経営陣こそ「リスキリング」すべき--ジャパン・リスキリング・イニシアチブ後藤氏に聞く

MIWA(シェアエックス)2022年01月07日 10時00分

 With/AfterコロナにおけるDX(デジタルトランスフォーメーション)推進において、もっとも重要であるDX人材の不足や、前倒しで大幅に増加すると言われている余剰人材。こうした問題を解決するために企業に今後求められるのが、DXスキルの習得である「リスキリング」だ。

 今回、1月13日に開催される日本最大級のリスキリングに関するカンファンレス「リスキリングJAPAN2022」のオープニングセッションに登壇するジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明氏に、リスキリングの重要性についてインタビューした。聞き手は、シェアエックスの米国サンノゼ在住メンバーMIWA氏。

ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明氏
ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明氏

 まず、リスキリングについて簡単に説明すると、リクルートワークス研究所が発刊したレポートでは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義している。また補足として、近年では特にデジタル化と同時に生まれる新しい職業や、仕事の進め方が大幅に変わるであろう職業につくためのスキル習得を指すことが増えている。

 日本でもDXの推進が叫ばれる中、DXに関する職種の人材不足問題は極めてクリティカルな課題と言われている。リスキリングは、そのDX人材不足を解決するDX人材育成の推進策として、欧米でも近年、急速に進みつつある。

日本でも認知が広がる「リスキリング」

——後藤さんがリスキリングを日本で広める活動を始められた時期とその背景をお聞かせいただけますか。

 もともと私は、テックとかデジタルの海外営業を2010年代前半からやっていましたので、海外カンファレンスに出席する機会が多かったんですね。「AI人材をどうするのか?」みたいなことを米国で議論していたのがちょうど2015年とか2016年で、AIの画像認識のプライバシーをどうするか、AIの倫理的に間違ったらどうするかなどを議論していましたが、その中でAIができる人材がいないぞという課題も出てきていました。ちょうど今の日本はその頃の状態に状況かと思います。

 5年前の米国で「人材がいないよね、どうする?」と話している時にリスキリングが重要だと言うことをカンファレンスで知りました。当時はまだ英和辞典にリスキリングという言葉もない頃です。要はスキルに「リ」が付いているので、スキルを学びなおすこと・習得しなおすことなのかなと、何となく感覚的に受け取っていました。

 ブロックチェーンやAIの会議など、分野別にいろいろと出席しているのですが、必ずセッションのワントラックで人材育成の話があります。そこで、リスキリングという言葉が何回も出てくるようになって、実はリスキリングってすごく大事なんだなと思うようになりました。

——今では日本でもビジネス間ではリスキリングという言葉は認知されているのでしょうか。

 はい、かなりされています。私が立ち上げた一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブという団体について2021年9月に日本経済新聞が特集してくださり、その後に問い合わせが200件近く来ました。

 皆さん「デジタル人材をどうするか?」「AI人材はどうするか?」といった議論はこの2~3年していますが、一番大きかったのはコロナで今までのビジネスモデル、対面型のビジネスモデルではもう埒が明かない、下手すると会社が潰れてしまうという状況になってしまったことです。

 非対面でデジタルビジネスをとにかく立ち上げないと生き残れない状況に企業が追い込まれて、そこで一気にデジタル化と裏返しでセットになっているリスキリングが注目されて、認知度が広がったという感じですね。

経営陣こそリスキリングすべき

——私もコロナが日本を大きく動かしたなとすごく思うのですが、「ハードのスキルをリスキリングする」ということと、マネージメントや従業員の心のウェルビーイング的なものを含めて「ソフトのスキルをリスキリングする」、その両面を見る必要があるのかなと思いますが、そのあたりはどうお考えでしょうか。

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聞き手のMIWA氏

 もちろんその必要はあると思います。結局、ソフトスキルのリーダーシップ開発とかケイパビリティの開発みたいなところは、コロナ以前から企業もずっと注目して、投資している部分なので、そこはもう言わずもがな必要です。

 ただし、今の日本企業で起きていることは、DXやデジタル化をする時に、特に役職や権限を持っている方々がその号令はかけるけども、自ら行うわけではなく部下に振ることが多いです。その方々の言い訳として、「ソフトスキルの方が大事だ!」とおっしゃられる方が多いですよね。ソフトスキルが大事という裏返しに、実は自分はデジタルスキルを学びたくないという意図がある場合もあるんですよね。

——なるほど。ハードスキルから逃げるためのソフトスキルというのは面白いですね。

 少し補足すると、やはりその議論はすごく重要で、従業員は皆、上司の背中を見ているんですよね。社長がDXと言っているから役員もDXと言いますが、従業員は「社長も役員もデジタルのこと何もわかっていないよね」と考えていて、分かっていない人からの発信は背中で語れないから聞かないんです。だからこそ、経営者がしっかりデジタルで何ができるのかということを理解しなければならないので、そこが重要になってきます。

 たとえば、今からプログラミングをやる意味は全くないし、ソフトスキルの方が重要だと言われる役員の方がいらっしゃいます。その時、私は必ず「おっしゃる通りです。ただし、新しくデジタルビジネスを作っていく段階で、そこに必要なプログラミング思考、つまりソフトウェアをどうやってデザインするのか?どうやって動かすのか?という部分は絶対にできなければいけません。デジタルビジネスのウェイトが高くなるにつれて、当然リーダーの方々や権限を持った方々は全員デジタルで何ができるのかを理解するところまでは絶対にリスキリングしなくてはいけません」と言うように努めています。

——ありがとうございます。では最後にメッセージをお願いします。

 今、日本企業に求められていることは、経営陣・CEO含め役員の方々がデジタルを使って何ができるのかということを、正しく理解をすること。これがすごく大事だと思います。そこが起点になって初めて、業績を担う方ならデジタルを使って新しい事業を作りましょう、管理部門であればデジタルを使って生産性を向上をしましょう、となります。デジタルを使って何ができるのかを経営者・役員が知らないと、そこに対する指示ができません。日本企業に一番必要なのは経営陣がリスキリングすることだと思います。これは声を大にして言いたいメッセージですね。

 今回のリスキリングカンファレンスは、体系的にいろいろな分野の方々がリスキリングについて話をする最初の試みだと思うんです。リスキリングに興味がある、リスキリングをしなくてはならないと思っている人事担当の方、今のままだと競合にやられるぞという危機感を持っている事業部の方々、そして自分の会社のデジタル化が遅れていてこのままでは会社が傾くかもしれないと危機感を持っている経営者を含め、リスキリングのことについてすべてがわかる場にできたらいいなと思っています。

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「リスキリングJAPAN2022」

リスキリングについてディスカッションする日本初(同社調べ)の大規模カンファレンス「リスキリングJAPAN2022」が1月13日(木)の13時〜17時半に開催される。東京ミッドタウン日比谷から、シェアエックス主催にて配信(参加無料・オンライン配信)。セッションは、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明氏と、前Business Insider Japan統括編集長、元AERA編集長の浜田敬子氏によるオープニングセッションから始まり、日本マイクロソフト執行役員チーフラーニングオフィサーの伊藤かつら氏やリクルートワークス研究所Works 編集長の佐藤 邦彦氏など、豪華顔ぶれが揃う。

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