「グルーミング」に注目が集まっている。グルーミングとは、性的目的で子どもに近づき、親しくなって信頼を得る行為のことであり、チャイルド・グルーミングとも呼ばれる。グルーミングとは猫などの毛づくろいを指し、手懐ける意味で使われる。
リアルの場だけでなく、SNSなどでオンライングルーミングが行われているようになっている。オンライングルーミングとはどのようなもので、なぜ子どもたちは騙されてしまうのだろうか。未然に防ぐためにはどうすればいいのか。
法務省の「性犯罪に関する刑事法検討会」の取りまとめ報告書によると、グルーミングは主に3つのパターンに分類される。
(1)SNSなどを通じて徐々に子どもの信頼を得た上で、会う約束をするなどして性交におよぶパターン
(2)子どもと近い関係にある者が、子どもの肩をもむといった行為から始め、断りにくくさせた上で徐々に体に触れるパターン(教師、コーチ、養護施設などの職員、親の恋人など)
(3)子どもと面識のない者が公園などで子どもに声を掛けて徐々に親しくなるパターン
子どもと近い相手からのグルーミング行為は子どもを深く傷つける恐ろしい行為であり、昔から起きている重大な問題だ。一方、最近注目されているのがネットやSNSを使ったオンライングルーミングだ。
グルーミングは世界的に問題になっている行為だ。2020年6月からニュージーランド政府主導で「Keep it real online」というキャンペーンが行われたことをご存知だろうか。子どもの安全なネット利用を啓発するキャンペーンとして、テレビやSNS、新聞や雑誌などあらゆるメディアを使って行われた。その1つがこの動画だ。
動画は、知らない中年の男がティーンの娘サラの自宅に訪れてくるところから始まる。男はサラとInstagramの友だちであり、「13歳」と自称する。家の奥から出てきたサラの前で、男やサラとネット内で話していたダンスを披露する。ナレーションによると、ニュージーランドでは若者の40%が面識がない相手とネット内でやり取りをした経験があるという。
また8月に全英児童虐待防止協会(NSPCC)は、過去3年間で英国内でのオンライングルーミング犯罪が急増していることを発表。2020年4月から2021年3月の1年間に、5441件の子どものグルーミング犯罪が発生。これは2017〜18年の1年間から70%増加し、過去最多となっている。
犯罪行為の約半数は、InstagramやWhatsApp、Facebookメッセンジャーなどのアプリを使って行われており、Instagramが約3分の1を占めた。Snapchatも全体の4分の1以上を占めていたという。若者に人気のSNSアプリを使って知り合い、被害にあっているというわけだ。
このような話は世界中で起きており、日本も例外ではない。
警察庁の「令和2年における少年非行、児童虐待及び子供の性被害の状況について」(2021年3月)によると、加害者と被害者はTwitterやInstagram、TikTokなどの若者に人気のSNSを通じて知り合っている。中にはオンラインゲームでボイスチャットをして親しくなり、被害にあっている子どももいる。
事実座間市の9遺体事件でも、加害者は「死にたい」などとTwitterで投稿している若者に近づき、相談に乗って信頼させてから会い、犯行におよんでいる。このように悩みを聞いて相談に乗ったり、子どもを褒めて親しくなった後に呼び出したり、裸の写真を送らせたりするのは典型的なパターンとされる。中には同性や同級生のふりをして近づく例もあり、相談内容をばらすとか裸の写真をばらまくなどと脅されて被害にあう例もある。
ポイントは、多くの加害者はSNSなどの交流で信頼を獲得してから犯行におよんでいることだ。「学校に行きたくない」「親に怒られた」「家出をしたい、死にたい」などの悩みをSNSで吐露する子どもに近づき、親切なふりをして悩みを聞き、相談に乗って信頼を得るパターンが多いのだ。そのような子どもたちは現実世界に頼れる大人などがおらず、心の弱みに付け込まれてしまっているのだ。そして心を許し、信頼した頃を見計らって呼び出されているのだ。
年齢的に幼い子どもたちは性的な知識に乏しく、被害にあった後も自分は被害者であると気づかないことも多い。実際、性的な行為に嫌悪感や恐怖感を持っていても、理解できないことが多いという。また相手を信頼していればいるほど、理解者である大切な存在を失うことを恐れ、言いなりになってしまいがちなのだ。
子どもだけでは真に親切な人と真意を隠して近づいてくる悪い大人の違いを見抜くことは難しい。特に低年齢のうちは、子どもが知らない人とやり取りすることは禁止したり、少なくとも内容は保護者が見守るべきだ。また、知らない人には会いに行かない、写真を送らないなどの約束をしておくべきだろう。
普段から親子間でコミュニケーションを取り、このようなリスクなどについても子どもに伝えていくことで、被害は防いでいけるのではないか。それでも万一被害にあってしまった場合は、けして子どもを責めず、味方になっていただけると幸いだ。以下の相談機関などを活用するといいだろう。
高橋暁子
ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。
公式サイト:https://www.akiakatsuki.com/
Twitter:@akiakatsuki
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