ソフトバンクG、リスク回避で中国企業への投資を抑制--2号ファンドには経営陣も共同出資

 ソフトバンクグループは8月10日、2022年3月期第1四半期の決算を発表。売上高は前年同期比15.6%増の1兆4791億円、純利益は前年同期比39.4%減の7615億円となった。同社の代表取締役会長 兼 社長執行役員である孫正義氏によると、減益の要因は前年同期に米Sprintの株式を売却して一時益が入ったことによる反動が大きいという。

決算説明会に登壇するソフトバンクグループの孫氏
決算説明会に登壇するソフトバンクグループの孫氏

 前年同期の利益約1兆2500億円のうち、Sprintの売却益と、その売却先であるT-Mobile USの株式による利益が1.1兆円ほどあったことから、それを除いた純利益は1500億円程度だったとのこと。一方で今四半期の純利益のうち、T-Mobile USの株式に関連したものは約2500億円とのことで、差し引くと5000億程度になることから、今期の方が利益が出ていると説明する。

 その伸びに貢献しているのが投資ファンドの「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」(SVF)である。前年同期はWeWorkに関する問題や、新型コロナウイルスの影響が直撃した時期でもあったことから、SVFにとって「受難の時期だった」(孫氏)そうだが、その後急速に株価が回復したことなどもあり、SVFを始めてから4年間の累計投資損益は6兆7000億円に到達、順調ぶりをアピールする。

SVFの累計投資損益は、WeWork問題やコロナ禍の影響で前年同期に大きく下がったが、その後急回復し6兆円を超える規模に達している
SVFの累計投資損益は、WeWork問題やコロナ禍の影響で前年同期に大きく下がったが、その後急回復し6兆円を超える規模に達している

 そして同社が最も重視しているという、SFVやアリババグループ、ソフトバンクなどの保有株式から純負債を引いた時価純資産は約26.5兆円と、右肩上がりで伸びていると孫氏は説明。時価総額はアリババグループの株価が一時は6割を占めていたというが、SVFの1号ファンドと2号ファンド、そしてラテンアメリカ企業への投資に特化したソフトバンク・ラテンアメリカ・ファンド(LatAm)を合わせた時価総額が大きく伸びたことにより、アリババグループが占める比率は39%にまで低下。分散化が進んでいるとのことだ。

時価純資産(NAV)はSVFが占める割合が増えており、アリババグループに匹敵する規模になっているという
時価純資産(NAV)はSVFが占める割合が増えており、アリババグループに匹敵する規模になっているという

 またSVFの出資先の中で上場を果たした企業の時価は、韓国クーパンなどの大型上場などもあって今四半期時点で9.8兆円に上るとのこと。株式を売却した企業の売却益も含めると、12兆円以上を得ているという。

 さらに孫氏は、現在力を入れているSVFの2号ファンドの動向についても説明。SVFの1号ファンドが終盤で苦戦したこともあって新たな投資を集められなかったことから、2号ファンドでは自社単独で投資する形となったが、その結果161社への出資を実施し、1号ファンドなども含めると世界のAI関連ユニコーンが調達した金額のうち、10%を同社が投資するに至っているという。

ソフトバンクグループによる未上場のAIユニコーン企業への出資額は、全体の約10%に及ぶとのことで、2、3番手の数倍に上る規模だという
ソフトバンクグループによる未上場のAIユニコーン企業への出資額は、全体の約10%に及ぶとのことで、2、3番手の数倍に上る規模だという

 孫氏は「AI革命はこれから10、20年のうち、100%必ず大きくなると信じている」とAI関連企業への投資への強い意欲を示し、AIへの投資を一層強化する姿勢を示した。そこで新たに打ち出したのが「SVF2共同出資プログラム」である。

 これはSVFの2号ファンドに、ソフトバンクグループだけでなく同社の経営陣も共同出資することで、経営陣が自らリスクを取ることにより収益拡大につなげていくもの。孫氏によると、このプログラムは1号ファンドの時に取締役会の承認を得て、実行直前の段階まで進んでいたそうだが、直後にファンドが苦しい状況となったことで「経営陣が全員降りてしまい、棚上げになってしまった」とのこと。その後の業績回復などにより、2号ファンドで改めて実施する形となったようだ。

2号ファンドの更なる強化に向け「SVF2共同出資プログラム」を立ち上げ。経営陣が自らファンドに出資してリスクを取ることで、より大きなリターンに結び付ける仕組みだという
2号ファンドの更なる強化に向け「SVF2共同出資プログラム」を立ち上げ。経営陣が自らファンドに出資してリスクを取ることで、より大きなリターンに結び付ける仕組みだという

 孫氏はこのプログラムについて、「経営陣がサラリーマン経営でリスクもリターンも取らないより、リスクを取ってリターンを取る方が株主にとっても、経営にとっても良い結果を生むと信じている」と説明。今後同社の経営文化としても残していきたいとの考えを示す。一方で再び外部の出資者を募ることは当面考えていないそうだ。その理由については、外部資本を集めなくても自己資本だけで投資し、回収できるエコシステムが順調に回り始めたためだと説明する。

 また孫氏は、余剰資金運用のため2020年に設立したIT大手などの株式投資を主体とした投資子会社「SB Northstar」について、当面縮小する方針を打ち出した。その理由については「SVFへの資金投資需要が旺盛にある。優先すべきはSVFだと思っている」と答え、再びSVFでの投資にまい進する考えのようだ。

制裁の動向を見据えるため中国企業への投資は様子見

 さらに孫氏は、SVFの投資先である301社の、投資先時価の地域別比率について言及。米国が34%となる一方、中国の比率は23%にまで減少、代わりに中国以外のアジアが25%にまで増加するなど、分散化が進んでいるとしている。また、かつてはライドシェア関連が多くを占めていた分野ごとの時価総額比率も、物流や金融など多くの分野が伸びて偏りが解消されつつあるという。

SVFの投資先の時価総額は米国企業が3割を超える一方、中国企業は23%と、その割合が低下している
SVFの投資先の時価総額は米国企業が3割を超える一方、中国企業は23%と、その割合が低下している

 孫氏がそうした説明をする背景にあるのは、中国政府の国内IT大手に対する統制の影響を受けた株価の大幅下落があり、実際SVFの出資先である滴滴出向(DiDi)や満幇集団(フル・トラック・アライアンス)といった中国企業は、上場直後に中国政府から制裁を受けたことで株価が大幅に落ち込んでいる。

 孫氏はそうした中国企業について「今は受難の時だが、長い目で見れば持ち直すと信じている」と話し、中国政府の姿勢には賛同の立場を示している。一方で、中国政府のIT企業に対する規制の範囲と内容がまだ見えていないことから、「それ(規制)が株式市場にどの程度影響を与えるのか、もう少し様子を見てみたい」と話し、ある程度のルール整備が進むまでは中国企業への投資を抑える方針を示した。

 実際、2021年度は、SVF2号ファンドによる新たな中国企業への投資が全体の11%程度にまで減少しているとのこと。ただ、ソフトバンクグループの業績はSVF出資先企業よりむしろ、アリババグループの保有株式の時価総額にも大きく左右される状況にあり、中国政府の制裁によるリスクは無視できないものとなっている。

 この点について孫氏は、アリババグループはすでに制裁を受けていることから「新しいルールにしっかり基づいて、今後の事業活動が継続されると信じている」と、今後の回復に期待するとした。しかしながら、直近では「SVFとアリババグループ関連(の時価総額)がほぼ同じくらいか、逆転するくらいまで来ている」とも説明。リスク分散を一層積極化している様子も見せた。

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