このように、さまざまなフィールドの課題や目的を解決するべく、多様な国産機体が開発されているが、ビジネスとして産業活用が先行するのはやはり空だ。2021年は、大企業とスタートアップのオープンイノベーションが目立って加速した1年だった。
その筆頭はやはり、2020年1月に経済産業省がNEDOを通じて公募した「安全安心なドローン基盤技術開発」の成果として、2021年12月にお披露目されたACSLの小型空撮機「SOTEN(蒼天)」だろう。スタートアップであるACLSがプロジェクトリードを担当して、ヤマハ発動機などの老舗大企業と協業した事例は希有だという。
ちなみに、発表会で鷲谷聡之社長は「アームを折りたたむとロボットのように見える。愛着を持っていただけると嬉しい」と話していたので、実際にロボットを抱き抱えるようにして写真を撮らせていただいた。安心安全ドローンの“安ドロくん”として、ひそかにバズっているようで、国産機体への温かい眼差しがメーカーに向くことは歓迎したい。
2021年、大企業とスタートアップのオープンイノベーションが加速した分野は、大きく2つある。それは点検と物流。いずれも、インプレス総合研究所の調査によると、今後5年で他分野と比較しても圧倒的に急成長が見込まれる市場である。
点検分野で、遂に……とテンションが上がったのは、アイ・ロボティクスと日本製鉄、日鉄テックスエンジのコラボレーションで開発されたと11月に発表があった「ドローン壁面補修ソリューション」。同社は調査・点検→分析・解析→補修作業という業務フロー全般のDX(機械化・遠隔化・自動化)を順々に進めており、11月のINCHEM TOKYO 2021では壁面・高所作業ソリューション「SPIDER-i」をはじめとするソリューション群をお披露目した。さらにPanasonic主催のアクセラレータープログラム「Panasonic Accelerator by Electric Works Company」に採択されるなど、大きな動きを見せた。
また、点検分野では、本誌でも現地レポートをお伝えしたENEOSのプラント跡地をドローンの実証フィールド兼オープンイノベーションの拠点「ENEOS カワサキラボ」として活用する、ENEOSホールディングスとセンシンロボティクスの協業も話題になった。
狭小空間の点検に特化して機体、カメラ、サービスを一気通貫して自社開発するLiberawareは、7月にJR東日本スタートアップ、JR東日本コンサルタンツと合弁会社のCalTaを設立した。9月の第三者割当増資では、凸版印刷、オリックス、セントラル警備保障も新規投資家に名を連ねており、警備領域での活用拡大も期待される。
物流分野では、さまざまな大手プレイヤーが実証実験を重ねているが、2021年の注目トピックスとしては、本誌でもレポートをお届けしたエアロネクストとセイノーホールディングスの協業によるドローン配送が画期的だった。ドローンという新たな配送手段を、既存の物流システムに組み込むことで、物流の仕組みそのものを刷新して、地域社会の生活を豊かにしたいというビジョンに向かって、大企業とスタートアップが“対等”に意見を交わして取り組んでいる様はエキサイティングだった。ちなみに、新鮮な地採れワサビや、クリスマスケーキを運んだニュースに、新時代の到来を感じた方もいるのではないだろうか。
地域に根ざしてドローン事業にコミットして、大企業と協業する若手起業家の活躍も頼もしい。石川県金沢のドローンショーは、NTTドコモらが11月に石川県白山市で実施した、同一空域内で異なる目的で複数台のドローンを同時に運航する実証実験において、運航管理システム接続用端末を搭載可能な独自機体の提供などを行った。また、長崎県五島市のそらやは、五島市における数年来のドローンの実証実験を縁の下の力持ちとして支えてきた経験をいかして、KDDIらがNEDOから受託したドローンの航空管制システムの地域実証をリードした。
このように、大小さまざまなプレイヤーが、アイディア、技術、アセットを持ち寄り、ドローンの産業活用を推し進めようとするなか、その基盤となる制度設計も大詰めを迎えつつある。
2021年6月に航空法改正が公布された。ドローンに関連する主要なニュースとしては、機体認証制度と操縦ライセンス制度の新設が挙げられる。2022年12月頃までの施行が予定されており、目下は細部にわたる議論が繰り広げられているという。また、運航ルールの拡充も並行して進められている。
この最大の目的は、「レベル4」の解禁と、「レベル4以外」の飛行に関する許可・承認の簡素化だ。レベル4とは、補助者なしで有人地帯での目視外飛行するもので、現在は認められていない。しかし、レベル4が解禁されれば、たとえば輸配送や点検などの分野において、ドローンを活用できる領域が格段に広がるため、ビジネス戦略を描きやすくなる。
6月に新しく創設された機体認証と操縦ライセンスを得て、運航ルールを遵守し、国土交通省の許可・承認を得ればレベル4の飛行可能になるという。しかし、どのような基準をもってレベル4の飛行に資する機体であると認証できるのか、どのような知識や技量があればレベル4の飛行に資する操縦技術を保有すると認められるのか、制度設計は一筋縄にいくものではなさそうだ。目下の大詰めの議論を経て2022年は、制度の詳細が明らかになるのと同時に、ドローン事業者は新制度への対応が求められることになる。ちなみに、機体の所有者を明らかにする機体登録制度は、2021年12月20日に先行してスタートしている。
レベル4となれば、現在よりも長距離を自動・自律飛行することになる。このため、LTE通信の活用も同時並行で進んでいる。7月にはNTTドコモが、日本初となるドローン向け「LTE上空利用プラン」の提供を開始した。プラン対応のSIMカードを機体に挿入する、あるいはSIMカードを挿入したLTE通信端末をドローンに搭載することで、上空でLTE通信を利用できるという。
また、ドローンに続いて、人を乗せて飛ぶエアモビリティについても、実用化を見据えた動きが始まっている。2025年の大阪・関西万博では、SkyDriveらが「空飛ぶクルマのエアタクシー事業」を目指しており、政府も12月に初の実行計画を示した。将来的には、エアモビリティとドローンという、複数の異なる目的で飛行する移動体を管理する管制システムも必要になるといわれている。
そこまでの未来はすぐにはやって来ないにしても、2022年はドローンの制度やインフラの整備がさらに進むことは間違いない。このような中、各社がレベル4を見据えて、2023年の社会実装を前提とした、実証実験が加速することが見込まれるだろう。2022年はさらに多くの現地取材をしたいと思っている。
最後に本稿を書きながら、2021年もお世話になったドローン業界の面々が次々と思い浮かぶのだが、スタートアップ側では採用を強化する動きも活発化しているようだ。ぜひ、これまでの経験、業務知識、技術とドローンを掛け合わせて、社会や未来の役に立つ新たな仕事を創造していく人材の参入を呼びかけたい。また、大企業においては、いわゆる“出島”的なチャレンジにとどまらず、本社機能やアセットを活用できる体制を整えて、新産業の創出を加速することが求められるのではないだろうか。
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