James Vlahos氏は2017年に父親をがんで亡くしたが、今も頻繁に話をしているという。父が息子に語るのは、子供の頃に近所に住んでいた女の子との淡い初恋、飼っていたウサギ「パパ・デモスコプロス」の思い出、Gilbert and Sullivanのオペラで歌ったこと、弁護士になったこと。会話の合間には生前の口癖も飛び出す。
Vlahos氏が、亡くなったはずの父親と会話ができるのは、父親がステージ4の肺がんと診断された時に同氏が開発した会話型のチャットボット「Dadbot」のおかげだ。同氏は父親が亡くなるまでの間に、数カ月をかけて父親が語る思い出を録音し、そのデータをもとに父親の声で話すインタラクティブな人工知能(AI)を作り上げた。
「(Dadbotは)私だけでなく、家族全員に大きな慰めをもたらした。私にとって、これはとても大きな経験だった」とVlahos氏は語る。元テクノロジー系ジャーナリストで、会話型AIに関する著書「Talk To Me」を持つ同氏は、「Dadbotは父の代わりにはならなかったが、父を鮮やかに思い出す方法を与えてくれた」という。
現在、Vlahos氏が開発したDadbotの技術は「HereAfter AI」に受け継がれている。HereAfter AIのプラットフォーム上で、故人は「ライフストーリー・アバター」に姿を変えて生き続ける。アバターは、生前に録音された故人の声で会話する。遺族がスマートスピーカーやモバイルアプリ、PCアプリを使って故人の音声アバターに話しかけると、「Alexa」のような音声認識技術が作動し、あらかじめ録音された物語や思い出、冗談、歌、さらにはアドバイスなどが返ってくる。HereAfter AIだけでなく多くのスタートアップ企業が、チャットボットやAI、さらには南カリフォルニア大学がホロコースト生存者の経験を語り継ぐために開発したホログラム等を利用して、「デジタル不死」の実現に取り組んでいる。例えば日本では、故人のような見た目で、故人のようなしぐさをするロボットが開発されている。
ここで英国のテレビドラマ「ブラック・ミラー」のエピソード「Be Right Back(ずっと側にいて)」を思い浮かべた人もいるかもしれない。何を隠そう私も、HereAfter AIを初めて知った時はこのエピソードを思い出した。「ブラック・ミラー」はダークなSFアンソロジーだ。このエピソードでは、恋人を亡くして悲嘆にくれる若い女性が、SNSの投稿など恋人がインターネット上に残した情報をかき集め、故人のAIバージョンを作成してくれるサービスに申し込む。彼女はインスタントメッセージや電話でデジタル版の恋人と交流するようになるが、やがて恋人そっくりのアンドロイドを作成してくれるプランにアップグレードする。すると事態は複雑化し、不気味な雰囲気が漂いはじめる――。
亡くなった家族や友人のバーチャル版とコミュニケーションができると聞いて、心がざわつく人もいるだろう。私もHereAfter AIのデモを見れば、少なくとも多少は不気味に感じるはずだと予想していた。ところが、私はぞっとするよりも、むしろほのぼのとした気分になった。例えるなら、それは「Siri」を介して、あの世と交信しているような感覚だった。
自分のライフストーリー・アバターを残すためには、生前にHereAfter AIに登録し、死後のコミュニケーションに備えて精力的に準備を進めなければならない。アプリを起動すると、インタビュアー役のチャットボットが立ち上がり、あなたの人生について質問をしてくる。チャットボットはこうした質問への答えを録音しながら、あなたの声や思い出を記録し、あなたの個性を受け継いでいく。参考となる写真をアップロードすることも可能だ。
有料ユーザーは故人のアバターにアクセスし、アバターに質問できる。例えば、「覚えている中で一番古い記憶は?」、「ママとのなれそめを教えて」、「自分を誇らしく思ったのはどんな時?」などだ。返答は、生前に録音しておいた故人の声で返ってくる。ライフストーリーの記録自体は無料だが、作成したアバターを家族や友人と共有するためには年39ドル(約4400円)からのプランに申し込む必要がある。
「HereAfter AIは、ユーザーが録音した音声を保存するが、こうしたデータを広告用のデータマイニングなど、本来の用途以外の目的で配布したり、営利目的で利用したりすることはない」とVlahos氏は請け合う。
HereAfter AIは、いわば人生の物語を会話形式で記録できるアプリだ。もっとも、「会話」は言い過ぎかもしれないとVlahos氏は言う。
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