ここ2年程でリモートワークが進み、働く場所の自由度が増した。この影響で、東京圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)の人口は日本の総人口の約30%を締めており、東京圏への一極集中が見られた傾向(総務省統計局 2020年國勢調査 人口速報集計結果)から一転、総務省が2021年3月に発表した「地方への人の流れの創出」に向けた効果的移住定住推進施策によると、2021年3月の調査において、2019年まで24年間連続で東京圏への転入超過が記録されていたが、2020年7月から9月にかけて東京圏は転出超過になっている(総務省「地方への人の流れの創出」に向けた効果的移住定住推進施策事例集より)
調査より、感染症拡大を経験して人々の地方への関心が高まっていることは明らか。地方創生の観点では今後もこうした動きに注目し、継続して地方でも東京と同じように働ける環境が必要になると考えている。
2030年には約80万人のIT人材が不足するといわれている。また経済産業省によれば、2025年に直面する「DXの崖問題」に備えることが必要であると説いている。これはDXが進められない企業に向けた警告で、大きな技術的負債を抱えることになり、デジタル競争の敗者となってしまうこと。そして、最大12兆円の経済損失に繋がる危険性がある、という指摘となっている。
IT人材が不足するなか、デジタル競争の敗者となる企業が多く出てきてしまうことが危惧される。このような状況下において、日本は今後IT人材を増やすことによってデジタル競争に立ち向かっていかなければならない。その人材資源の候補のひとつとなるのが地方で生活する人々、地方に移住する人々だと考えている。
数年前は、主に東南アジアなどでシステム開発を行うオフショア開発が流行った時期があった。オフショア開発は人件費が安いのでコストメリットがあり、人材リソースも豊富にあるためである。しかし、近年状況も少し変わってきている。ベトナムの調査によると、ベトナム人エンジニアでCTOレベルの人材の人月単価は5709ドル(約65万円)、上級のエンジニアで3722ドル(約42万円)となっている。以前よりエンジニア単価も上昇しており、コミュニケーションコストや時差も考えると以前ほどのメリットはなく、海外で安くシステム開発できるという時代は終わりに向かっているとも考えられる。
総務省統計局の調査によると、東京都からの転出者数の前年同期差について、長野県は神奈川・千葉・埼玉に次いで第4位に位置している。ここに長野県の発展の可能性を見ることができる。
長野県には「信州ITバレー構想」というビジョンがあり、IT技術で拓く長野県産業の新時代を掲げている。信州ITバレー推進協議会の発表によると、長野県のIT産業の現状は長野市、松本市にIT産業が集積しており、事業所数は474カ所、年間売上高1507万円(1従業員あたり)で全国20位となっている。東京は事業所数は1万1209カ所、年間売上高2572万円(1従業員あたり)であり、東京のIT産業と比べると長野のIT産業には生産性の向上が求められる。長野県内のIT投資の発注先は県外がほとんどであり、県内IT企業への発注は28.9%に留まっている。長野県内のIT事業者は技術力の向上によって県内需要を取り込み、県外(主に東京圏)からの発注を増やす余地があると言える。
長野県は県外からのIT企業誘致を積極的に行っている。例として「おためしナガノ」や「チャレンジナガノ」など県がIT企業を支援する制度がある。「おためしナガノ」は半年間、長野での移住体験をサポートしてもらえる制度であり、弊社でも「おためしナガノ」を利用している。参加者にはフリーランスや起業家も多い。参加のメリットとしては、地元の企業や不動産を紹介してもらったり、長野県の自治体の方々とも繋がりを作れるところが大きい。
Hajimariでは現在、長野で開発拠点を作るための活動を行っている。その活動の一環で2つの村に訪問して、自治体の課題をヒアリングした。例えば、ある村は観光産業が盛んな土地であり、年間を通して多くの人が訪れている。インバウンドでの流入が多いのだが、宿泊施設の連携がうまくとれていないという問題がある。宿の予約サイトへの登録は運営者が担当するも、ITリテラシーの差によってうまく呼び込めていない宿もある。
また別の村では通年できる仕事が限られているという問題がある。グリーンシーズンとスノーシーズンでは異なる仕事を行なっているため、移住者が定着しない。限界集落と呼ばれる土地では「仕事がない」ことが大きな問題となっている。
地域で共通する課題に、交通インフラが整っていないことも挙げられる。車がなければ生活できない土地では、やはり生活するのが厳しい現状もある。
長野県では上記のような問題を解決できる企業を積極的に募集し、直接企業と地方自治体を繋げている。IT企業と村役場が直接連携をとることによって、ITテクノロジーによる状況の変化や村役場のITリテラシー向上にも繋がっている。
これからは働き手が主体的に働き方を選択する社会になる。コロナ禍でその傾向は益々加速し、地方創生に大きく貢献する可能性がある。なかでも、PCとインターネットさえあれば仕事ができるITエンジニアという生き方は、今後の社会と相性の良い生き方と言えるだろう。
日本の地方創生の成功例はまだ少ないが、地域在住のITエンジニアの増加とともに起業に挑戦する人も増え、その結果、地方創生事業が盛んになり今後多くの成功例が出ることに期待している。弊社も「作る人を増やす」側にまわることによって地方創生の一端を担い、日本社会の活性化に貢献したいと考えている。
具体的には長野県で以下の取り組みを開始している。
【1】長野県でのIT人材募集の開始
長野県は、まだIT企業が非常に少ない。業界未経験であってもまず話を聞き、成長意欲の高い人にはまずインターンとしてフルリモートで業務を経験してもらっている。後に正社員として弊社に入社し、エンジニアとして、フルリモートでの育成を行なう。経験を積んで長野県企業と連携してパフォーマンスを発揮してほしいと考えている。
【2】県内自治体への訪問
長野県を通して自治体と連携している。判断を自治体に委ねるのではなく、並走するというスタンスを大切にしている。
【3】地元企業との関係構築
長野の善光寺下にはIT企業やスタートアップへの取り組みに積極的なコワーキングがある。地元企業との良好な関係を構築し、先人に失礼のない形で参入ができればと考えている。
【4】長野オフィスの設立
地域の人が自由に出入りできるようなコミュニティスペースを持つオフィスを構える予定である。コミュニティスペースの活用により、地域ITエンジニア・IT起業家・ベンチャー企業の交流を盛んにし、地域全体でIT化を盛り上げたいと考えている。
2020年以降、社会情勢は大きく変化し、多くの人が自身の生き方向き合う時代に突入した。日本の仕事文化が大きく変わるタイミングである。地方にとっては一極集中化から解放されるタイミングでもあり、優秀な人材が地方に留まる理由にもなる。この流れは一時的なものでなく、継続的に続けられるような環境や仕組み作りがこれからの自治体に求められる。弊社では、世界にとって前代未聞の事態により生まれた新しい働き方で、地方創生を実現していく所存である。
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