VR(バーチャルリアリティ)が流行している。VRとはVirtual Reality(仮想現実)の略で、ゴーグルなどの専用の機械を装着して仮想空間に入り込み、現実のように体験できる技術のことを指す。
「VRoid Studio」は、pixiv(ピクシブ)が無償で提供している3Dアバターの制作・カスタマイズソフトウェアだ。これで作られたVRoidアバター用のファッションアイテムにアパレル企業やクリエイターが参入し、10代を中心とした若者たちがバーチャル空間でファッションを楽しんでいるという。流行するVRの現状について見ていこう。
LINEの調査(2021年7月)によると、VRの認知度は全体で90%におよぶ。年代別にみると、男女ともに30〜50代と比べて、10〜20代の認知率がやや高くなった。
「知っているし、使っている」という人は5%ほどおり、「知っているし、以前使っていたが、いまは使っていない」を含めた利用経験率は全体で16%となった。「現在利用率」または「利用経験率」の割合は、10〜20代の男性で2割超と他の層と比べてやや高めとなっている。
今後の利用意向について回答してもらったところ、利用意向がある人の割合(「ぜひ使ってみたいと思う」「機会があれば使ってみたいと思う」の合計)は全体で56%と、利用意向がある人の割合が過半数を超えた。年代別でみると、利用意向がある人の割合は男女ともに10〜20代が高く、特に10〜20代男性では67%で7割弱と非常に高い。男女別では、女性と比べて男性のほうが利用意向がある人の割合が高かった。
VR流行の背景には、コロナ禍の外出制限、オンラインコミュニケーションが長時間化している影響は大きいだろう。VRは専用のゴーグルなどが必要であり、PCのスペックも求められる。初期投資が必要な点がハードルとなっているが、自治体や大企業、イベントなどでの活用も始まっており、今後に期待が持てる。
VRoid Studioでは、あらかじめ人型のモデルが用意されているため、3DCGの知識がなくてもパラメータ操作などすることで、容易に自分だけの3Dアバターを作成できる。
作ったアバターを使えば、さまざまなVR/AR空間でのコミュニケーションを楽しめるようになる。キズナアイ、ミライアカリなどのVTuberをイメージするとわかりやすいかもしれない。
それだけでなく、アバターが着る服もテクスチャで作ることができ、他のアバターにも共有できるようになっている。つまり、アバター用の服を簡単に作成・販売可能というわけだ。Pixivが運営する創作物の総合マーケット「BOOTH」や、デジタルプロダクト専門ECサイト「Vket Store」などに出品されている状態だ。
面白いのは、現実世界のアパレル企業もバーチャルファッションのアイテム開発に乗り出している点だ。ファッションブランドのSPINNSは、BOOTH上に「SPINNS BOOTH店」を開設し、アバター用のファッションを販売している。同ブランドの新作アイテム販売に合わせ、同じデザインのアバター用ファッションを販売しているのだ。特にユニセックスで着用できるデザインのアイテムの売れ行きが良いという。
世界最大規模のVRイベント「バーチャルマーケット」でも、さまざまな企業が出店している。ディズニーストア、ニッポン放送、ビックカメラ、タカラトミーなど並ぶ中に、WEGOなどのファッション系企業も出店。同じく出店した伊勢丹新宿本店では、現実の店舗で行われている催事をバーチャル上で再現し、アプリから三越伊勢丹オンラインストアに飛んで、実際のファッションなどの商品を購入できるようになっていた。
BOOTHにおけるアバターファッション関連商品の出品・注文数は増加傾向にある。8月時点で前年同月比約2倍、2019年の同月比で出品数は約3倍、注文数は約6倍に伸びているという。
アバターファッションの主な購買層は、10代を中心とした若者たちだ。もともとデジタルネイティブ世代で新しいテクノロジーにも抵抗がないこと、オンラインコミュニケーションを重視しているためだろう。
それだけでなく、「自分らしくありたい」「周囲にかっこいい/おしゃれと思われたい」という意識も強く、自己実現や交友関係の影響からこのような消費行動に出ていると考えられる。オンラインコミュニケーションをする際にも、アバターやファッションの見た目は大きく影響することになる。
アバターの着せ替えは、もともとニーズのある分野だ。かつてのMobageのアバターやプーペガール、最近ではZEPETO、タイムプリンセス、ピグパーティなども着せかえ要素を持つ。アバターの場合、自分の性別や年齢、外見などに関係なく、リアルではなかなか着られないようなファッションも着て楽しめる。純粋にデザインのみで選んだり、冒険したり、TPOに合わせて自由自在に着替えることもできるのだ。
VR世界はまだ伸びていきそうだ。それに合わせて、若者を中心に新しいオンラインコミュニケーションが生まれている。若者たちは、オンラインでも自分らしくいたいと考えるようだ。大人世代も見習って、この世界を覗いてみると新しい世界が発見できるかもしれない。
高橋暁子
ITジャーナリスト、成蹊大学客員教授。SNS、10代のネット利用、情報モラルリテラシーが専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育に詳しい。執筆・講演・メディア出演・監修などを手掛ける。教育出版中学国語教科書にコラム 掲載中。元小学校教員。
公式サイト:https://www.akiakatsuki.com/
Twitter:@akiakatsuki
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