宇宙産業で押さえるべき「4つの成長分野」と注目ベンチャー--宇宙エバンジェリスト青木氏に聞く

藤井涼 (編集部) 藤川理絵2021年07月08日 09時00分
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 「宇宙ビジネス」と聞いて、まだまだ遠いSFの世界だと感じている人も多いのではないだろうか。しかし、宇宙産業はすでに40兆円の市場規模があり、10年後、20年後には100兆円を突破すると言われている急成長分野だ。

 これを牽引するのは、まさに2021年に本格的にビジネスが立ち上がる、「宇宙インターネット」「宇宙ビッグデータ」「惑星探査」「宇宙旅行」という4つのトレンド市場。またロケットや、AI解析、スペースポート誘致といった、関連産業の事業展開も進みつつある。

宇宙エバンジェリストの青木英剛氏
宇宙エバンジェリストの青木英剛氏

 そこで、宇宙工学を学んだエンジニアでベンチャーキャピタリストとしても活躍する“宇宙エバンジェリスト”の青木英剛氏に、宇宙ビジネスの最新事情を聞いた。政府主導で宇宙開発を進めてきた日本においても、大企業と宇宙ベンチャーのコラボレーションが加速しており、宇宙技術の活用や宇宙ビジネス参入は、あらゆる業界において「待ったなし」の状況だという。

「民間主導」で宇宙産業を盛り上げたい

——最初に、青木さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

 私は日本の高校を卒業後、米国の大学と大学院で宇宙工学を専攻しました。同時に、飛行機のパイロット免許も取得して、パイロットとして飛行機を操縦しながら、「ロケットや人工衛星はどうやって作るのか」「それはどうやって飛ばすのか」という宇宙航空の研究を行い、日本に帰ってきました。

 新卒で入社したのは三菱電機です。意外と知られていませんが三菱電機は宇宙業界の日本最大手で、私は宇宙部門に配属されエンジニアとして、日本初の宇宙船といわれる「こうのとり」や月着陸船の開発に携わっていました。

 そのあと、エンジニアを辞めてビジネススクール(MBA)に通いました。というのも、その頃は「宇宙ビジネス」という言葉すらなく(「宇宙開発」という言葉のみが存在)、日本の大手メーカーがどんどん海外勢に追い抜かれていく状況を目の当たりにして、「宇宙産業を日本が勝てるものにしていきたい」という想いが膨らんできたのです。

 そして、ビジネスを学ぶ中で、ある課題が見えてきました。「技術を理解した人が、ビジネス側に圧倒的に足りていない」ということです。私はエンジニア出身なので、「技術とビジネスの両方の観点から、宇宙産業を盛り上げることができれば」と思いながら、ビジネススクールを卒業しました。

——そこから、「宇宙エバンジェリスト」としての活動につながっていくわけですね。

 そうですね。まずは戦略コンサルティングファームに所属して、当時はまだ宇宙ビジネスをやっていなかった自動車、通信キャリア、銀行などの大手上場企業の経営者の方々に、「宇宙ビジネスを始めませんか」という提案をしていました。

 実はこの宇宙コンサル活動の成果もあり、いまでは100社を超える上場企業が宇宙ベンチャーへの出資や業務提携などにより、宇宙ビジネスへの新規参入を実現しています。ただ、やはりイノベーションをドライブするのはベンチャー企業だということもあるので、私自身は徐々にベンチャー支援へと軸足をシフトしました。

 ベンチャーキャピタリストとして世界中の宇宙ベンチャーに出資しながら、大企業とベンチャーのオープンイノベーションも促進して、新産業を作ってきたのですが、その過程で「宇宙産業には、たくさんのビジネスチャンスがあるということを、皆さんに広くお伝えしていくことが非常に重要だ」と考えるようになりました。

 このような過程のなかで「宇宙エバンジェリスト」という肩書きを自ら作って名乗り、いまは一般社団法人SPACETIDE一般社団法人Space Port Japanといった非営利の業界団体を立ち上げて、とにかく「民間主導で宇宙産業を盛り上げる」ことに焦点を当てて幅広く活動しています。

一般社団法人Space Port Japanのウェブサイト
一般社団法人Space Port Japanのウェブサイト

宇宙ビジネスは「待ったなし」の状況

——長年携わってきたなかで、青木さんは宇宙産業のどこに面白さや可能性を感じていますか。

 課題感とそこから見えたチャンスがあると思っています。まず最初に、日本の宇宙産業はほぼ政府主導で行われてきたという背景もあり、種子島でロケットが打ち上げられたというニュースが報じられても、企業経営者の方々からの見え方としては「政府とJAXAがやっている話だよね」「自分たちには関係ない」という感じでした。

 それがここ直近で、大きく変わってきています。2021年度から政府の予算も大幅に増えましたし、それを資金源としたベンチャー企業とのコラボレーションなど、新たな市場を創出する動きが起きはじめています。

 また、2020年に「アンカーテナンシー」という言葉が、宇宙基本計画の改訂版に盛り込まれたことも大きな転機です。これは、米国では10年以上前から存在している制度で、私も5〜6年前からずっと日本政府に対して提案し続けてきたのですが、数年間議論された末に昨年ようやく入りました。

——アンカーテナンシーとは、どのような制度なのですか。

 アンカーテナンシーとは、政府による長期購入契約のことです。政府が最初の顧客になってサービスを購入することを約束するので、政府も一定額は開発費用を支払うけれども、基本的には企業が独自で自己資金を集めて開発を進めてくださいね、その代わりサービス調達という形で政府が顧客になりますという制度です。

 従来は、政府がロケットや衛星の開発を民間企業に発注して、開発にかかった費用に利益を上乗せして支払うという方式でした。これでは原価低減のインセンティブも競争の論理も一切働かないので、ビジネス的にはあり得ない構造です。

 一方で米国をはじめ海外では、アンカーテナンシーを活用することで、政府、投資家、ベンチャー企業が一体となって宇宙産業の振興を促進しています。たとえば、NASAがSpaceXと契約をしてロケットの打ち上げサービスを購入しました。これを見た投資家がSpaceXの将来性を期待して出資します、ベンチャー企業としてもリスクを取って頑張ります、それで打ち上げに成功したらNASAがまた発注して、投資家がさらにお金を出すという、良い感じのサイクルが回っているのです。SpaceXの成功とアンカーテナンシーの関係は切っても切れないのです。

 日本でもしっかりと制度を作ることで、JAXAが安くサービスを調達でき、民間企業にコストダウンのインセンティブも生まれ、そこで浮いた政府の予算を、たとえば火星の探査や小惑星探査機「はやぶさ」の次号機開発など、民間ではできないことに注ぎ込めるのです。アンカーテナンシーは、日本の宇宙産業や民間企業がより飛躍するための大きなステップになってくると考えています。

——宇宙に対してSFみたいな遠い世界だと感じている人が一般的にはまだまだ多いと思いますが、しっかりビジネスチャンスが生まれているということですね。

 そうですね。グローバルで見るとすでに40兆円という巨大な市場が存在しています。たとえば、スマホの位置情報、衛星放送による生中継、Google Mapの写真、電車の運行システム、気象予報など、皆さんが意識していないところで、空気や水のようになくてはならないものとして、産業界に根付いてビジネス活用されているのが宇宙技術なのです。

 それが10年後、20年後には、100兆円を超えると言われています。この伸びしろは、いますでに成立しているところではない、新たな産業として急激に盛り上がってきている分野が牽引していくということで、宇宙にこれまで目を向けていない企業にとっても、参入の余地がすごくあるという状況です。

 数十年前のIT産業の発展を思い返すと、いろいろな企業がITを導入したところからビジネスチャンスが生まれましたが、まさにあのような形で、ほぼすべての業界の企業が宇宙技術を導入するという、むしろ放っておくとチャンスをとりこぼしてしまう「待ったなし」の状況が、目の前まで迫ってきているというのが宇宙ビジネスの現状です。

宇宙産業を成長させる「4つのトレンド」

——宇宙産業のなかでも、青木さんが特に注目しているテーマはありますか。

 宇宙産業は、数年間は同じトレンドが続きがちなので、これから10年に渡り続くといわれる大きなトレンドを4つご紹介します。(1)「宇宙インターネット」、(2)「宇宙ビッグデータ」、(3)「惑星探査」、(4)「宇宙旅行」です。

 まず1つ目ですが、今後100兆円になるであろう市場規模の約半分を占めるといわれているのが「宇宙インターネット」です。ここにはすでにSpaceX、アマゾン、OneWebという3大巨頭が取り組んでいます。

 世界の人口78億人のうち40億人近くは、いまだにインターネットに接続できていません。十分な高速インターネット環境がない人も合わせるとその数はもっと多くなります。この方々にいかにインターネットサービスを提供していくかというところがポイントです。いま最もビジネスチャンスがありそうなのは、いまだに十分な高速インターネット接続環境がなく、Netflixなどの動画配信サービスがうまく見られない北米の地方に住む人向けの人工衛星を介したインターネットサービスです。

 SpaceXはすでに1000機を超える人工衛星を打ち上げており、一部ベータ版ですが「スターリンク」というサービスを開始しています。日本の企業としては、ソフトバンクがOneWebに出資しており、KDDIがSpaceXと協力関係にありますが、潤沢な資金を必要とする事業のため、スタートアップの参入は難しいと考えています。

米国時間6月29日に開催された「Mobile World Congress 2021」において、8月から全世界で「スターリンク」が利用可能になるとの見通しを明らかにしたイーロン・マスク氏
米国時間6月29日に開催された「Mobile World Congress 2021」において、8月から全世界で「スターリンク」が利用可能になるとの見通しを明らかにしたイーロン・マスク氏(提供:米CNET)

 2つ目の「宇宙ビッグデータ」も、非常に期待されているマーケットです。衛星から見たデータ(地球の情報)はまさに“神の目”で捉えた情報とも言われ、ドローンや航空写真では絶対に撮れない広範囲な画像を国境など関係なく取得できます。これがいま、政府のみならず企業経営の意思決定の材料として、必須になりつつあるのです。

 分かりやすい例を挙げると、先日、ルネサス エレクトロニクスの半導体工場が火事になりましたが、工場の火災状況、関連会社の稼働状況、顧客である自動車メーカーの出荷台数、競合の対応状況などの現状把握に、人工衛星で取得したデータがかなり使われていました。これらを毎日モニターしてサプライチェーンや競合他社の動向をしっかりと見て、迅速に次の手を打っていく企業と、そういうことに鈍感な企業とでは圧倒的に意思決定スピードに差が出てきています。

 このような流れを受けて、宇宙ビッグデータの解析を手がける企業も、どんどん増えてくると思います。海外で最も有名なのは、Orbital Insight(オービタルインサイト)という企業です。「ただ写真を売るのではなく、情報に変換して売っていくビジネスが盛り上がってくる」というのが海外では通説ですが、同社は人工衛星の画像データとスマホ経由で入手できるビッグデータを組み合わせて、付加価値の高い情報を提供しています。まさに“インフォメーション売り”や“インサイト売り”という潮流を捉えたサービスです。

Orbital Insightのウェブサイト
Orbital Insightのウェブサイト

 日本では、AIを強みとして画像解析サービスを手がけているRidge-i(リッジアイ)にも注目しています。2020年のモーリシャス座礁事故では重油の流出状況をいち早く解析して、情報を提供していました。

Ridge-iのウェブサイト
Ridge-iのウェブサイト

 3つ目の「惑星探査」では、月と火星が非常にホットなテーマになっています。月については、政府がやりたいことに対して民間企業がサービスを提供するBtoGビジネスが主流ですが、月面着陸船を開発する宇宙ベンチャーが現れるなど、民間の動きは活発です。

 火星については、まだ各国政府としても予算を注ぎきれないため、無人探査機を送るに止まっていますが、たとえばSpaceXは「10年以内に火星に人を送り始めて、人が住めるようなコロニーを作る」と発表しており、実は民間企業が先にやってしまうのかなと思いますし、こちらも待ったなしの状況です。

——4つめの「宇宙旅行」は、元ZOZOの前澤氏が12月に日本の民間人としては初めて国際宇宙ステーションに滞在するというニュースもあり、とても話題になっていますね。

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