日経トレンディの「2021年ヒット商品ベスト30」が発表され、1位にはTikTokで商品が売れる「TikTok売れ」が選ばれた。
TikTokというと若者のものという印象があるかもしれないが、博報堂調査によると現在のユーザー平均年齢は34歳となり、購買力がある層にも波及して、次々とトレンドだけでなく商品の売上増を生み出す場となっているのだ。TikTok売れについて見ていきたい。
TikTokで生み出されてきたヒットは多い。たとえば音楽だ。TikTokでは、動画投稿時に好きな音楽を自由に選んで使用することができ、ここから人気に火がついたものは多い。YOASOBI、瑛人などのヒットに続き、最近は「踊らにゃ損です」というフレーズが印象的な和田アキ子さんの「YONA YONA DANCE」が大ヒットし、「#yonayonadance」は1億1780万回再生に。
優里さんの『ドライフラワー』もTikTokきっかけで大ヒットし、ビルボードジャパンの総合チャート「HOT100」で2021年上半期1位を獲得。ストリーミングサービス再生回数は4億回を突破している。
これは世界的に見ても同様だ。TikTok発表の2020年度トップ100によると、TikTokで10億回以上という驚異的な再生回数となった楽曲の中には、数日で一気に再生されたものもあれば、長い時間をかけてゆっくりと再生されていったものもある。著名ミュージシャンのヒット間違いなしの楽曲もあれば、無名アーティストの楽曲も混じっている。
TikTokは楽曲が知られるきっかけとなっている。著名ではなくても良い楽曲であれば、大ヒットにつながる可能性があるというわけだ。
他に人気のSNSといえば、InstagramやTwitter、YouTubeなどが挙げられる。それぞれのSNSとの違いはどこにあるのか。
Instagramには動画も投稿できるが、美しいまたは驚きあふれる「インスタ映え」する写真が中心だ。Twitterは拡散力が一番高いとされるが、テキストベースのものが多くなる。YouTubeは動画で情報量多くしっかり説明ができるものの、長めの動画が多くなり、最後まで見てもらえないことも少なくない。
一方TikTokは、短い動画で最後まで飽きずに見せることができ、音声やテキストで説明も可能だ。他のSNSのいいところどりのようになっているのだ。しかも短いだけに、言語に左右されづらくなり、国を超えたヒットにもつながり得る。たとえば3900万人以上のフォロワーを抱える国内のフォロワー数1位のじゅんやさんは、言語に頼らない一発芸のような動画で人気となっている。
TikTokにも「TikTok映え」というものがある。ビジュアル的かつ動きや音が面白く、自分でも投稿したくなるようなものがTikTok映えであり、そこからバイラルが生まれている。
地球型のグミを見かけたことはあるだろうか。ケースを口に入れてパキッと割ると、青いグミが出てくる。中にはジャムが入っており、食べると舌が青くなるのだ。この一連の動作がビジュアル的にも面白いため人気となり、多くの動画が投稿されている。「#地球グミ」は5億4130万回再生、「#プラネットグミ」は690万回再生だ。
「TikTokでインフルエンサーが投稿したのを見てから、ずっと探していた。ヴィレッジヴァンガードでやっと見つけて、嬉しくてすぐに買ってしまった。4個入で600円とかだから高いけど、動画が撮れて見てもらえたからよかった」と、ある女子高生は言う。
Instagramでも写真を投稿するための商品が促進されたが、TikTokでも同様にTikTok消費が促進されている。おまけに、TikTok映えする商品の幅は、Instagramよりもずっと広い。
約30年前の作品筒井康隆さんの「残像に口紅を」も、TikTokクリエイターけんごさんの紹介動画がきっかけとなり、3カ月で10万5000部の増刷につながった。「#本の紹介」は6億4960万回される人気ハッシュタグであり、紹介動画がきっかけに増刷した例は少なくない。
汐見夏衛さんの「花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」も、出版から4年後にTikTokでの「本当に全人類に見てほしい本。もう大号泣どころじゃない。身体中の水分持ってかれる。そして映画化してほしい」というあるユーザーの文章を付けて表紙の絵に音楽をつけた投稿から大ヒット。7万5000部の増刷につながった。こちらはストーリーを紹介するのではなく、音楽で小説の世界観を紹介するものとなっている。
この夏には、TikTokが出版社などとコラボして、全国の約600の書店で「#本の紹介」文庫フェアも行われた。書籍こそ、音声やテキストでストーリーや感動する点などを紹介したり、音楽で世界観を表現できたりする点が相性が良いのだろう。
これは日本だけの話ではない。英語圏ではTikTokで書籍紹介を投稿する際には「#BookTok」というハッシュタグが使われており、何と270億再生に。書店チェーンバーンズ・アンド・ノーブルではこのポップが使われている。
「#TikTokMadeMeBuyIt」も64億回再生を超えており、さまざまなヒットにつながっている。フェタチーズは、オーブンで焼くフェタパスタのレシピ動画をきっかけに飛ぶように売れた。またケイト・スペードのハート型のバッグは、ある女性の買ったばかりのハート型バッグについて語る動画投稿をきっかけに品切れ状態となったという。
TikTok売れは、商品だけではない。タクシー会社である三和交通では、おじさん2人がノリノリで踊る動画をTikTokに投稿。おじさんなのに楽しんでノリノリな姿が受けて人気となり、DA PUMPのミュージックビデオに出演するまでとなった。「楽しそうな会社」ということで、若い層からの求人増にもつながっている。PR臭がなく純粋に楽しそうな姿が受けたと考えられる。
TikTokでこれだけのバイラルを生み出し、ヒットのつながる理由は、TikTokではAIでそのような動画を好みそうな人に表示されるためだろう。その結果高い反応が集まり、バイラルにもつながっていく。TikTokのトレンドを生み出す力は、ビジネスパーソンなら見逃せないものとなっている。気になる方は、ぜひ覗いてみてはいかがだろうか。
高橋暁子
ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。
公式サイト:https://www.akiakatsuki.com/
Twitter:@akiakatsuki
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