仕事と育児の両立--オランダで始めた「パパの日・週3日勤務」で気づいた大切なこと - (page 2)

働く時間が減ると収入も減る?実際に起こったこと

 そうすることでまず、時間的にだいぶ余裕が生まれました。それまで週5日勤務でこなしていた仕事も、他の人に頼ることで、僕自身は週3日しか働かなくてもこなせるように少しずつなりました。

 しかし、次は「収入」の心配です。他の人に頼るということは、もちろんそれだけ自分の手元に残るお金も少なくなるということ。この話をするとよく、「収入が減ることに不安はありませんでしたか?」と聞かれます。

写真:三浦咲恵(Sakie Miura Photography)
写真:三浦咲恵(Sakie Miura Photography)

 実は意外なことに、収入はむしろ少し増えたんです。それまで週5日勤務だったころは月に約120時間働いていたのが、週3日勤務になって約60時間に減りました。それでも、自分は企画や営業活動に専念するうちに、ありがたいことに新しい仕事の相談が舞い込んでくるようになったんです。

 どうしてどうなったのか、自分なりに考えてみると、時間に余裕が生まれた分、新しい仕事を作るための活動として、これから書いていきたいテーマや編集者として普段心がけている工夫についてブログで発信するようになりました。このブログの執筆も他のライターさんにお願いしたのですが、それを読んで相談してくれる人が現れたんです。

 つくづく、働く時間と収入にはそれほど関係はないんだなと。頭では分かっていたけれど、育児のために思いきってリスクを取ったことが幸いしました。むしろ、パパの日を始めていなければ、収入が増えることもなかっただろうとさえ思います。

「仕事したい」葛藤で中途半端なパパに

 と、すべてが順風満帆だったかのように書いていますが、そんなことはもちろんありません。「パパの日」「週3日勤務」に移行してからの1年間は、常にイライラしていたと思います(苦笑)。

 まず、育児に専念する日は仕事をしている日よりも疲れるんです。これは子どもと接したことがある人なら分かっていただけるかもしれません。そして、一番辛かったのは、やはり「自分のやりたいことができないこと」。

 パパの日を始めたり、週5日勤務を週3日勤務にすると決めたのは自分なんですが、それでも子どもと遊びながらも「あれもやりたい、これもやりたい」と、頭の中にはどうしても仕事のアイデアが浮かんできて、いろいろなやりたいことが「積ん読」のように積み上がっていく。あのころの僕は、子どもの目の前にはいるものの、ただいるだけで、「心ここにあらず」な中途半端なパパだったと思います。

 子どもが一人遊びをしている間、こっそり目を盗んでそっとPCを開いて仕事しようとしても、すぐに「パパ、こっち来て遊ぼう〜」と呼ばれて、そうもいかない。この「自分でコントロールできないこと」について、なんともならないと悩んでしまう時期は本当に辛いんですよね。

 1年くらい経って、ようやくこの状況に慣れてきたときと思ったのは、「自分でコントロールできないことにはもう慣れるしかない」という、身もふたもないことでした。

写真:三浦咲恵(Sakie Miura Photography)
写真:三浦咲恵(Sakie Miura Photography)

「パパ」「ビジネスパーソン」「夫」、どれも大切に

 じゃあ、どうすればいいかというと、もう「育児を楽しむ」しかないんですよね(苦笑)。「あれもやりたい、これもやりたい」と仕事のことが頭にちらつくのは、自分にとっても子どもにとってもよくない。いまではもう「パパの日は仕事はいいや」と、PCに向かう気さえなくなりました。ようやく慣れてきたんでしょう。

 それでも、いまでも育児と仕事の両立がうまくいかない日もあります。「今日は子どもを一度も怒らなかった」という日もあれば、次のパパの日にはイライラして、大人げなく叱って自己嫌悪におちいったり……いまでもそんな繰り返しばかりです。

 パパの日を2〜3年続けて思うのは、僕は「パパ」でもあり、「35歳のビジネスパーソン」でもあり、「夫」でもあり、そのどれもがよい状態で保たれていることが大切だということ。

 「育児で思うように仕事ができない」と感じていたら、夫として奥さんにイライラをさらけ出してしまいがちだし、35歳のビジネスパーソンとして「仕事があまりうまくいっていない」というときは、たとえ子どもの目の前にいても、パパの顔をしていなかったりするんです。

 逆に仕事の調子がよいときは、「よし、今日は育児に専念するぞ」「子どもと思いっきり遊ぶぞ」と、いいパパになれる日が多い気がします。そうやってご機嫌だと、奥さんに対しても優しい夫でいられるのかなとも。

写真:三浦咲恵(Sakie Miura Photography)
写真:三浦咲恵(Sakie Miura Photography)

 だからきっと、「仕事か育児か」ではなくて、「仕事も育児も」大事。「そんなこと分かってるよ」と言われてしまうかもしれませんが、いい仕事をするにはいい育児が必要で、いい育児をするにはいい仕事をしていたほうがいいんでしょうね。

 最後に、もし「本当はもっと育児がしたい」という僕のような、特に男性がいたら、奥さんやパートナーの人にそのまま、そう伝えてみてはいかがでしょうか。きっと一緒に、どうすればまわるか、考えてくれると思いますよ。

岡徳之

編集者/Livit代表

2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』

Twitter:@okatch

Webサイト:http://livit.media/

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