ソフトバンクは8月4日、2022年3月期第1四半期の決算を発表した。売上高は前年同期比15.7%増の1兆3566億円、営業利益は前年同期比1.1%増の2830億円と、増収増益の決算となった。
同日に実施された決算説明会で、ソフトバンク代表取締役社長執行役員兼CEOである宮川潤一氏は、増収の主な要因について、LINEの子会社化、そして「2020年にコロナ禍で減少した端末販売台数が回復した結果」と答えている。
実際、モバイルを主体としたコンシューマー事業の売上は、端末販売の回復によって前年同期比11%増の6932億円に達したそうだが、営業利益は前年同期比3%減の1845億円となっており、通信料引き下げの影響が徐々に出てきているという。
同社では値下げの影響による売上の減少を通期で700億円と見積もっているが、宮川氏によると今四半期では100億円程度の影響が出ているとのこと。来四半期以降は150億円超の影響が出るとしているが、「新iPhoneの供給が潤沢であれば、顧客の入れ替えが加速するかもしれない」と、例年秋の販売が見込まれるiPhone新機種の動向次第で、さらに数十億円の減収影響が出るとも話している。
スマートフォンの累計契約数は前年同期比7%増の2618億円と継続して伸びており、そのけん引役はワイモバイルだという。ワイモバイルの契約数は今四半期の3カ月間で約10%伸びており、「契約数は約700万に積み上がった」と宮川氏は説明。ワイモバイルが他社への転出抑制と、他社からの転入増に貢献しているとしており、「データくりこし」の導入や「データ増量オプション」の改定などで競争力強化を図っているという。
一方、オンライン専用の新ブランド「LINEMO」は、2021年7月31日の決算説明会でKDDIが公表した、競合サービスの「povo」の約100万という契約数に比べ「相当少ない、50万にも満たない状況」と宮川氏は説明。顧客にはLINEMOよりワイモバイルが選ばれているのが現状だという。
そうしたこともあってか、ソフトバンクは6月より、LINEMO通信量3GBで月額990円と、より小容量かつ低価格の「ミニプラン」を追加している。このミニプランについて宮川氏は、かつて子会社がMVNOとして展開していた「LINEモバイル」の顧客が他社に流出している傾向が見られたことから、その顧客とコミュニケーションした結果生まれたプランだとしている。
宮川氏によるとミニプランは、「思いのほかマーケットには受けた金額で、他社からの流入に勢いがついてきた」と、好調に推移しているとのこと。「今までプライスリーダーと言いながら、どこかで守りに入る部分があったと思う」と宮川氏は同社の最近の取り組みを振り返るとともに、ミニプランの提供を機として再び料金面でも攻めの姿勢を推し進めたいとしている。
さらに宮川氏は、電力サービスの契約数が188万に達しており、前年同期比で45%増えていることも開示。サービス自体の収入に加え「スマホとのセット割をやっていて、解約抑止に効いている」と、モバイル通信の解約抑止に大きな効果を挙げているとのことだ。
ただ、各社の新料金プランによる競争激化のあおりを受け、同社のスマートフォンの解約率は前年同期の0.53%から、1.01%に上昇している。この点について宮川氏は「4月まで他社のキャンペーンがあって、少し悪化したのは事実」と、苦戦していたことを認める。5月以降は回復しており、8月時点では「思い描いていた純増数に近づいている」とのことで、今後はワイモバイルやLINEMOの新たな施策で巻き返しを図っていく考えを示した。
また、総務省でプラチナバンドを含めた周波数の再割り当てに関する検討が進んでいることについて問われた宮川氏は、「プラチナバンドが欲しい人の気持ちは、自分がそうだったので良く分かる」と話す一方、「われわれにも客がいる。(他社への再割り当てがなされた場合は)その巻取りや、顧客との会話も必要だ」と、既存事業者の顧客に大きな影響が出ることへの懸念を示した。
宮川氏はさらに、新サービス対応のため毎年基地局のソフトウェアをアップデートする必要があるなど、基地局にも継続的な投資が必要なことから「期限があまりに短い割り当て方をすると、サービスの劣化が危惧される」とも説明。プラチナバンドが「ないから欲しいというだけでは議論にならないと思っている」と、プラチナバンド割り当てを要求する楽天モバイルをけん制するとともに、総務省への慎重な対応を求めている。
5Gの進展については「いま5G基地局が1.3万局を超えたくらい」(宮川氏)とのことで、半導体不足の影響は受けておらず、2021年度末までの人口カバー率90%という目標に向けては順調とのこと。ただ、6月に5G基地局整備の遅れで行政指導を受けたことについては「合計では(5G基地局の)1万局以上を達成しているが、立ち上げるべきエリアで少し足りないエリアと、多すぎるエリアがあった」と釈明している。
さらに宮川氏は、2021年内に開始する、5Gの性能をフルに発揮できるスタンドアロン(SA)運用についても言及。SA運用によって企業向けのIoTデバイス利用が増え、「ビジネスモデルに間違いがなければコンシューマー事業に匹敵する産業規模になると考えている」と、法人事業と結び付けての事業貢献に期待を寄せた。
その法人事業については、売上高が前年同期比6%増の1715億円、営業利益が前年同期比23%増の385億円と好調を維持。継続的な売上が見込めるソリューション事業の拡大が進んでおり、今四半期におけるソリューション事業の売上473億円のうち、約7割継続的な収入につながるもので、安定的な収益が得られる体制が整いつつあると宮川氏は評価する。
ZホールディングスによるヤフーとLINEの事業に関しても、LINEの子会社化の影響に加え、コロナ禍によるEコマースの利用が継続していることで好調を維持。スマートフォン決済の「PayPay」に関しても、登録ユーザー数が4000万を超え、決済回数が今四半期だけで7.9億回に拡大。来年度以降の連結子会社化に向けた基盤作りが進んだとしている。
また、そのQRコード決済に関する新たな取り組みとして、宮川氏はZホールディングスに共同出資している韓国のNAVERと連携し、ブロックチェーンを活用したQRコード決済の国際ネットワークを構築する米国のTBCASoftに、両社で共同出資することを明らかにしている。これによって国際的なQRコード決済の経済圏を世界へと広げていきたいとのことで、まずは台湾観光客向けに、台湾のQRコード決済サービスを日本で使えるようにする取り組みを進めていくとのことだ。
さらに今後は、PayPayを海外で利用できるようにする取り組みも進めたいとしているが、そのためには法律の問題もあり監督官庁からの許諾を得て進める必要があるとのこと。宮川氏は現時点で具体的な取り組みへの言及は避けたものの、携帯電話会社のローミングサービスのように「互いに競争し、共に作りあえるQRコード決済経済圏を全世界に広げていきたい」と語った。
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