また、自治体との事業共創も加速中だ。この領域をリードする同社Directorの山中良太氏はその経緯について、「特にディープテックとよばれる領域が、これからのイノベーションのトレンドになる。それを実行していくには“社会実装”が重要なテーマ。地方はディープテックを社会実装していくための重要な装置となる」と説明する。
そうしたなか、直近で注力しているエリアが「広島県」と「仙台市」だ。両自治体はともに、内閣府が選定したスタートアップ・エコシステム推進拠点都市。山中氏は、実際の取り組み姿勢からも手応えを感じているという。
広島県は4月21日、アクセラレーションプログラム「D-EGGS PROJECT」で30件のアイデアを採択した。「実証実験費用として1件あたり最大1300万円」という支援内容が話題で、国内外から400件の応募が集まったため、1次審査で100件に絞り、2次審査では「地域のニーズとスタートアップの思惑が合致するか、地域の課題に対してスタートアップがシナジーを感じて取り組めるか」という観点で、あらかじめマッチングを図り体制を作っていったという。
仙台市は5月19日、ビジネス創出支援プログラム「SENDAI NEW PUBLIC」を開催して、ビジネス創出に取り組んできた研究開発型の採択者8名による成果発表会を開いた。技術ドリブンだったこれまでの傾向が変化し、「地域の課題をしっかり捉えたうえで、自分たちの技術をこう役立てたい」という発表内容が目立った。日本の特許出願数は常に世界ベスト3に入るが、時価総額ランキング上位に日本の企業はまったく入らない。「技術をビジネス化する」チャレンジを増やしたいという。
今後について山中氏は「まずはこの2エリアをメインに自治体との事業共創に取り組み、実績を発信していくことで、“変わりたい”という新たな自治体が手をあげるようになったら、エリアを拡大していきたい」と展望を話した。
SAMURAI VISION 2030では、展開エリアを現在の4つから、日本、米国、アフリカ、中国、ロシア、EU、イスラエルの7つに拡大すると発表した。その理由について榊原氏は以下のように説明した。
「アフリカは、リープフロッグ現象という形で新しいイノベーションが起きている、最後に残された巨大なマーケット。SDGsのターゲットとしても大きい。中国は、たとえばファーウェイの経営手法などをしっかり勉強して、10年後には対等に付き合っていけるようにならなければと思っている。イスラエルは電気自動車など革新的な技術を持っている。EUは再生エネルギー、ロシアはファーマシー、スペーステック、米国はバイオ、ロボティクス、ヘルスケアがそれぞれ強いのでそこのナレッジを得て、日本企業がうまく取り入れてビジネスをスケールさせられるよう支援したい」(榊原氏)
日本の起業家がほぼ英語を話せないのに対して、海外スタートアップの経営者はどのエリアでも大半が英語を話せる、米国や欧州に留学経験がある、MBAを取得している、グローバルの知見やネットワークがあると榊原氏は指摘。「そこのコミュニティに入っていくのは相当大変」だが、アフリカを担当する米山怜奈氏をはじめ、現地ネットワークや“目利き力”を強化している。
米山氏は、「アフリカではそもそも大企業に就職するという選択肢がないので、自分でビジネスをして稼がないと生きていけない世界。この先端でスタートアップを経営されている方たちは、受けてきた教育、人口の多い国での熾烈な競争を勝ち抜いてきた経験からも、人間としての能力的にも尊敬できる人たちばかり」と話す。
サムライインキュベートは4月15日、「Samurai Africa Fund 2号」の組成を20億円超えで完了したばかり。米山氏にアフリカというマーケットの魅力を聞くと「面白さは、スタートアップの事業が国のインフラになる可能性があるところ。そういう会社に投資させていただき、事業をサポートできるのはすごくやりがいがある。一方で難しさは、アフリカの国々はGDPがまだまだ小さく、スケールするためには早い段階から他国に展開しなければならないところ。隣国であっても、現地のオペレーションを外国で構築するのは負担も大きい」と説明する。
今後は、スタートアップのエコシステムができあがりつつある4カ国(ナイジェリア、ケニア、南アフリカ、エジプト)を中心に投資を進めるという。榊原氏は「将来的には世界最貧国といわれる国にも展開して、この国に生まれてよかったなという幸福感を持てるような企業支援をしていきたい」と思いを語った。
最後に、今後の展開について聞いた。榊原氏は「グローバル化が大きなポイントだ」と切り出し、「日本には、日本のマーケットしか見ていないスタートアップが多い。それでは投資してもリターンが少ないため、機関投資家からの調達は見込めない。また、世界で時価総額の高い企業はM&Aに長けておりファイナンスで伸びているが、日本の企業は全く異なる企業を買収して伸びていこうという発想が弱い」と指摘する。
「僕らも、グローバルで勝てるようなベンチャーキャピタルをちゃんと持たないといけないと思っている。そして、日本の大手企業がファイナンスで一気に成長するような支援もしていきたい。リアルのビジネスをしっかりやりつつ、インターネットのサービスで伸びていくところに勝ち筋があると思う。スタートアップについても、マーケットをグローバル視点でとらえて躍進する、世界に誇れるような企業を日本からも出したい」(榊原氏)
そのために同社はこれから、新たなファンドの組成、採用の強化、事業の多角化などを進め、日本の大企業やスタートアップがグローバルに出ていけるよう体制を強化していくという。コロナ禍で考え至った「地球にとっていい世界を作るため」に、サムライインキュベートはこれから、さらに攻めていく構えだ。
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