国産ドローンメーカーのACSLは12月7日、セキュアな小型空撮ドローン「SOTEN(蒼天)」を初お披露目した。同日より受注を開始する(オープン価格)。主な用途は、インフラ点検、防災や災害の対応、農地のセンシングによる生育状況調査、測量を見込む。
同社は全国にある販売パートナーと連携して販路を拡大し、2022年には年間販売台数1000台規模を目指し、将来的にはジョイントベンチャーを設立しているインドをはじめ、海外での販売も見据える。
SOTENは、政府関連の業務でもドローンの利活用が進み、高性能で高セキュリティな空撮機が求められていることを背景に、経済産業省が令和元年度の補正予算で16.1億円を計上してスタートした「安心安全なドローン基盤技術開発事業」というNEDO事業の成果物としてリリースされた。日本政府が開発を支援した成果を活用して量産化までたどり着いた初めての機体になるという。今後は、さらに大型の機体への技術展開も図る。
SOTENのお披露目では、ACSL代表取締役兼COOの鷲谷聡之氏が製品の概要を紹介したのち、経済産業省 製造産業局 局長の藤木俊光氏が「安心安全なドローン基盤技術開発事業」や経産省の取組を説明。続いてトークセッションには内閣官房 小型無人機対策推進室 内閣」参事官の小熊弘明氏と、グリッドスカイウェイ有限責任者事業組合 CEOの紙本斉士氏も登壇した。また、室内での飛行デモも実施され、安定した飛行を披露した。
冒頭、鷲谷氏は「2025年に6000億円、サービス市場だけでも4000億円と、まさに新たな市場が立ち上がるなか、これを支えるのがドローンの機体。ドローンメーカーとしてしっかりとドローン産業を支えていきたい」と話した。
そのためには、いまのドローンには3つの観点で不足があると指摘。1つ目は「セキュアであるか」。2つ目は「小型で、現場の方々が本当に使い勝手のいい機体であるか」。3つ目は「大変過酷な業務環境に耐えうる飛行性能、拡張性を備えているか」だ。SOTENは、こうした課題を解決するために、キツイ、汚い、危険といわれる、過酷な環境で働く方々の現場業務を実際に見て、リアルな言葉を聞いて、作り込んできた空撮ドローンだという。
「セキュアとは、決してセキュリティだけではなく、もっと広義にとらえている」ーー。鷲谷氏はSOTENお披露目に先立ってこのように切り出し、セキュアの定義を詳しく説明した。キーワードは3つ。「セキュリティ」「自立」「技術を守る」だ。
1つ目の「セキュリティ」とは、ドローンはインターネットに接続されるIoT機器であり、取得データの安全な管理や、乗っ取りやなりすましへの対応を強化するという点だ。
2つ目の「自立」とは、ドローンが社会インフラを支えるための重要なツールになりつつあるいま、日本国内での製造を持続可能なものにすることが重要であるという点だ。新型コロナで、実際に海外からの部材調達に苦しんだ経験も踏まえて、国内の部品メーカーや材料メーカーの育成にも意欲を示した。
3つめ目「技術を守る」とは、現場にあるノウハウをはじめ日本国内にある技術と、ドローンで取得したビッグデータを守り抜くこと。そして、日本企業における業務の高度化、高付加価値化を支えたいという。
鷲谷氏は、「現場の技術をしっかりと守ることで、日本のものづくりを守りたい。強くそう思っている」と話したうえで、セキュアな小型空撮ドローンSOTENをお披露目した。“蒼天”とは、雲外蒼天という四字熟語にもある通り、雲を突き抜けた先に広がるボーダレスな青空のように、日本そして世界のドローン産業を牽引する存在になりたいと想いを込めて名付けたという。
SOTENは、「安心安全なドローン基盤技術開発事業」において、ヤマハ発動機、NTTドコモ、ザクティ、先端力学シミュレーション研究所など、大企業や老舗企業、スタートアップ企業らが協働して開発した技術を使っている。部材もできるだけ国内メーカーのものを採用し、日本が打ち上げたみちびき衛星を有効活用するなど、日本の英知を結集した機体だという。
セキュアという観点では、IOS15408に基づくセキュリティ対策をとったのみならず、取得データを活用して日本企業が技術を高度化していくために、国内のクラウドを活用してデータの安全確保を図った。2022年の義務化が決定しているリモートIDについても、先んじて標準として実装した。
日本の英知を結集するため、現場の声を聞いて反映することにも、相当尽力したようだ。可視光カメラ、赤外線カメラ、マルチスペクトルカメラを、ワンタッチで切り替えられるという操作性を実現した。今後は可視光ズームカメラも併せて、4種類のカメラの切り替えをできるようにするという。
このほかにも多様な現場の声に応えた。最大対気速度15m/sという耐風性能、閉域網でのLTE通信対応、6つのステレオカメラによるビジュアルオドメトリ、衝突防止機能、着陸時の高度測定、またカメラを機体上部に搭載するためのマウントの開発、ワンタッチ式のバッテリー、押して回すだけで装着できるプロペラなど、現場で求められる飛行性能や拡張性への対応にこだわった。折りたたみ時には、センサーがロボットの目のように見えるデザインになっており、鷲谷氏は「SOTENに愛着を持ってもらいたい」と笑顔を見せた。
続いて登壇した経済産業省 製造産業局 局長の藤木俊光氏は、「2021年の通常国会で、航空法が改正された。2022 年12月、第三者上空での目視外飛行が可能になる。測量、災害時の被災状況調査、インフラの老朽化の点検、物流といった業務用途を中心に、さらに活用範囲が広がっていくことが期待されている」と話したうえで、レベル4実現とさらにその先を見据えた経産省の取組について紹介した。
今後も、経産省は機体の安全性向上や、より長距離を飛行できる機体の開発に取り組んでいく構えだという。藤木氏は、「現在はドローンを1機飛行させるために、操縦者や補助者と複数人が必要だが、今後は1人の運航者が複数の機体を操縦できるよう、省人化も図りたい。将来的には、ドローン、空飛ぶクルマ、航空機が同じ空域で仕事をする時代に向けて、同じ空域を共有するためのシステムも必要だ」と話した。
鷲谷氏がモデレーターをつとめたトークセッションには、内閣官房 小型無人機対策推進室 内閣」参事官の小熊弘明氏と、グリッドスカイウェイ有限責任者事業組合 CEOの紙本斉士氏も登壇。両者は、現在のドローン点検ではレベル1や2とよばれる、人間の目で見える範囲内での活用が大半であることにも言及し、目視外でより広範囲を安全かつ効率的にドローン活用していくために、官民が一体となって取り組んでいくことが重要であることを示した。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」