群の管理を担う奥田啓太氏は、札幌市からニセコ町に移住して起業した。以前よりニセコにはよく訪れており、いずれ移住したいという考えは持っていたとのこと。しかし若いうちの方が体力もあり、人脈も作りやすいと思い移住を決意したという。ワーケーションというわけではないが、札幌在住の頃から毎週のようにニセコを訪れていたという奥田氏。冬も良いが、個人的には景色や食べ物など夏の方がおすすめだと話してくれた。
奥田氏は移住後、3年間にわたり地域おこし協力隊として道の駅の野菜売り場に勤務。そこで地元農家の方々と関わりが生まれ、カフェを開業した。野菜ソムリエの資格も取得しており、栗やかぼちゃ、トウモロコシなどを使ったメニューも提供している。ニセコは昨年上期に法人が増加した町村ランキング全国6位と、起業率が高い地域なのだとか。こうした背景から、ワーケーションについても受け入れやすい環境があり、ワーケーションを経て移住するという選択肢もあるのではないかと話す。
「たとえばワーケーションにより、ニセコ町を含めて二拠点生活するのも良いかもしれない。私はカフェを経営しているが、今は場所を選ばず働ける仕事がたくさんある。ニセコ町で起業するのに、何も準備は必要ない。むしろ都会のシステマチックなものを持ち込もうとしても、上手くいかないのではないか。ニセコで事業を立ち上げるなら、まずネットワークを作ること。私自身、地域おこし協力隊としての活動を通じてこれを行った。ニセコ町は小さな町だが、そのわりにビジネスチャンスは多いと思う」
奥田氏のお話を伺い、ふと私も二拠点生活に魅力を感じてしまった。仕事に必要なインフラは整っているので、PC1台持ってくればニセコ町でビジネスを始めることは可能かもしれない。奥田氏自身も現在はコロナ禍の影響もあり、カフェから加工品の製造販売など時間的拘束の少ない他事業へのシフトを目指しているという。
豊かな自然に囲まれ、働くためのインフラ整備が以前より進められてきたニセコ町。海外からの移住者や起業家もおり、その魅力をより広く知ってもらうための施策として、ワーケーションへの取り組みが開始された。お話を伺っていると、皆さんの「ニセコ町が好き」という強い気持ちが伝わってくる。また、コロナ禍によって浮上した、観光地ならではの課題も窺い知ることができた。
現在はモデル事業としての取り組みだが、実際のところワーケーション環境としてどれほど魅力的なのか。次回は私自身が滞在して体験したこと、ワークとライフの両方から感じたニセコ町の良さや今後への課題についてもご紹介したい。
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