フィンランドでは、最南端のヘルシンキでも雪がよく積もり、5月頃まで雪が降る年もある。霧もよく発生し、冬季の薄暗い日に霧が発生すると驚くほど見通しが悪い。
そんなフィンランドの気候にも対応する「全天候型の自動運転ソフトウェア」を開発したのが、同国のエスポー市で誕生したスタートアップのSensible 4(センシブル フォー)だ。過酷な道路状況での実証実験を進めてきた同社は、世界初(同社調べ)の全天候型、シャトルバス専用の自動運転ソフトウェア「DAWN」を2023年始めに発売予定だ。
Sensible 4は日本との関わりが深く、無印良品を運営する良品計画とコラボレーションしたシャトルバス「GACHA(ガチャ)」も開発。今後、日本での実証実験も控えている。
「進化する北欧イノベーションの今」を現地から届ける本連載。今回はSensible 4の本社を訪問し、創業者のひとりであり、CBO(最高経営責任者)のJussi Suomela(ユシ・スオメラ)氏に事業戦略を聞いた。
2017年に創業したSensible 4は、スタートアップでありながら、自動運転やロボティクス業界での経歴が15年を超えるベテラン勢がそろう期待の企業。お話をうかがったユシさんは、ロボティクス業界で30年の経歴を持つというから驚きだ。
同社では車体は扱わず、強みとする自動運転技術の開発にフォーカス。トヨタをはじめとした自動車メーカーとタッグを組み、自動運転技術を搭載した車両を開発、欧州内での実証実験を進めている。中でも得意とするのは、ラストワンマイルでの運用に向けたシャトルバス用の自動運転技術だ。
Sensible 4の実験でもっとも長期にわたったのは、2021年の1年間にわたってノルウェーで実施された、トヨタ製プロエースを使ったプロジェクト。写真を見る限り、一般的な自動車のように見えるが、最大6人を収容するミニバスとしての運用を想定している。
同プロジェクトは北欧の大手AV(自動運転)企業3社が関わる大規模なもので、Sensible4のほか、ノルウェーのMobility ForusとデンマークのHoloが参加。目的は、ノルウェーの大都市圏で、自家用車の使用を減らすことだ。セーフティドライバーが同乗、一般の乗客もいる状態で徹底的に実験を繰り返した。
さらに、2022年春からノルウェー北部のボーデ市で、完全電気自動車のトヨタ・プロエース2台を使った、実験的なサービスの提供も予定されている。全長3.6kmの交通量の多い公道のルートを最高時速30kmで走行し、公共交通機関をサポートするものだという。
そのほか、最低気温がマイナス30〜40度になる日もあるフィンランド北部のラップランドで、最新の全天候型の自動運転ソフトウェアに関連した実験も実施している。
こういった北国での実験を繰り返して、Sensible4は全天候型、シャトルバス専用のレベル4自動運転ソフトウェア「DAWN」を開発。2023年始めに発売予定だ。世界各国の競合他社も悪天候での実証実験を進めているものの、Sensible 4が全天候型の自動運転技術を牽引していることは明らかのようだ。
このソフトウェアは、事前に決められたルート内を最大持続40kmで走行。6〜20人を収容するシャトルバス専用で、リモートでのコントロールを前提とする。雨、雪、霧、葉っぱなど避ける必要性がない異常値を検知し、的確に作動する。さらに、軌道上での追い越し機能も付属しており、シャトルバスのプラットフォームにも簡単に統合できるそうだ。
2021年の12月1〜2日にフィンランドのヘルシンキで行われたスタートアップイベント「Slush」では、ドイツで自動運転車両を開発する企業、THE MOOVEとコラボレーションした新シャトルバスを発売した。
これは、THE MOOVEが開発した車両「PeopleMover」にSensible 4が開発した自動運転ソフトウェアを搭載したシャトルバスで、最大19人の乗客を収容できる。シャトルバスとラストマイル操作用に特別に開発されたSensible 4の自動運転ソフトウェアは、「PeopleMover」への搭載に最適であることから、コラボレーションが実現したようだ。
両社は、2022年2月から、ベルギーやオランダ国境近くに位置するドイツの都市、アーヘンで実証実験を開始するという。JETROによれば、ドイツでは、2021年2月に公道でのレベル4の自動運転を可能にする道路交通法の改正案を閣議決定した。2022年中の施行を目指しており、本法案が施行されれば、実験や研究ではない通常走行として公道でのレベル4が可能になるのは、世界初のようだ。
同プロジェクトの目標は、この自動運転シャトルバスを2023年に欧州市場に投入すること。2022年以降、セーフティドライバーが乗車しない完全な自動運転シャトルバスとして、この「PeopleMover」がドイツでサービスを開始する可能性もあり、今後の動向が期待される。
良品計画がデザインを担当し、Sensible 4の自動運転ソフトウェアが搭載されたシャトルバス「GACHA」も、同社の戦略において欠かせないプロダクトだ。日本人にとって無印良品はなじみのあるブランドであり、GACHA関連のニュースは日本でも話題を呼んだ。
GACHAという名前は日本の「ガチャガチャ」が由来で、「誰もがわくわくする、幸せのかたちのトイカプセル」をイメージして、デザインされたとか。定員は座席10人、立って6人の合計16人で、自動運転で最高時速40km、マニュアル運転なら80kmまでスピードが出るという。
GACHAは、2019年6月にフィンランドのエスポー市で実用試験運行を開始。その後も、フィンランド内のさまざまな都市で実験が行われ、ついに日本での実証実験に向けて動き出したところだ。車両はすでに日本に向けて輸送を開始したが、プロジェクトの発表はパンデミックの影響で延期されているとのこと。この記事で詳細を発表できればと願っていたが、こればかりは仕方ない。続報を楽しみに待とうと思う。
ユシさんは、インタビューで日本市場への期待にも言及した。
「巨大なマーケットがあり、多くの自動車メーカーが存在する日本は、私たちにとって非常に魅力的。弊社の『GACHA』が良いマーケティングツールとなり、十分に市場を広げられる可能性があると考えている」
日本とのつながりが深いSensible 4は、筆者にとって「いつか取材したい注目企業のひとつ」だった。雪や大雨などの悪天候に対応する同社のソフトウェアは、日本の北国でも貢献するはずだし、GACHAが走る姿を日本で見てみたい。2022年以降の日本プロジェクトにまつわる続報を待ちつつ、引き続き、同社の動きを追っていきたい。
(取材協力:Sensible 4)
小林香織
「自由なライフスタイル」に憧れて、2016年にOLからフリーライターへ。【イノベーション、キャリア、海外文化】など1200以上の記事を執筆。2019年よりフリーランス広報/PRとしても活動をスタート。2020年に拠点を北欧に移し、現在はフィンランド・ヘルシンキと東京の2拠点生活。北欧のイノベーションやライフスタイルを取材している。
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