そうしたWindows 11の中で、今回最も大きなてこ入れが図られたのがMicrosoft Storeだ。現代のOSでは、アプリストアの出来が、OSの魅力を左右している現実がある。AppleはiOS向けに「Apps Store」、GoogleはAndroid OS向けに「Google Play Store」を展開しており、ユーザーはそうしたアプリストアからソフトウェアを無償ないしは有償でダウンロードして利用できる。
MicrosoftもMicrosoft Storeという名称でWindows 10向けのアプリストアを運営してきたが、ユーザーの認知度はかなり低い低空飛行が続いていた。なぜなら、Windows PCで使いたいとユーザーが思うようなアプリケーションがMicrosoft Storeにはなかったからだ。
Microsoftは従来のWindowsで開発者が利用していたプログラムのやり方(Win32と呼ばれる)をWindows 10のMicrosoft Storeでは当初はサポートせず、新たにUWP(Universal Windows Platform)を導入したが、それは開発者からまったく支持されなかった。
Windows 10の後期には、Win32ベースのアプリも特殊な方法で公開できるようにしたが、それでもMicrosoft Storeで公開されるアプリは思うように増えなかった。
実際、Windows 10がリリースされた当時、Windowsでもっとも人気がある「Microsoft Office」そして、Adobeの「Creative Cloud」のどちらもMicrosoft Storeにはラインアップされていなかった。そのため、ユーザーが利用しない>だからストアにアプリが増えない>魅力的なアプリがないからユーザーが利用しない――という悪循環に入ってしまっていたのだ。
今回Microsoftは、Windows 11でストアの運営方針を大転換した。Windows 11のMicrosoft Storeでは、そうしたWin32で作られたアプリケーションもそのまま公開できるようにして、アプリ開発者がより容易にMicrosoft Storeへソフトウェアを公開できるようにする。それと同時に、プラットフォーマーのMicrosoftとソフトウェア開発者とのレベニューシェアの仕組みを大きく変えてきた。
以前からMicrosoftは一般のソフトウェアベンダーには15(Microsoft):85(ソフトウェアベンダー)という業界の中で最もソフトウェア開発者に有利な仕組みを導入していたほか、ゲームパブリッシャには12(Microsoft):88(ゲームパブリッシャー)というユニークな低い取り分のレベニューシェア方式を採用してきた。この比率は他社に比べて圧倒的に低く、売上が多いゲームパブリッシャなどに評価されてきた。
Windows 11のMicrosoft Storeでは、そうした業界最高水準として低い比率のレベニューシェアに加えて、ソフトウェアベンダーが自社の課金システムを持っていれば、Microsoft Storeを経由して配布してもMicrosoftの取り分を0にする。これにより、たとえばAdobeのように、自社の課金システムで課金しているソフトウェアベンダーは、Microsoft Storeをより利用しやすくなる。
実際、その成果はすでに6月24日(現地時間)にMicrosoftが行った記者会見で明らかにされている。MicrosoftのOfficeと並んで、Windowsの人気アプリケーションであるAdobe Creative CloudがWindows 11のMicrosoft Store経由で配布することを明らかにしたのだ。
また、Microsoftは同時にAmazonが提供するAndroid向けのアプリストア「Amazon Appstore」と提携を発表し、Windows上でAndroidアプリを動かせるようになると明らかにした。Google自身が提供するGoogle Play Storeではないものの、Amazon Appstoreにも多くのAndroidアプリが用意されている。記者会見では、若者に人気の動画共有アプリ「TikTok」のAndroid版がWindows上で動く様子がデモされた。
こうしたAndroidアプリのサポート、そしてAdobeのCreative Cloudなどの人気アプリがWindows 11のMicrosoft Storeからダウンロードできるようになることで、アプリストアとしての魅力がこれまでと比べて大幅に高まり、集客率が高まることでさらなるソフトウェアベンダーをMicrosoft Storeに呼び込む――そうした好循環の実現に向け、期待値は高まっている。
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