2021年もまた、Appleの年次開発者会議「WWDC」で拡張現実(AR)メガネは発表されなかった。完全オンライン開催としては2度目となる同社の開発者会議で、長らく待ち望まれている仮想現実(VR)ヘッドセットやARヘッドセットについては、情報が小出しにされることもなかったのだ。ARの大々的な新しい宣伝もなかった。基調講演に参加した人は、AppleがもうARにほとんど力を入れていないとさえ思ったかもしれない。少なくとも、今のところはそう思える。だが、2021年はまだ終わっていない。
実のところ、注意して見ると、パズルのピースは既にあちこちに散りばめられている。Appleの開発者向けツール「ARkit」と「RealityKit」には高度な機能が追加され、管理できるオブジェクト数が増えて、現実世界に重ねる仮想背景も大きくなった。また、中核アプリにもAR技術の一部が取り込まれ始めている。「マップ」には、「Googleマップ」で既に採用されているARナビゲーションが追加される。「Googleレンズ」のように、写真の中で、または「カメラ」アプリを介して文字を読み取り検索する機能をAppleも導入している。
最高経営責任者(CEO)のTim Cook氏が、WWDCの仮想ステージに昇り、「ミー文字」の聴衆に向き合った。ミー文字は3年ほど前に登場したAppleのARアバターだ。おそらく、自宅から参加しているわれわれ視聴者の気分を代表する役割なのだろう。それを見ながら、筆者はこれからのテレプレゼンスについて考えていた。
Appleには、ARを使った独自のソーシャルコミュニケーションアプリがまだない。他社からは既に出ていて、ヘッドセットやスマートフォン用にVRおよびARアプリを展開しているSpatialもそのひとつだ。これらのアプリの多くは、そこに存在しているという感じや注意を向ける感覚を作り出すために空間オーディオを利用している。Facebookも、ARメガネをかけたユーザー同士がコミュニケーションをとるとき、空間オーディオが土台になると考えている。
一方、Appleは「iOS 15」で「FaceTime」通話に空間オーディオを導入する予定だ。VRまたはARのソーシャルアプリで遊んだ経験がないと、FaceTimeに空間オーディオというのは、過剰に感じるかもしれない。筆者もiOS 15では試していないが、空間オーディオは思った以上に重要かもしれないと感じている。大勢のグループでは、誰がどこにいるのかマッピングするのに役立つ可能性があるからだ。FaceTimeのグリッドでは、そこまで重要ではない気もする。だが、今後FaceTimeでホログラムが浮かぶルームができれば、Microsoftが「Mesh」や「Hololens」で既にやっているように、これが重要な鍵になる可能性がある。空間オーディオは、AppleのARKitの機能に組み込まれることも増えており、次はどうなるかが楽しみだ。
FaceTimeに追加される共有ツールは、Zoomにようやく追いついたという感じではあるものの、やはりとても重要に思える。AppleがAR/VRメガネ用のOSを開発していて、そのOSに世界を共有できる機能を付けるとすれは、Appleはユーザー同士がどうやって瞬時につながり、アプリやコンテンツなどをお互いに見せ合えるようにするか、その方法を考え出さなければならない。自社のFacetimeツールを進化させるのは、まさにその第1歩のように思える。
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