三井不動産は10月6日、既存躯体を再利用するリファイニング建築を採用した賃貸マンションの解体見学会を実施した。建替えと比較しCO2排出量を減らせるほか、工事費が抑えられ、工期も新築に比べ3分1程度に短くなるとしている。
リファイニング建築は、建物寿命を新築同等とするため、躯体を調査、補修した上で耐震性能を現行法規レベルまで向上させるという建築手法。青木茂建築工房の代表取締役である青木茂氏が提唱し、すでに共同住宅をはじめ公共建築や事務所ビルなど数多くの再生建築を手がけている。
今回、リファイニング建築を採用したのは東京都新宿区にある賃貸マンション。1971年に建設された9階建てで、総戸数は20戸。耐震性能を考え、約10年前から補修や改築などを考えていたという。
建物オーナーは「1971年当時にお願いした建設会社に相談をもちかけたところ、1階の駐車場部分などで耐震性が弱いと診断された。建替えを検討したが、現在の建築基準法に照らし合わせると9階建てが5階建てになってしまうことがわかり、思案していた」と話す。
リファイニング建築を知ったのはセミナーに行き、青木氏の講演を聞いたことがきっかけ。「9階の面積を確保でき、費用は新築に比べ7〜8掛け程度に抑えられる。建替えで約3年と見ていた工期も約1年に短くできるなど、いいことしかなかった」との理由からリファイニング建築の採用に踏み切ったという。
三井不動産では青木茂建築工房と2016年に業務提携を結び、今までに5つの物件でリファイニング建築を採用しているとのこと。CO2排出量削減が叫ばれる中、新築物件における取り組みは進んでいるが、圧倒的に多い既築物件での取り組みにも目を向けるべきと考え、青木茂建築工房の協力のもと、国立大学法人東京大学 新領域創成科学研究科教授の清家剛氏と共同研究を実施。CO2排出量削減効果について評価したところ、既存躯体の約84%を再利用することにより、既存建物を同規模に建替えた場合と比較し72%削減できることが判明したという。
既存躯体をもとに耐震強度を高めるため、一般的には「ブレース」と呼ばれる筋交いを補強用に追加していくが、今回は、袖壁補強と一部梁の炭素繊維補強という「見えない補強」を実現。耐震性と快適な住環境の両立を目指した。
これを実現した裏には、徹底した不良箇所の調査・補修がある。全フロアのすべての部分を調査しながら、補修、補強が必要な部分をピックアップしていくのだが、今回の賃貸マンションでは該当部分が3000箇所に及んだという。これにより、耐震性能を現行基準にまで引き上げる。補修、補強した箇所はすべてファイリングし、補強後は第三者機関による安全性を示す構造評定所を取得する。
賃貸マンションの完成は、2022年3月を予定。戸数を35戸まで増やしたほか、竣工後には、運用時エネルギーも新築同等とするため、サッシ交換や断熱改修なども実施するとのこと。また、床の遮音性能が低く、足音などが階下に響くといった課題があったが、フクビ化学工業の粒状床衝撃音低減材「サイレントドロップ」を1棟丸ごと採用することで、遮音性能を向上。建物重量も増やさず、課題解決に結びついたとしている。
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