新型コロナウイルス感染症の拡大により、我々の働き方は変わった。働き方の変化に関する受け取り方は人によって異なる。「通勤の負担が減り、テレワークで業務に集中出来る時間が増えた」と思う人もいれば、「会社でないと仕事に集中が出来ない」と認識した人もいる。「仕事とプライベートのONとOFFの切り替えが難しい」と感じた方もいるだろう。
1900社(2021年5月時点)が利用しているエンゲージメント解析ツール「Wevox」(ウィボックス)の統計データによれば、新型コロナウイルス感染症の拡大によるエンゲージメントの変化は統計的に有意な形ではなかった。エンゲージメントスコア全体だけでなく、業種などのさまざまな切り口での分析結果も同様の結果であった。つまり、エンゲージメントスコアの観点から新型コロナウイルス感染症の拡大の影響を俯瞰してみると、大きな影響はなかったと言える。
一方で、事実として我々の働き方は変わった。その変化の受け取り方も多種多様である。今回は、他の調査結果や職場状態の「見える化」の価値について伝えていく。
2020年度入社の新卒社員の多くは新型コロナウイルス感染症の拡大で出社が極めて困難な状態で入社した。「誰に何を相談すれば良いのか」すら分からず過ごした新入社員たちのエンゲージメントスコアは現在に至るまでどのような変化があったのか。
Wevoxの統計データでは、2019年度入社の新卒社員も2020年度入社の新卒社員も入社以降エンゲージメントスコアがダウントレンドという全体傾向は変わらない。
また、Wevoxの統計データから2018年4月入社の新卒社員のエンゲージメントスコアは入社以来2年に渡って下がり続けることも分かっている。
一方、全体傾向は同じでもその中身は異なる。2020年度入社の新入社員の場合、「営業職」では、2020年4-8月にかけて大幅にエンゲージメントスコアが低下後に回復した。ところが、「エンジニア職」ではエンゲージメントスコアが高水準を維持した。
上記のデータから、新入社員の「営業職」は、上司とのコミュニケーションが不足したことで課題となる傾向があるという仮説が立てられる。例えば、「職務」、「承認」、「支援」は、「人間関係」が起因で課題となった可能性がある。営業職は、オフラインのコミュニケーションを重視しているタイプのビジネスパーソン(もしくは「方」)が多い可能性もあり、テレワークが与えたストレスが大きかったのではないか。確かにテレワークが進むことで、クライアントへの移動(電車・車など)がなくなり、移動中の先輩社員とのコミュニケーションがなくなっている。
一方で、「エンジニア職」の場合、デジタルツールへの迅速な移行が出来たのではないか。つまり、受け入れる企業側も入社する社員側もデジタルツールへの親和性が高く、リモートワーク環境下でも迅速に対応できたと推察出来る。「エンジニア職」を選択する方たちは、そもそも対面のコミュニケーションを重視せず、対面よりインターネットを利用したテキストコニュニケーションのほうが得意な方が多いのではなかろうか。
職場状態の「見える化」の価値は3つある。
1つ目はベンチマークをとることで、職場内のメンバー同士の相対的な比較や集合体である職場の平均的な水準との比較ができる点。
2つ目は定点観測することで、同じ人でも計測するタイミングによってエンゲージメントが変動することに気付くことができる点。仕事が繁忙期だったり、トラブルが発生していたりすると、一時的にスコアが下がることもある。そのため、定期的に調査する必要がある。
3つ目はより良い職場にするための行動変容のキッカケになる点。職場状態の「見える化」をすることで、全体を俯瞰して組織や職場の状態を理解し、ベンチマークと比較する。そして、定点観測で変化に気付き、より良い職場にするためのアクションをとり、PDCAサイクルを回していく。
そのため、新卒社員だからと十把一絡げにしたり、統計データで全体傾向が同じだから同様のトレンドだろうと決めつけたりするのではなく、個々人の職務内容や価値観、性格特性ごとに、ワークスタイル変化の影響は多種多様であることを理解し、組織側が受け入れ体制を調整することが大切だ。
また、テレワークの常態化に伴い、肌感覚で職場の雰囲気を感じとることが難しくなった。管理職として成熟度の高くてもマネジメントの難易度は上がる。新任の管理職は初めての経験ばかりでさらに大変ではなかろうか。職場状態の「見える化」はこのような課題感にも価値を発揮する。
エンゲージメントが向上する活動を習慣化するためにも、心理的安全性の高い職場づくりは大切だ。心理的安全性の高い職場の状態、つまり、「チームメンバーに非難される不安を感じることなく、安心して自身の意見を伝えることができる状態」が実現できれば、職場状態を見える化した結果をと共に対話し、職場の理解を深め、変化に気付き、より良い職場づくりの行動にも繋がるだろう。
心理的安全性を高めるためには、職場のメンバー間で価値観(仕事観、人生観など)の相互理解が出来ていることが大切だ。朝ミーティングで気軽に「ワイワイガヤガヤ」と話し合うワイガヤの雑談時間を5分作るだけでも人となりの理解が深まるだろうし、価値観カードのようなワークショップツールで遊びながら価値観の理解を深めていく方法もあるだろう。自職場のメンバーに合いそうな取り組みをまずはやってみることが重要だ。
文中の新卒社員調査とSansanの調査で同様のことが分かった。Sansanの調査では、在宅勤務率とエンゲージメントの関係や人事施策の効果がビジネス職とエンジニア職では異なることが分かっている。ビジネス職においては、在宅勤務率が高いほどエンゲージメントスコアが低下し、Wevoxの項目の中では「仕事仲間との関係」などが特に大きく下がった。このような課題に対し、「Know Me」(Sansanが行っている社内施策)という飲食費補助のような施策を実施し、本施策の利用率が高いほど、「仕事仲間との関係」のスコアが向上する事がわかった。つまり、オフラインのコミュニケーション機会が減少しても、コミュニケーション促進施策等で補填できることが分かったのである。
本施策は統計的にも優位な施策だが、エンゲージメントを高めるためには自組織に適した施策の手数を様々打ってみることが大切であり、仮に課題感があったとしても失敗から学ぶ姿勢があれば全く問題ない。
どの業界でも、どの職種でも、何の役割を担っていても、エンゲージメントの高い職場づくりのためには、“まずは自分が出来ることからはじめてみよう”という気持ちが大切だ。より良い職場づくりのためにも、まずは職場状態の「見える化」からはじめてみるのはどうだろうか。
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