みなさんは今、どんなワークスタイルで仕事をしていますか?
日本では今、「ブレンデッドワーク」というワークスタイルが浸透しつつあるようですね。これまでの「9時5時」の生活から、「3-2-2」、つまり3日はオフィス、2日は在宅勤務、そして、2日は休みというスタイルに移行しているという話も聞こえます。
マイクロソフトなど海外の大手テック企業でも、この夏以降、オフィス勤務を再開するという話がありますし、おそらくコロナワクチンの接種の広がりにともなって、少しずつまた「オフィスへと戻っていく」というのが主流なのではないでしょうか。
リモートワークを始めて、はや8年。僕が「国境なきリモートワーカー」としてどんな日常を過ごしているかというと……。
まず、社員とはここ2年間、1度も会っていません。もちろん、コロナで会えないからということもありますが、コロナ以前も顔を合わせるのは年に1度だけ。しかも、世界のどこかでたった2~3時間、食事をするだけで、その後は「また1年後。続きはチャットワークで」というやりとりしかしていませんでした。
実際、彼と顔を見て話すのも、月に1度のマンスリーミーティングだけ。それも30分程度で終わってしまいます。
そんな僕も、実は一度、オフィスを構えたことがあります。あれは2014年、僕がまだシンガポールにいたころでした。
それまでもリモートワークで成り立っていたのを、なぜかリアルオフィスを構えることにしたんです。理由は、これはもう完全に若気の至りだったんですが、ただただ「オフィスを構えてみたかったから」。小さい会社とはいえ、「経営者ごっこ」のようなものをやりたかったのかもしれません。
そんな経緯でしたから、オフィスを構えたころはとてもワクワクしました。隣に同僚がいて、遠くのほうで同じオフィスで働く人たちの声がざわざわと聞こえる。
12時くらいになると、「そろそろランチでも行きますか」と言って、みんなでカフェに行き、メニューを注文するために並んでいる列で世間話をし、食べ終わったらコーヒーを買ってオフィスに戻る。「ああ、これが会社か」と満足感に浸っていました。
当時は、僕も含めて4〜5名で働いていたのですがオフィスライフを楽しんでいたのは、どうやら僕だけだったようです。リモートワークからオフィスワークに切り替えた途端、あるメンバーのパフォーマンスがガタ落ちしました。
「調子はどうですか?」「ちょっとブレストにつき合ってもらえませんか?」と、それが彼にとっても息抜きになると思って、つい話しかけたりしていたんですが、彼にとってはそうじゃなかったんですね。
以前は黙々とリサーチをしたり、記事を丁寧に書いたり、パフォーマンスの高かった彼。なのに、オフィスワークになった途端、「なんだか頭が働かない」など “グチ” を言い出したり、ブレストも全然乗り気じゃなかったり。
そんな彼を、僕は「やる気がない。協力的じゃない」と決めつけていました。
しかし、「決めつけていた」と気づくには、もう少し時間がかかりました。
なんとかパフォーマンスを上げてもらうために、エクセルで仕事の進捗状況を管理したり。その管理のために、本来仕事に費やすはずだった彼のリソースが割かれ、仕事に手がつかず、さらにパフォーマンスが悪化してしまう悪循環に。
無理に鼓舞しようとすればするほど、オフィスの雰囲気も険悪になっていきました。経営者としてのプレッシャーもあり、ついには、「仕事しないならお金返してくださいよ」と、取り返しのつかないような言葉も口にしてしまいました。
今思えば、経営者はこうやって社員をつぶしていくんだなと想像できます。こうやって人が離れていく、こうやって人を切るところまで追い詰められていくんだろうな、とも。
でも僕は、社員を切るほどの、ときには経営者に必要なドライさすら持ち合わせていませんでした。罪悪感に負けてできなかった。人を育てることができない自分の未熟さを認めたくなかっただけなのかもしれません。
「もういい、彼が望むような状況を作るしかない」と、半ばヤケクソで、とにかくなんとかしてこの悪循環を “逆回転” させようと思いました。
管理のための雑務でパフォーマンスが下がっているなら、管理をやめよう。オフィスが嫌なら、もう一度在宅勤務にしよう。自宅を快適な作業環境にしたいなら、必要な経費を出そう。朝会も止めて、定例のミーティングも減らしていき、最終的には現在の月イチになりました。
リモートワークを再開すると、彼のパフォーマンスは再び上がり始めました。そのとき、僕はようやく気づいたんです。先ほどの話です。「自分は彼をやる気のない社員だと決めつけていた」ということを……。
そうしてようやく、僕は彼のことを理解しました。「世の中には誰かと一緒にワイワイやるのではなく、閉じた空間で、一人で黙々となにかに没頭することのほうが楽しいと感じる人もいるんだ」と。僕の気まぐれで始めたオフィスワークは、彼にとってどんなに窮屈だっただろう、とも。
オフィスワークからリモートワークになると、「メンバーがサボってしまわないか、心配になりませんか?」と聞かれることが、少なくありません。
特に、以前の僕のように、みんなで一緒にワイワイやりたい人、社員やメンバーをガチガチにしばっている人なら、そうヤキモキしても仕方がないでしょう。でも、実際はそうはならなかったんですね。
もしも誰かが、自分がやりたい仕事に、自分が選んだ環境で取り組み、また会社もそれをサポートしているのに「サボる」のだとしたら、その理由はもう、仕事や会社とは関係のないところにあることがほとんどだと思います。
それで切られたら、それはもう自分のせい。厳しい言い方に聞こえるかもしれませんが、リモートワーク時代に社会人に求められる要件とはそういうものだと思います。
では、月イチのミーティングだけで成り立つのはなぜか。
もちろん、職種にも大きく左右されると思いますが、逆にみなさんに問いたいと思います。すべての仕事の中で、「会議」というやり方でないとできない、進まない仕事とはどのようなものでしょうか?
すでにやるべきことが決まっていて、それをやる理由、それをやることでどんなことを成し遂げたいのかという目的、そのための役割分担や責任の所在、作業フローが決まっていれば、あとは各人が自分の持ち場を守り、タスクを進めていくだけ。もし、途中で迷いが生じても、誰かにチャットで聞けばいいのです。
「チャットよりも会議で話したほうが早い」ともよく言われます。これも議題に寄りますが、本当にそうでしょうか。「チャットだとうまくいかない話が、会議だとうまくいく」というのは、「相手に伝える」ことをどこか怠り、むしろ、相手の理解力や言語化する能力に頼っているのではないでしょうか。
少なくとも、会議に出てもらうことで相手が本来仕事に費やすべきだった時間を奪っているとは言っていいでしょう。
会議の本質は「リアルタイム」、つまり、相手と同期できることにあると思っています。逆にチャットの本質は「非同期」、自分のタイミングで相手に伝えられ、相手も自分のタイミングでそれを確認できること。だから各々が、各々の仕事に集中できるのです。
僕のチームが、リアルタイムで相手と同期し、顔を見て話す会議で話すことは、むしろ「オフ」に関すること。お互いにオフのモードで参加する場になっています。最近の調子や体調を気づかいながら、仕事とは少し離れたところで、自分や相手が気になっていること、やってみたいと思っていることをシェアする。それによって、「オン」=仕事でも相手に配慮できるようになります。
逆にそれ以外のことは、チャットで十分。たとえそれが、相手への指摘のような少し気まずいことであっても。
「リモートワークよりオフィスのほうが仕事がはかどる」という人のことを、僕は否定するつもりはありません。僕も以前は、オフィスでみんなとワイワイ一緒にやりたいほうでした。
大事なのは、「リモートワークか、オフィスワークか」ではなく、チームメンバーのお互いの特性を知りながら、それぞれがパフォーマンスを発揮しやすい環境を「自分で」選び取れるようにすること、そして、その相手の選択を尊重すること。
リモートワークにしても、オフィスワークにしても、「この環境は自分で選んだ」という感覚こそが大事であって、間違っても、働く環境を相手に強いることはしてはいけません。
「自分で選んだ」と本当に思える環境ならば、その人はそこで思う存分、本来の力を発揮するはず。それでも上手くいかないとすれば、それはリモートワークのせいではなく、自分に合った環境を知らない、自己認識など他のところに問題はあるでしょう。
そうしてお互いが、「今自分は自然体で働けている。それでいて力を発揮できている」と感じられたとき、私たちはそれを「本当のチーム」と呼べるのではないでしょうか。
岡徳之
編集者/Livit代表
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』『フューチャーリテール ~欧米の最新事例から紐解く、未来の小売体験~』。ポッドキャスト『グローバル・インサイト』『海外移住家族の夫婦会議』
Twitter:@okatch
Webサイト:http://livit.media/
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