ソフトバンク、携帯料金値下げの影響は700億円--中長期ビジョンは「天地人」

 ソフトバンクは5月11日、2021年3月期の決算を発表した。売上高は前年度比7.1%増の5兆2055億円、営業利益は前年度比6.5%増の9708億円と、増収増益の決算となった。法人事業の営業利益が前年度比で29%増の1077億円に達したのを始めとして、主力事業のすべてが増収増益になったことが、好業績の要因となっている。

宮川氏は中長期のビジョンとして掲げたのが孟子の「天地人」。成功を収めるための3つの条件「天の時」「地の利」「人の和」を示す言葉となる
決算説明会に登壇するソフトバンクの宮川氏

 4月に代表取締役社長執行役員 兼 CEOに就任した宮川潤一氏は、同日に開催された決算説明会で登壇し、2021年度以降の取り組みと目標を説明した。ソフトバンクはすでに、2022年度には売上高5兆5000億円以上、営業利益1兆円以上を目指すとしているが、その前段となる2021年度の連結業績は、売上高が前年度比6%増の5兆5000億円、営業利益が前年度比0.4%増の9750億円を見込むとしている。

 営業利益がほぼ横ばいとなる理由は、政府による要請を受けて実施した、携帯電話料金引き下げの影響が2021年度から本格化することで約700億円、そしてLINEとZホールディングスの経営統合にともなう無形資産の償却により約300億円の減益が見込まれるためだという。それを他の事業の伸びでカバーすることで、「プライドをかけて増益を果たす」と宮川氏は話す。

2021年度の1000億円の減益要因のうち、携帯電話料金引き下げの影響は700億円に及ぶという
2021年度の1000億円の減益要因のうち、携帯電話料金引き下げの影響は700億円におよぶという

 宮川氏はさらに、それらの業績目標を達成する短期的な重点戦略についても説明。好調な法人事業に関しては、多くの大企業を顧客に持つ営業基盤を生かして、デジタルツインなどの新技術を取り入れたソリューションを提供していくほか、B2B2Cビジネスの強化も推し進めることで、2022年度までに営業利益を1500億円に伸ばしたいとしている。

 通信事業に関しては引き続き5Gのエリア整備に注力し、5Gの実力をフルに発揮できるスタンドアローンへの移行を秋口から進めるとしたほか、引き続きスマートフォンの累計契約数の拡大にも注力。2020年度の2593万件から、2023年度には3000万件に拡大したいとしている。またEコマースについても、グループのアセットを活用して2020年代前半に現在の国内3位から、国内1位の座を獲得したいとしている。

スマートフォンの契約数は2593万に。中でもワイモバイルの伸びが著しいという
スマートフォンの契約数は2593万に。中でもワイモバイルの伸びが著しいという

 そして、これらの戦略に共通しているのが、Zホールディングスとの統合で実質的に傘下に収めたLINEのリソースを活用すること。宮川氏は、もともとLINEの親会社で、ソフトバンクと共同でZホールディングスの親会社となっている韓国のNAVERとの連携についても言及。NAVERは韓国で主力の検索サービスだけでなく、ロボットや自動運転などの技術も持ち合わせており、「世界で戦える技術がある」(宮川氏)と高く評価しているようだ。

 そこで現在、両社で事業戦略検討委員会を立ち上げ、新たなシナジー創出に向けた検討を進めているとのこと。具体的な狙いは「Beyond Japan、Beyond Koreaだ」と宮内氏は話しており、東南アジアを主体とした海外進出に向けた方策を両社で議論しているという。

ソフトバンクはNAVERと事業戦略検討委員会を立ち上げ、互いの国外、具体的には東南アジアへの進出に向けた取り組みを進めていくとしている
ソフトバンクはNAVERと事業戦略検討委員会を立ち上げ、互いの国外、具体的には東南アジアへの進出に向けた取り組みを進めていくとしている

 宮川氏はさらに、ソフトバンクとしてのBeyond Japan戦略についても言及。「宮内(前社長で現・代表取締役会長の宮内兼氏)が『Beyond Carrier』と言っていたが、実はBeyond Japanとも言っていて、2本の柱があった」と話し、社長就任を機としてBeyond Japanの戦略を本格化するに至ったという。

 その取り組みの1つとなるのが、決算発表と同日に発表されたAxiata Digital Advertising(ADA)への出資だ。同社はマレーシアの通信事業者であるAxiataグループでデジタルマーケティング事業を手がけており、ソフトバンクは6000万ドルを出資して株式の23%を取得、持ち分法適用会社にする。同社にソフトバンクのデジタルマーケティングの商材を紹介していたとことを機として、共同でビジネスを展開するに至ったとのことだ。

Beyond Japan戦略の第1弾として東南アジアでデジタルマーケティングを手掛けるADAへの出資が打ち出され、6000万ドルを出資するとしている
Beyond Japan戦略の第1弾として東南アジアでデジタルマーケティングを手掛けるADAへの出資が打ち出され、6000万ドルを出資するとしている

 宮内氏は今後もさまざまな海外事業者とパートナーシップを結ぶ考えを示しており、「年間400〜500(億円)くらいの投資ができる余力があって、予算化している」としているが、ソフトバンクグループとは異なりあくまで事業拡大のための投資になるとしている。中でも宮川氏は「PayPayの技術がインドからやってきて、かなり進化した。それを違う国で活躍して欲しいという思いがある」と話し、Axiataのような海外の通信事業者などとのパートナーシップなどを念頭に、PayPayの海外展開に意欲も見せている。

 そのPayPayに関しては、登録ユーザー数が5月時点で3900万人に達したほか、決済回数も2020年度には前年度比2.5倍の20億回を突破。2020年度の決済取扱高が3.2兆円に達したことも明らかにされるなど、依然成長が続いているという。2022年度以降は優先株式転換によってPayPayがソフトバンクの連結子会社になるとのことで、今後もPayPayを主体とした金融エコシステムの構築を目指すとしている。

PayPayの決済取扱高も初めて公開。3.2兆円と前年から2.6倍の伸びを示しているという
PayPayの決済取扱高も初めて公開。3.2兆円と前年から2.6倍の伸びを示しているという

 宮内氏はそのお手本が「Alipay」を展開する中国のAnt Groupのビジネスモデルにあるとし、そのマネタイズ方法を学んでいるとのこと。それを基にしながら、PayPayの決済をベースとした新たな事業を短期間で立ち上げ、収益化していきたいとしている。

200億円の自社株買いで「10年社長を続ける気概」

 さらに宮川氏は、その先となる中長期のビジョンについても説明。今後10年は、増収増益を継続する「成長」と、新たな「価値創造」で新規事業を立ち上げることにこだわって取り組みたいとしている。

 その10年先を見据えた挑戦に向け、宮川氏が掲げるのが孟子の「天地人」という言葉。5Gとデジタル化社会の到来によるあらゆる産業のデジタル化が進む「天の時」を迎え、ヤフーやLINE、PayPayなど非常に多くの顧客接点を持つ事業基盤という「地の利」と、1万5000人の営業部隊や1万人のエンジニアなど、同社が抱える豊富な人材と国内外の出資先企業などとの連携による「人の和」によって、企業価値の最大化を目指すというのが今後のソフトバンクの取り組みとなるようだ。

決算説明会に登壇するソフトバンクの宮川氏
宮川氏は中長期のビジョンとして掲げたのが孟子の「天地人」。成功を収めるための3つの条件「天の時」「地の利」「人の和」を示す言葉となる
 
 

 ただ、より直近の動きとして注目されているのは、通信事業に関するここ最近の動向に関してである。1つはソフトバンクの元社員が転職先の楽天モバイルに営業秘密を持ち出したとして、1000億円規模の損害賠償請求をした件についてだが、1000億円の根拠について宮川氏は、ソフトバンクの営業秘密を用いたことによる楽天モバイルの「基地局建設の前倒し効果や、新規契約者獲得や解約率の低下、そして大きいのがKDDIのローミングコスト削減」を計算した最大値になると説明した。

 もう1つは日本電信電話(NTT)による総務省幹部への接待問題についてだが、宮川氏は「いま第三者委員会で検証していただいており、その見解を聞いた上でもう一度議論する」と話し、こちらは具体的な言及は避けた。

 ちなみに宮川氏は社長就任と同時に、ソフトバンクから融資を受けて200億円規模の自社株式を市場から買い付けているが、その理由について「10年社長を続ける気概で引き受けた」ためと説明。「(社長就任から)1カ月ちょっとだがもうヘトヘト。これくらい本気で10年間やって、何%、何10%の伸びでは悲しい。今の株価の数倍を狙いたい」と話し、宮川体制による今後の成長に強い自信を示した。

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