「東方ダンマクカグラ」アンノウンXに聞く--同人サークルと大手企業はいかにして連合軍を組んだか

 老舗の同人サークルとスマホゲームの大手企業という、文化も立場も異なる両者にあった“大きなすれ違い”と、それをいかに解消して連合軍を組んだか――「アンノウンX」制作によるモバイルゲーム「東方ダンマクカグラ」(ダンカグ)の関係者にインタビューを行った。

 本作は「東方Project」初の公認スマートフォン向けリズムゲームとして、8月4日から配信を開始。東方Projectの世界観をベースに、二次創作である東方アレンジ楽曲とオリジナルストーリーを取り入れたタイトルとなっている。

「東方ダンマクカグラ」スクリーンショットより
「東方ダンマクカグラ」スクリーンショットより。東方アレンジ楽曲のリズムアクションが楽しめる
個性豊かなキャラクターたちが登場し、さまざまなエピソードも楽しむことができる
個性豊かなキャラクターたちが登場し、オリジナルストーリーが展開される

 原作といえる東方Projectは、同人サークル「上海アリス幻樂団」の主宰であるZUN氏が制作した弾幕シューティングゲームを基点とする、ゲームや書籍、音楽などの作品群。二次創作も盛んで、同人誌や同人ゲーム、同人音楽などジャンルも多岐にわたり、20年以上の歴史と、衰えない盛り上がりを見せている。

 ダンカグは、東方Projectの公認二次創作タイトルという位置づけとなっており、制作しているアンノウンXは、企画原案のAQUASTYLE、企画・運営のDeNA、開発のxeenによる共同チームで構成されている。

 アンノウンXの団長でもあるAQUASTYLE代表のJYUNYA氏、プロジェクト実現に向けて奔走したキーマンでもあるDeNAの田中翔太氏、ダンカグのプロデューサーを務める“うえだP”ことDeNAの上田朋宏氏に、本作の開発経緯をはじめ、両者の関係構築といった開発エピソード、東方Project全体を盛り上げるプロモーション施策をとったことなどから、それぞれが思う東方Projectや個人制作のインディゲームについてなど、さまざまなことを聞いた。なお取材は、ゲーム配信よりも前に行われたものとなっている。

 ちなみにAQUASTYLEは、2001年から活動をしている同人サークル。2004年からは東方projectを中心として、長年二次創作ゲームなどを制作している。「不思議の幻想郷」シリーズなどを展開しており、一部タイトルは「“Play,Doujin!”プロジェクト」などを通じて、コンシューマーゲーム機向けにも販売。PlayStation Awards 2017においては、「不思議の幻想郷TOD -RELOADED-」がインディーズ&デベロッパー賞を受賞するなどの実績も残している。

左から、DeNAの田中翔太氏、AQUASTYLE代表のJYUNYA氏、DeNAの上田朋宏氏
左から、DeNAの田中翔太氏、AQUASTYLE代表のJYUNYA氏、DeNAの上田朋宏氏
(※写真撮影時のみマスクを外しています)

代表の男気でまとまっているゲーム好き集団

――まずJYUNYAさんに伺いますが、AQUASTYLEはどういう成り立ちでできたサークルなのでしょうか。

JYUNYA氏: 僕がゲームを作りたいと思ったのが15歳の時で、中学生あるあるだと思うのですけど、ファイナルファンタジーやドラゴンクエストみたいなものを作りたいという思いがあったんです。

 学校だとよくクラスの中で班分けがあって、いろんなことを一緒にするじゃないですか。そのときのメンバーがすごく仲が良くて、そのままサークルになったんです。始めは映像系のサークルだったんですけど、東方Projectが登場して二次創作が広く許容されていることもあって、そこをメインに活動をしています。

上田氏: たしかJYUNYAさんは、じゃんけんで代表になったんですよね。

JYUNYA氏: 最初に作ったソフトが、思いのほか多くの方に手に取っていただいたのですけど、税金などのお金周りの対応をしなければいけなくなったんです。そんななかで僕も含めてみんな「嫌だ」と主張したので、もうじゃんけんで負けた人が代表と僕が決めて。そして代表が20年続いてます(笑)。

――長年活動が続けられている秘訣はありますか。

JYUNYA氏: 僕がやりたいことに対して、誰も反対しないことでしょうか。僕はチームメンバーは大好きなんですけど、チームメンバーも、僕がやりたいことに対して「やりたい」という方しかいないんです。それが20年続けられた秘訣です。

――サークルのメンバーは入れ替わりとかあったのですか。

JYUNYA氏: 立ち上げメンバーは5人で、今は数十人に増えてますけど、まだそのメンバーもいます。一時期離れていた方もいますけど、その間にすごい技術を身に着けてきたとか、無口だったのによくしゃべるようになったとか、いろんなスキルを身に着けて戻ってきてくれて。

田中氏: 僕が出会ったときの印象として、学生のときに集まって制作を続けているインディゲームグループは相応にあると思うのですけど、思った以上にちゃんと代表をされていると感じました。

JYUNYA氏: 本当ですか?それは「あの大企業DeNAの人と会う」と思って、頑張っていたからですよ。

田中氏: 代表の男気でまとまっているゲーム好き集団というのを凄く感じました。

JYUNYA氏: 僕がやりたいことにみんなが付いてきてくれるという、わかりやすい構図です。なんだかんだと、みんながいて続いている感じです。

隠れキリシタンのように東方Project好きを発見して開発チームを結成

――DeNAとして、このプロジェクトの立ち上がりについてお話しいただけますか。

田中氏: 最初の立ち上がりの部分と、今の開発チームが結成されるまでの2段階があります。そもそものきっかけは、僕とJYUNYAさんがお会いして、JYUNYAさんから東方Projectのモバイルゲームを作りたいという相談をいただいたことです。企画内容も含めて話しをしていくなかで、これであればDeNAとしても、ちゃんと体制が整ったならばすごくいいものが作れるし、応援できるかもしれないと思ったことが始まりです。

 ただ、ちゃんとゲーム開発ができるチーム体制があることだけではなく、東方Projectが好きなこと、東方Projectの文化に対してちゃんと理解をしようという姿勢がある人でないと、AQUASTYLEと一緒に仕事をするのは難しいとも感じました。BtoBでIPをお借りして、その通り制作するという関係だけではダメだろうと。相手のことを理解して、東方Projectのことを理解することが苦ではない、ということが大前提だとは考えてました。

 そして、そういうチームを作るにはどうしたらいいかを社内のメンバーと相談したときに、好きな人たちをアンケートなどで見つけたほうがいいだろうと。逆に、好きな人が集まらないようであれば、これは受けられないぐらいに考えてました。そうしたところ、アンケートで引っかかってくれたのが上田だったと。

上田氏: まだゲームプロジェクトが立ち上がりかけていることは、社内でも公表されていない段階でした。アンケートも「好きなIPを複数選んでください」という設問に、ダミーのIPがたくさん並んでいて、そのなかになぜか東方projectの項目があったんです。

 それを選択したら、どんどん質問が深堀りされていって。ほかだと3分程度で終わるはずなのに、「好きな原作はなんですか」「何年から触れましたか」「例大祭(※東方Projectオンリーの同人誌即売会「博麗神社例大祭」のこと)には参加されましたか」とか、めちゃめちゃたくさんあって。少し不思議に思いつつも、すごく真面目に東方Projectに親しんできた遍歴を書いたから、見つかったと。

田中氏: このアンケートは大きかったです。ここで上田が、アンケートは面倒と感じて回答していなければ、AQUASTYLEとご一緒するという決断に踏み込めなかった可能性もあるぐらい、重要なものでした。

 あとは、社内で東方Projectが好きという噂話や、コミックマーケットに行ったときにコスプレをしていたという目撃情報を集めていくと、まるで隠れキリシタンのように東方Project好きがいるとわかってきて。これはベストメンバーが組めるのではというのが見えてくる瞬間がありました。これは個人的に嬉しかったですね。

 そのあとはアンケートの回答や集めた情報を参考にしつつ、情報の公開範囲に配慮しながら、東方Projectが好きな方に、立ち上げようとしているゲームプロジェクトに興味を持ってもらい、チームに加入してもらいました。

上田氏: 実は東方Projectが大好きで、さらにインディゲームを販売していたという、「東方が好きでゲームクリエーターになった」という方も社内にいて。いるところにはいるんだなと。影響は大きいと感じました。

JYUNYA氏: 実は以前、若手で面白い東方Projectの二次創作ゲームを作る方がいたんです。すごく才能があると思いつつ人見知りするタイプだったので、ZUNさんに会わせてみたり、配信番組を企画するなどのサポートもしたんです。そうしたら数年後、DeNAに在籍したこともわかって。

上田氏: あのときお世話になったので、ぜひチームに入って恩返ししたいと言ってましたね。

田中氏: このプロジェクトを立ち上げるかどうかを検討していた時期に、JYUNYAさんと中国に行ったことがあったんです。現地でのイベントの盛り上がりを視察する目的だったのですけど、そこで日本人の開発者の方もいて、名刺交換したらお互いにDeNAだったということもありました(笑)。

JYUNYA氏: 単純に東方Projectが好きで海外のイベントに行ったりしてて。そこでバッタリとね。

田中氏: 東方Projectが、いかにゲーム業界において大きな影響を与えているかを感じました。公言はしてないけど、ほそぼそとファン活動していたりとか、言ってなかったけど好きだったという方々がどんどん参加してくれたのは、立ち上げ時のチーム作りにはすごく重要でした。

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