LIFULL、不動産×AIで目指す「人に寄り添う」家探し--「3D間取り」開発AI戦略室に聞く

加納恵 (編集部)2022年01月07日 08時30分
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 不動産業界にとってAIは、重要なツールの1つになってきている。物件情報の分析や不動産価格の予測など、その活用の幅は広い。LIFULLでは、2011年から不動産におけるAIの活用に取り組み、現在はAI戦略室という専門部署を設置。10月にはAI技術を使い、平面図から3Dの間取りを生成する「LIFULL HOME'S 3D間取り」(3D間取り)をリリースした。AIが不動産業界にどんな変化をもたらすのか、LIFULL 取締役執行役員LIFULL HOME'S事業本部プロダクトマネジメント室長兼AI戦略室長の山田貴士氏とAI戦略室 データサイエンスグループAIコンサルタントの横山貴央氏に聞いた。

LIFULL 取締役執行役員LIFULL HOME'S事業本部プロダクトマネジメント室長兼AI戦略室長の山田貴士氏(左)とAI戦略室 データサイエンスグループAIコンサルタントの横山貴央氏(右)
LIFULL 取締役執行役員LIFULL HOME'S事業本部プロダクトマネジメント室長兼AI戦略室長の山田貴士氏(左)とAI戦略室 データサイエンスグループAIコンサルタントの横山貴央氏(右)

 LIFULLにおけるAIの取り組みは、2011年のM&Aが始まりだ。東京大学発のAIベンチャーである「リッテル」を傘下に収め、自然言語処理に長けた研究者らを中心に、物件のレコメンドエンジンを研究。一方で、広告宣伝費を最適化するモデルを構築するなど、社内システムにおいてもAIを活用することで効率化してきた。

 山田氏は2021年10月にLIFULLのCDO(Chief Data Officer)に就任する際「AIの力を使った不動産DXにより一層力を入れたいと思った。3D間取りやオンラインでの取引などいくつかの研究を進めている」と現状を説明する。

 「AIを活用する基準は、AIで解決すべき課題かどうか。AIの特性を活かして解決できる問題か、そして解決した際に不動産会社などのパートナーやユーザーが嬉しいか、を見ている。3D間取りは、その観点からAIで取り組むべきと判断した」(山田氏)と話す。

 3D間取りは、平面の間取り図面から3D間取りを生成するというもの。写真や間取り図だけでは感じられないリアルな部屋を確認できることが特徴だ。平面ではわかりづらい生活動線や広さなども伝わりやすくなり、内見まで行かなくても、もう少し部屋を空間的に感じたい、知りたいと考えている人にとって、選択材料の1つになる。

「LIFULL HOME'S 3D間取り」
「LIFULL HOME'S 3D間取り」

 LIFULLでは、数万の平面図を用意し、壁、キッチン、トイレといった教師データを作成。「簡単なものであれば数百のデータでできるはずだが、間取り図はさまざまなパターンがあり、それらに対応するためにかなりのデータ量が必要だった。数を学習させればさせるほど、賢くなる」(横山氏)と学習の過程を話す。

 データ量を多く用意した理由はもう1つある。それは、間取り図は手書き、モノクロ、色付きと不動産会社によってさまざまな形があり、それこそ千差万別。規格が統一されているわけではなく、3D化はかなり難しい作業だったからだ。

 山田氏は「ポータルサイトの立場として、なるべく掲載されている間取図を網羅的に3D化したいという気持ちがあった。そのためには多くのバリエーションを用意するのが一番の近道だった」と数の重要性を説く。

 サービスとしてリリースする際には、全社で活用するアプリケーションの実行基盤を使用。「コアとなるロジック部分に集中できたことで、複雑な機械学習プロダクトをより効率的に開発できた」(横山氏)と土台となる実行基盤部分が、開発に大きく寄与したという。

物件データとAI技術、LIFULLには両方がある

 開発にかかった期間は約2年。「間取り図のデータ収集と商用サービスとして仕上げる部分が特に苦労した」と山田氏は振り返る。平面図から3D図面を起こすことは、学術的な研究がすでに進んでいたが「商用利用となると話は別。加えて、大量の間取り図を扱う点も難しかった」(山田氏)と試行錯誤を繰り返す。

 特に大変だったのは「直角ではない間取りの3D化」(山田氏)だったとのこと。「壁や扉など、直角で交わっているものの精度は高いが、間取りは微妙に角度がついていたり、曲面になっていたりというものが意外に多い。以前は直角の間取りだけを集めて3D化していたので、気づきにくい部分だったのかもしれないが、実際の間取り図を使用してみると、この部分の精度を出すのに苦労した」(山田氏)。

 そこで、LIFULLでは「限られたパターンで精度を突き詰めていく開発が行き詰まったので、汎用的に掲載物件を網羅できる手法に変更した。細かな部分まで精度を出したいそれまでの方向とは違う、多くの物件をカバーしたいという観点で作り直した」(横山氏)と視点を切り替え、商用化として使える3D化に成功したという。

 「不動産会社の方には、許可を取った上で掲載物件の3D間取りを追加するようにしているが、新機能にもかかわらず、受け入れられる率が予想以上に高かったという感覚がある。すでに掲載している物件の半数にあたる約200万件が3D間取りの対応物件になっている」(山田氏)と普及を進める。一方で「一度は難色を示した不動産会社の方が、他社が導入したのを見て、やっぱり導入するかと許可してくれた例もある」(横山氏)と業界内での認知も上がってきているという。

 「内見をせずに部屋を決めることは少ないと思うが、これまで5件内見していたとしたら、その数を3件に減らせるなど、事前にある程度見たい部屋を絞れるようにしていきたい。内見したい部屋の選別ができるようになると部屋探しの効率が上がる。まずはそこを目指したい。オンラインでも選択肢を増やすことが使命」と山田氏は、内見する前のサポート的な役割にも期待する。

 すでに「平面の間取り図から3Dの部屋を生成する技術」として特許も取得済み。山田氏は「同様の技術を持っている会社は国内にはないと認識している。世界的にみてもここまで対応物件数が多く、さらに一瞬で平面図から3D化できるのはLIFULLだけ」と自信を見せる。

 自信の裏には「不動産会社と長年にわたって信頼関係を作りデータを蓄積してきたこと、そのデータを社内で最適に活用できる技術として積み重ねてきたこと。データと技術の2つの蓄積があったからこそ、今回の3D間取りのような新技術を生み出せた」(横山氏)と話す通り、不動産情報サイトとしての豊富なデータが技術を大きく発展させている。

 山田氏も「技術のみでは、他社からキャッチアップされる。私たちは日本中の物件情報をデータベースとして揃えていくことや、住まい探しや不動産業界を、デジタルで変革していくことに強い想いがある。そうした部分でリードしていきたい」と強みを強調する。

 技術とデータベース、この2つを持つLIFULLのAI戦略室では、今後AIを「ユーザーに寄り添った部屋探しをサポートする」(山田氏)ことに活用する方針だ。

「今の物件検索という方法では家賃、広さ、築年数など明確な希望がないと条件設定ができず探しにくい。しかし、それらの項目が、検討初期段階などではかっちりと決まっていない人もいる。そういうお客様に向け、明確な希望がなくても、やりとりを通じて、自身の理想の部屋にたどり着けるような仕組みを作りたい」(山田氏)とAIを活用した新たな仕組みを模索する。

 横山氏も「ユーザーに寄り添う部分に注力していきたい。ユーザーニーズを汲み取り、提案できる。そういったプロダクトにチャレンジしていきたい」と明確な目標を掲げる。

 山田氏は「不動産はDXが遅れている業界の1つと言われているのは個人的には悔しい。今回の3D間取りのような取り組みを不動産会社が単独で研究開発していくのは難しい面もあるだろうが、プラットフォームであるLIFULLHOME’Sが手がけることで、この形がスタンダードになる可能性も十分にあると思う。これからも不動産情報プラットフォームとしてできる使命は何かを見極めながら、お客様、不動産会社、オーナーの方、皆さんにとってエコなシステムをデジタルとAIを活用して取り組んでいきたい」とした。

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