飛松氏:メディアをやっていくことで、大企業の共通の悩みも知ることができました。集まってナレッジを交換するということは重要だと思えましたし、学びは非常に大きかったですね。あと、結果的にここまで入居者数が増えたことについては、テレビの影響も物凄く大きかったんです。
角氏:テレビ東京で今年4月から放送されている「巨大企業の日本改革3.0「生きづらいです2021」〜大きな会社と大きな会社とテレ東と〜」ですね。
飛松氏:番組開始までは「スタートアップが入れるのか」とか、「営業拠点にしたい」とか、「タッチダウンオフィスみたいな使い方をしたい」という問い合わせが多く、ちゃんとしたターゲットの方、つまり大企業で新規事業を創出しようという方からの問い合わせは少なかったんです。
テレビという媒体がARCHの取り組みを、中の様子も含めてコンテンツ化してうまく外に出してくれて、刺さるべきところに刺さったんです。放送開始後に30社からお問い合わせがあり、実際にご入居もいただいています。
角氏:私も非常に面白い番組だなと思います。ただ森ビルがテレビ番組の仕掛けの場所になるというのはあまり見たことがなくて、不思議だなと。どういう意思決定をされたのですか?
飛松氏:概念的な話からすると、たとえばスタートアップでは、ワールドビジネスサテライト(WBS)と日経新聞に取り上げられるかが大きなベンチマークになるんです。彼らからすると、1つの市民権というか、世の中的に認知してくれたと思わせてくれるのが、WBSにキャッチされることです。あと、日経新聞に載ることもわかりやすい指標になります。
角氏:親に電話したくなりますよね(笑)
飛松氏:それはなぜか。そして何でウェブメディアではなくテレビや日経なのか。要は大企業の社長・役員などの決定権者は何を見ているかということです。アーリーアダプターや業界の人間は普段テックメディアなどを見ますが、本当に大企業とか日本を大きく動かしに行く時には、それらの既存の媒体にちゃんとアクセスしないと物事は動かせないんです。
角氏:スイッチはそこにあるわけですからね。
飛松氏:僕もARCHの仲間も、普段はマスメディアよりSNSやYouTubeやネットメディアを見ています。でも僕らはマジョリティではない。世の中を今、組織で動かしている方はテレビを見ている。そうであれば、大企業のオープンイノベーションを語る上でそこでしっかり訴えないといけないということです。
もう1つ実際の話をすると、うちの若い人間が「テレ東さんとこういう形でやりたい」と起案をして、半年粘ったんです。実は僕もテレビの効果について最初は半信半疑だったのですが、自らの30歳の頃を振り返って、「フルスイングさせてあげてもいいかな」と腹をくくろうと決めました(笑)。
角氏:かつての自分もそうだったと目を瞑った(笑)
飛松氏:やってみて、テレビと組ませていただくというアプローチは面白かったです。大企業のオープンイノベーションの意味を正しく理解していただいて、みんなが応援して、「新規事業部署に俺も異動したい」「一緒にやりたい」と、そう思ってもらえる社会になってくれると最高ですよね。
角氏:素晴らしいです。六本木時代にVCの方々と取り組まれていた与信を積み上げていくという行為を、今は大企業の新規事業部門のみなさまと、テレ東の番組や日経新聞系列の力を使っておこなう形に変えられたと感じました。
飛松氏:そうですね。メディア露出の目的が変わったと思います。スタートアップですと与信という言葉が正しいと思うのですが、今は与信というよりも、むしろきっちり新規事業部門の方に光を当てて、「憧れの部署」「憧れの人たち」にしたいんです。ラグビーで例えると、ワールドカップの前と後、さらに言うと日曜にやっていた「ノーサイド・ゲーム」というドラマの前と後で、ラグビーに対する注目度が全く変わりましたよね。
失礼な言い方になりますが、ラグビー選手や協会の頑張りはもちろんあるのですが、ドラマで感化され、テレビを観て応援するという流れが無かったら、ワールドカップを自国開催してもあそこまで盛り上がらなかったと思います。私はあのムーブメントは三位一体で作られたものだと思っています。
なので、イノベーション支援も税制改革や補助金制度を作ることも大事でしょうけど、メディアが娯楽性を少し持たせて、いい感じに光を当てることに意義があると思っています。分母が1万倍になったらクオリティも絶対に上がりますし、その結果子どもたちがみんな「大企業の新規事業部署に行きたい」と言い出したら、10年後、20年後の日本社会は全然違いますよね。
角氏:そうですよね。多くの人々がストーリーに巻き込まれていくという大きなうねりが作られていくと。
飛松氏:大企業の新規事業部署だけではなくて、決定権者である経営層が応援して下さらなければいけないので、メディアの力を使って変化・進化できればいいなと期待しています。
角氏:新規事業部門だけでなく、それに憧れる人もそうですし、経営層も周りの事業部門も一体となって変わっていくと。
飛松氏:そうです。
角氏:そんな未来を創り出していくというのがARCHの役割だということですね。
飛松氏:そうなれればと思いますし、われわれが中心になりながらもっと色んな人を巻き込んでいければいいと思っています。そのためにはテレビなどを通した仕掛けだけではなく、次のステップとして、入居企業がこれから街全体を活用しながら新しい産業を生み出していけるようにするための取り組みも始めています。
森ビルの立場、あるいは広く日本流のイノベーション創出の枠組みという視点で見れば、ARCHは1つの構成要素です。ARCHの入居する虎ノ門ヒルズ ビジネスタワーにはほかにも、シリコンバレーと日本の懸け橋となり大企業をアクティベートすることを目指すVCのWiLが入居してARCHの企画運営を伴走してくれていますし、日本最大級のスタートアップコミュニティを擁するインキュベーションセンターのCIC Tokyoがいます。また、虎の門周辺にはVCや、欧米の先端ICT企業と提携できるジャパン・エントリーという機能の集積があります。
そういったさまざまなパーツを組み合わせて、さらに隣接する霞が関と連携したり、また、丸の内にはフィンテック、日本橋にはヘルステック、渋谷にはスタートアップやデベロッパーメンバーが集まっていますが、虎ノ門はそのどこからもアクセスしやすい立地です。虎ノ門はそれらのエリアのハブとなり、全ての産業が集まってきて、新しい領域にチャレンジしていける場にしていければいいと考えています。そこをうまく回していくエコシステムを作る活動や、それを外部にアピールする活動にも僕らは着手しています。
角氏:今後の広がりに期待したいですね。また本連載でも、これから会員の方々を紹介して、その手助けになれれば幸いです。本日はどうもありがとうございました。
【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】
角 勝
株式会社フィラメント代表取締役CEO。
関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。
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